世の不条理に不条理で対抗、『フィッシュマンの涙』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『フィッシュマンの涙

【評価】☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】クォン・オグァン

【主演】イ・グァンス

【製作年】2015年

 

 

【あらすじ】

 フリーターで生計を立てる平凡な青年パクは、楽に稼げると製薬会社の臨床実験に参加する。だが薬の副作用で、魚人間“フィッシュマン”になってしまった。ネットでフィッシュマンの噂が広まると、その真偽を確かめるためテレビ局の見習い記者が取材を開始。記者はフィッシュマンの映像を撮ることに成功し、韓国国民に大きな衝撃を与える。

 

 

【感想】

 薬を飲んだらフィッシュマンになってしまった、というシュールな設定の映画。ついゾンビ映画のような展開をイメージしたくなるが、フィッシュマンは非常に受け身で淡々としている。騒がしいのは彼の周囲にいる人々。新米のテレビ記者に性格のキツイ女友達、高圧的な父親に人権派の弁護士。それぞれの思惑や欲望が、フィッシュマンを翻弄していく。

 

 

 映画のトーンは緩めのコメディー。フィッシュマンを触媒に使って、韓国社会の反応を面白可笑しく描いている。反応の仕方が妙にリアルなようで、韓国で起こる様々な事件の流れをキチンとトレースしているようにも見える。国論が割れ、大企業が横車を押し、ヒーローが瞬く間に犯罪者になったりする。韓国人が観るとニヤリとしたり、腹を立てたりするのかもしれない。

 

 

 ただ色々な方向に種を蒔いているので、少しストーリーの勢いが足りなかった気もした。誰かを倒したり、何かを正したりするタイプの映画ではない。今の社会の有りようをチクチクと刺していく、ちょっと知的な映画といった感じ。主人公を前に出さないスタイルも、もどかしくはあったが効果的だったと思う。それと魚のお面の出来がなかなか凄い。パクパクした口の動きが、やたらとリアルで見入ってしまった。