僅かでも爪痕を残したい、『ある天文学者の恋文』 | 平平凡凡映画評

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映画を観ての感想です。

【タイトル】『ある天文学者の恋文

【評価】☆☆(☆5つが最高)

【監督】ジュゼッペ・トルナトーレ

【主演】オルガ・キュリレンコ

【製作年】2016年

 

 

【あらすじ】

 大学院生のエイミーは、歳の離れた大学教授エドと遠距離恋愛を続けていた。ある日、講義中にエドから私の代理の講師は誰かとメールが届くが、代理の講師から数日前にエドが亡くなったと発表され、エイミーは激しく動揺する。そしてその後も、エドから手紙やメールが届き続けた。

 

 

【感想】

 「ニュー・シネマ・パラダイス」はシビれる映画だった。好きな映画ベスト10、といった企画があれば、ちょくちょく名前が挙がってくる。映画に対する愛情が溢れ、可愛らしさもあり、そして何よりラストに切なさで涙がこみ上げてくる。感動をウリにする映画はたくさんあるが、こういう温かさに包まれる映画はとっても稀。何度観ても、アルフレッドからの贈り物と音楽にやられてしまう。

 

 

 何か面白い映画はないか、と訊かれたときにも安心してお勧めできる。ただ気を付けなければいけないのは、映画にいくつかのバージョンがあること。それぞれに良さはあるのだろうが、ディレクターズ・カット版は映画の良さが薄まっている気がする。劇場公開版に比べて、上映時間が50分くらい長く、話しもどこか冗長で切れ味が鈍っていた。監督の考えが、いつも正しい訳ではないのかもしれない。削る作業の重要さを見た思いがした。

 

 

 そしてこの「天文学者の恋文」は、ディレクターズ・カット版の悪い面が出ていた気がする。さすがに今のジュゼッペ・トルナトーレ監督に、物申すことは出来ないのだろう。ストーリーは、主人公の女性のもとに、死んだ恋人の大学教授から手紙やメールが送られてくるというもの。年の差カップルのラブストーリー、として観るのがいいのだろうが、なかなか綺麗に決まっていなかった。

 

 

 特に中盤以降、ジェレミー・アイアンズ演じる大学教授の姿が、次第に狂気に取り憑かれた老人に見えてくる。老いらくの恋を気軽に楽しむのでもなく、恋愛を達観している訳でもない。若い恋人に対する執着は、興醒めの域に足を突っ込んでいた。ストーリーの進展もダラダラしがちで、今はなき昼メロを延々と見せられているよう。老いと正面から向き合うと、こういう姿がリアルなのかもしれないが、ラブストーリーとしては失速気味で高揚感に乏しかった。