家族は恐い、『エル・クラン』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『エル・クラン

【評価】☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】パブロ・トラベロ

【主演】ギレルモ・フランチェラ

【製作年】2015年

 

 

【あらすじ】

 1983年アルゼンチン、独裁政権が崩壊後、失職した元軍人のアルキメデスは誘拐ビジネスに手を染める。家族を巻き込み、裕福な息子の友人を拉致して身代金を要求した。

 

 

【感想】

 実話を基にしているのが大きな強みであり、驚きでもある。1980年代の前半はアルゼンチンが混乱した時代のようで、何でもありといった風潮があったのかも。誘拐ビジネスに手を染めるのはブッチオ家、首謀者は父親のアルキメデス。フィクションなら、もっと作り込んだ映画になったと思う。サスペンス色を強めるか、いっそホラーめいた内容にするか、はたまたコメディーにするか。

 

 

 しかし実話に基づいたこの映画は、飄々と軽い調子を貫く。家業が誘拐ビジネスでなければ、温かみのあるホームドラマに見えたかも。劇中で使われている楽曲もノリのいいポップス。ウッカリすると、古き良き80年代を懐かしんでいる映画なのかと思えてくる。ただこの軽さが、次第に薄気味の悪さに変わっていく。

 

 

 家族や友達に頼った誘拐ビジネスはかなり雑。これで大丈夫なのかと、心配になる計画と勢いで犯行を重ねる。どこか牧歌的で、大きな犯罪組織なら漂わせそうな緊張感はない。個人事業と企業の差なのかも。それでも父親の狂気が、後半に進むにつれ、次第に明らかになる。家族を支配する利己的な父親。世界中のあらゆる場所に生息している。浅はかで、思慮の足りないハンニバル博士といった感じ。生存本能の強さを見せつけてくれていた。