悲劇にも見えるしもちろん喜劇にも、『教授のおかしな妄想殺人』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『教授のおかしな妄想殺人

【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】ウディ・アレン

【主演】ホアキン・フェニックス

【製作年】2015年


【あらすじ】

 新たな大学に赴任してきた哲学科の教授エイブは、人生の意義を見失い無気力に毎日を過ごしていた。しかしある日、教え子と食事をしている最中に、隣のテーブルから悪徳判事の噂を耳にする。その日以降、エイブは判事を殺害する計画に熱中し、いつしか生きる活力を漲らせるようになる。


【感想】

 毎度お馴染み、といった感じのウディ・アレンのブラックなコメディー。いい役者が揃い、高い質を保っていることに、いつものことながら驚かされる。全く老いを感じさせない仕上がり。変わらない映画のスタイルと、公開のペースには奇跡を見ている気分。難しいはずの映画製作を、軽々とやってのけている。ウディ・アレンは神に近い存在。


 今回の映画も、監督自身の不安や苛立ちを投影させたと思わせる内容。実存主義に入れ込んだ大学教授だが、すっかりふさぎ込んで鬱状態。恋への興味を失い、執筆も遅々として進まない。そんな時に取り憑かれたのが殺人計画。社会のために人を殺すことに、意義を見出し生きる気力を取り戻していく。


 病は気から、といった諺を実証しているようでもあり、またウディ・アレン版の「罪と罰」のようでもあった。深刻さとは無縁に飄々と軽やかに話しが進んでいく。クズのような人間を殺して何が悪い、といったワルノリもどこか爽快。前向きに生きることは案外簡単で、もしかすると恐ろしいことなのかもしれない。