天才はこうあるべきなのかも、『完全なるチェックメイト』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『完全なるチェックメイト

【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】エドワード・ズウィック

【主演】トビー・マグワイア

【製作年】2014年


【あらすじ】

 チェスでソ連に大きく遅れをとっていたアメリカに、ボビー・フィッシャーという天才少年が突如現れる。ボビーは、次々とチェスの最年少記録を塗り替え快進撃を続けていく。だが独善的で神経質なボビーは、周囲は振り回し一時はチェスの世界から姿を消してしまう。それでも世界王者のスパスキーを倒すため、ボビーはチェスの世界に戻ってくる。


【感想】

 ちょっと前に原作となる本を読んでいた。作者は子供の頃からボビー・フィッシャーを知る人物で、ボビー・フィッシャーの最晩年までを書き綴っていた。ただチェスに興味がないと、ボビー・フィッシャーがどんな人物なのかよく分からないが、日本滞在中にアメリカのパスポートが失効していて逮捕され話題となった。


 映画は、焦点を1972年に行われたチェスの世界選手権に絞っていた。原作はそこそこのボリュームがあり、細かなエピソードも披露されていたが、映画版ではボビー・フィッシャーの人生の大部分を気持ちがいいくらいに削ぎ落していた。原作を省略するのは当然の行為だが、端的なストーリーにまとめ上げるのは簡単ではない。原作より面白い数少ない映画を観た気がした。


 映画では、ボビー・フィッシャーを狂気の世界の住人として描いていた。原作本では気難しく嫌な奴といった印象が強かったので、大胆に踏み込んでいる感じがした。単なる嫌な奴よりも、狂気を含んだ天才の方が観客の理解を得やすいのかもしれない。トビー・マクガイアの精神を病んだ演技や、バランスを崩した心理描写も上手かった。天才が体感する風景を、一瞬味わったような気にもなれた。