大きな器は阿呆と区別が付かないのかも、『のぼうの城』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『のぼうの城

【評価】☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】犬童一心、樋口真嗣

【主演】野村萬斎

【製作年】2011年


【あらすじ】

 天下統一を目前にしていた豊臣秀吉は小田原城を包囲し、北条側に付く関東の城を圧倒的な兵力で次々と落としていった。そして石田三成を総大将とする2万の軍勢は、城代の成田長親の守る忍城に押し寄せ降伏を迫る。だが太平楽で“のぼう”と呼ばれる長親は、どういう訳か徹底抗戦を主張。癖のある武将たちと無謀な戦いを始めてしまう。


【感想】

 主人公の名前は成田長親。実在した戦国武将とのことだが、初めて聞く名前だった。今の時代に例えれば、中小企業の専務といったところなのだろうか。成田家の城主が小田原城へ向かったため、城代として忍城を預かることとなる。そして天下の豊臣軍を相手に、ケンカを始めてしまった。構図は従業員数2万人の大企業vs従業員数5百人の中小企業。


 勝てるはずのないケンカ。実際、歴史のメインストリートからは大きく外れている。原作の小説が大ヒットしなければ、成田長親や忍城の名前は無名のままだっただろう。物語として掬い上げなければ、どうでもいい戦と言われてしまいそう。ちなみに忍城があったのは埼玉県の行田市。失礼な言い方だが、無視して構わない場所のような気もしてくる。


 石田三成が率いる2万の軍勢に対して、大きな武器となったのが成田長親、通称“のぼう”のキャラクター。愛すべき“うつけ者”といったスキだらけの人物は、偉ぶるところがなく、領民も気兼ねなく付き合えてしまう。この主人公を演じていたのが野村萬斎。そして野村萬斎が期待に違わず、堂々と映画を背負い引っ張っていた。


 スキだらけの愚鈍さをコミカルに演じ、突如正気に戻ったかのようなキリリとした表情を見せる。この緩急やギャップに見惚れてしまった。特に後半の舞踊には凄さが息づいていた。これが本物の芸なのか、と思わせる踊りだった。立ち居振る舞いも現代人とは一味違う鋭さを持っている。野村萬斎を見るための映画といってもよさそう。ただ、ストーリー展開や合戦のシーンは少々期待はずれだった。映像面でもう少し頑張ってほしかった。