動力源はネガティブな感情、『苦役列車』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『苦役列車

【評価】☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】山下敦弘

【主演】森山未来

【製作年】2012年


【あらすじ】

 1986年、中学を卒業後日雇いの仕事で食ってきた19歳の北町貫多に、初めて友達と呼べる存在が出来た。更に古本屋でアルバイトをする女子大生に恋心を抱き、友達の助けを借りて声を掛けることができた。だが嫉妬深く屈折した貫多の性格が災いし、二人との関係が徐々にギクシャクするようになる。


【感想】

 社会の底の方で生きる青年の視点で人間を捉え、更に青年自身の姿を赤裸々に晒した映画。社会を批判し、成功者達に鉄槌を食らわすといった類の映画ではない。貧乏人の敵は金持ち、というよりかは同じく貧乏人だったりすることが多い。嫉妬や憎悪の対象は、隣にいる人間に向かいやすいのかも。


 主人公は19歳の青年。日雇い人足の仕事で生計を立てている。家賃を滞納し、金は酒と風俗通いに費やす。趣味は読書。原作は、芥川賞作家・西村賢太の私小説。僻みっぽく嫉妬深い性格で、至る所で鼻つまみ者の扱いをされる。そんな主人公を演じていたのが森山未来。彼がこの映画を一人で引っ張っていた。さすがの演技力。


 主人公の屈折した精神を、歩く姿勢や立ち姿で表していた。物欲しそうな顔や、卑しげな表情を惜しげもなく披露する。社会の吹き溜まりというべき場所に流されていきながらも、従順に飼いならされたり、カサカサに乾ききったりはしていない。湿気た生木のように、モクモクと不平や不満を撒き散らす。芝居が好きな人は、感じるものがありそう。


 映画は鬱々とした日常を、抑揚を付けずに描いている。天気で言えば、一日中ずっと曇りのマークが並んでいる感じ。時折日差しが差したようにも見えたが、錯覚だった可能性も高い。途中、リアリティーが乱れたりもするが、苦味は薄れることがなかった。甘い映画に疲れたときには、この映画が効いてくるかもしれない。