どこから撮ったんだろう、『剱岳 点の記』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『剱岳 点の記

【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】木村大作

【主演】浅野忠信

【製作年】2009年


【あらすじ】

 1906年、陸軍測量部の柴崎は、日本地図の空白地点を埋めるため剱岳への登頂を命じられる。しかし剱岳は人を寄せ付けない険しい山であり、前人未到の頂きとして知られていた。柴崎は案内人の長次郎と共に頂上へのルートを見つけるため山に入いるが、剱岳の厳しさをまざまざと見せ付けられることになる。


【感想】

 愚直に映像を撮り続けた山岳映画。スクリーンで観る価値のある映画だと思う。山の美しさは実際に体感しなければ分からないのだろうが、しかしこの映画は、カメラを使かい極限まで山の美しさに切り込んでいる。飽きることのない風景が、次から次へとスクリーンに登場する。普段見ることのできない山の表情は、ウットリするほどに多彩で厳格なものだった。


 雪に覆われた山が現れたり、緑豊かな山となったり、紅葉に彩られた山となったりする。吹雪の山もあれば、霧の山もあり、また晴れ渡り遠くに富士山を拝めたりもする。雄大な山の自然を存分に堪能させ、対比として人間の小ささが際立ってきたりもする。ロングショットのカメラで捉える人間の隊列は、何とも心許ない存在に見えてきた。


 しかし、単なる風景描写の映画ではない。山を一歩一歩進む登場人物たちの思いがしっかりと切り取られているので、ただのちっぽけな人間も山に向き合いながらそれなりのドラマを作っていた。ストーリーの部分でも健闘していて、見応えはある。無名の人々の思いが絡まりあいながら、それでも山頂を目指す姿はやはり絵になる。


 また、挿入曲のほとんどはクラシック音楽。かなり濃い目の音楽が聞こえてくるが、映像に力がこもっているので音楽が浮いてしまうことはなかった。きっと軽々しいエイベックス調の楽曲を使っていたら、映像の収まりが効かなくなっていただろう。クラシックは正解だったと思う。


 ただ、ちょっとガッカリしたのは手旗信号。気持ちが溢れ出てしまったのかもしれないが、思わずツッコミを入れたくなってしまった。愛敬といえば愛敬なのだろうけど。山には普段言えないことを言わせてしまう、ロマンチックな空気があるのかもしれない。山のよさが溢れている映画なのは確か。