ひょうたんから駒にも似た『人生に乾杯!』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『人生に乾杯!

【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】ガーボル・ロホニ

【主演】エミル・ケレシュ、テリ・フェルディ

【製作年】2007年


【あらすじ】

 年金で暮らすエミルとヘディの夫婦。慎ましい生活を送っているものの、家賃は滞り電気も止められてしまう。81歳のエミルには腰痛が、70歳になるへディには糖尿病があった。そして二人の思い出の品であるダイヤのイヤリングが差し押さえられたことで、エミルの怒りが静に爆発する。


【感想】

 「俺たちに明日はない」でボニーとクライドは、自らの意思で社会から外れて行き銀行強盗を繰り返した。その生き方は虚無的であり、また刹那的でもあった。二人の生き方は、当時の若者のシンボルともされていた。「俺たちに明日はない」が製作されたのは1968年。時代の空気を存分に吸った映画だったのかもしれない。


 それに対するのがこの映画「人生に乾杯!」。舞台となるのはかつての社会主義国ハンガリー、そして主人公はエミルとヘディの老夫婦。共産党の運転手をしていたエミルが手にしたのがチャイカという車。重たく野暮ったい車だが、エミルの思いが詰まった車であり愛情を注いでいた。


 家賃滞納の取立てで妻のイヤリングを差し押さえられたことで、エミルはチャイカを駆って強盗を始める。やがては妻のヘディも加わり、冒険に満ちた生活が始まったように見えた。ボニーとクライドが自らの意思でアウトサイダーとなったのに対して、この映画の老夫婦は社会に追い立てられて道を外れていく。


 しかし映画のトーンは至って穏やかで、ユーモラスな会話が散りばめられている。老夫婦の繰り返すぎこちない強盗が微笑ましくもあり、どこか応援したくもなってくる。そして映画は朗らかな調子で進んでいくが、老いや生活苦といった現実もチラチラと見せる。それでも夫婦の絆の強さが、何よりも最強の武器になっているのが嬉しかったりもした。


 追い詰められての逃避行の行き先は、かなりのインパクトを持っていた。悲劇とも取れるし、ハッピーエンドだったとも取れる。派手なアクションや難解なセリフはなくとも、こういう実直な映画を観ると少し気持ちが晴れてくるような気がする。