上り坂を一気にそして淡々と、『チェ 28歳の革命』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『チェ 28歳の革命

【評価】☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】スティーブン・ソダーバーグ

【主演】ベニチオ・デル・トロ

【製作年】2008年


【あらすじ】

 アルゼンチン出身の医師チェ・ゲバラは、南米を旅することで貧しい人々の置かれている苦境を知り共産主義に傾倒していく。そしてメキシコでフィデル・カストロと出会い、キューバのバティスタ政権を倒すために共に戦うことを決意する。彼らは100人に満たない兵士と共にキューバに向かい、ゲリラ戦を軸とした戦闘を開始。その2年後、チェはキューバ第二の都市サンタ・クララを陥落させ、首都ハバナへ向け進軍する。


【感想】

 革命という言葉はよく聞くが、革命を目の当たりにすることはほとんどない。“脳内革命”や“洗剤革命”くらいならひょっとすると体験することもできるのかもしれないが、政治的な革命となると難しいような気がする。東西冷戦が終結し主義主張が混沌としているため、錦の御旗が立ち難くなっている。軸がぶれると革命は起き難いはず。ただ、一本強固な軸が生まれれば、またドでかい革命が起こるのかも。みんな混沌は嫌いだろうし。


 20世紀に起こった政治的な革命で有名なのは、ロシア革命やイスラム革命といったものだろう。世界史の授業で軽く習った記憶がある。そしてキューバ革命も、なかなか粘りのある革命だったと思う。実態はどうであれ、50年間にも及びその熱を維持し続けたのは驚きである。“カストロ”という名前もしばしば新聞で目にするし。


 この映画は、革命家“チェ・ゲバラ”に光を当てている。名前くらいなら聞いたことがあっても、実際にどういう活動をしてきたのか詳しくは知らなかった。ウィキペディアによると、今でも世界的な人気を博す人物のようである。医師であり、旅人であり、革命家でもあるという。写真で見るゲバラの顔は確かに苦みばしったイイ男であり、今も愛され続け、映画の中で蘇るのも分かる気がした。


 ただゲバラが今尚これだけ好印象を与え続けているのは、早い時期に悲劇的な死を遂げたからだと思う。享年が39歳。これ以上生きていたら、果たして今と同じ人気を維持できたかは疑問。おそらくゲバラは信念の人であったはず。理想燃え、情にも厚かったのだろう。しかしキューバ革命が成功し、攻めから守りに転じると、様々な軋轢を生んだに違いない。革命家と政治家は微妙に違っている。真の革命家は、きっと革命後に不要となる運命を背負わされているのだろう。


 政治の世界で汚れる前にこの世を去ったというのは、伝説の男“チェ・ゲバラ”を生む条件だった気がする。日本でいえば、源義経や天草四郎、坂本竜馬や土方歳三といった役回りに似ているのかもしれない。純真さや情熱といったものは、年齢や経験と共に失われていくのだろう。カストロは、そう簡単にゲバラになれそうもない。自分を守るために手を汚しすぎると、多くの人から共感が失われていく。映画「夜になるまえに」を観ると尚更そう思う。


 映画は、ゲバラの日常を淡々と追っている。安っぽい感動作品にはしたくない、という監督の強い思いは伝わってきた。ただあまりに淡々としすぎているので、どこか拍子抜けしたのも事実。革命を成功させるという熱気もなければ、戦闘シーンの迫力もなかった。どこか他人事のような印象もあり、映画の中のゲバラに近しさを感じられなかった。ちょっと距離の取りにくい映画だったかもしれない。後編に期待。