視覚だけでは捉えきれない、『そして、私たちは愛に帰る』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『そして、私たちは愛に帰る

【評価】☆☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】ファティ・アキン

【主演】ベレン・ルエダ

【製作年】2007年


【あらすじ】

 トルコからの移民労働者アリは、定年して年金暮らしをしていた。たまたま訪れた娼館で同じトルコ出身の娼婦イェテルを気に入り、一緒に暮らすことを提案する。少し困った状況に陥ったイェテルはその話しに乗り、お金をもらいアリと暮らすようになる。アリの息子も二人を暖かく見守るが、アリとイェテルの間に不幸な事件が起こる。


【感想】

 オープニングのシーンは、一人の男が車を走らせトルコの田舎町にあるガソリンスタンドに立ち寄るというもの。粗めの映像で、乾いた土地の風景を映し出す。旅の途中には違いないようだったが、何のための旅なのかはさっぱり分からない。そして、このシーンに大して気を払うこともなかった。


 映画には、三組の親子の物語が据えられている。舞台はブレーメン、ハンブルク、イスタンブールそしてトルコの田舎町へと移っていく。ごくごく普通の人々が、ちょっとした躓きで人生が暗転してしまう。ごくごく当たり前に暮らしていても、痛みを伴う変化は当たり前の顔をしてやってくる。


 映画に派手派手しさはなく、生活の匂いのする路地裏を映し出しながら登場人物たちの日常を丹念に積み重ねていく。意固地であるがために親子の関係に距離が生まれてしまうが、どんな境遇にあっても寛容さを手に入れることはできるのかもしれない。そう思わせる何かが、この映画の希望の側面だった気がする。


 そしてラスト、映画は冒頭のシーンに戻っていく。最初は意味を見出せなかったシーンなのに、ラストではそこに隠されていた心情がはっきりと読み取れる。たった2時間ではあったが、随分と旅をしたような気にさせてくれる映画だった。物語を旅することの面白さをたっぷりと味わえる。地味だけれども見応えのある映画だった。満足。