妙に悪夢が懐かしい、『悪夢探偵2』 | 平平凡凡映画評

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映画を観ての感想です。

【タイトル】『悪夢探偵2

【評価】☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】塚本晋也

【主演】松田龍平

【製作年】2008年


【あらすじ】

 他人の夢の中に入いることのできる体質を持つ陰沼京一は、悪夢探偵と呼ばれていた。そしてこの日も一人の女子学生が京一の元を訪れる。彼女は同級生の女の子が夢の中に現れ、毎晩悩まされているという。京一に悪夢を取り除いて欲しいと頼むが、京一はにべもなく断ってしまう。だが彼女の悪夢は、恐ろしい事態を招くことになる。


【感想】

 毎晩、夢は見ているのだと思う。しかし、目が覚めると夢は見事なまでに消え去っている。夢が覚醒している時間を侵すことはほとんどない。夢自体を意識することも少なくなったし、ましてや悪夢に悩まされることなど皆無に近い。きっと自分が幸せな状態にいるのだと思うが、反面何か寂しいものも感じてしまう。


 子供の頃、夢はもっと鮮明に記憶できていたような気がする。夜は恐かったし、恐い思いは夢の中で現実となることもあった。今も子供の頃に見た夢を鮮明に覚えている。正夢にはなりそうもないが、それでもあの時ゾッとした感覚は微かに覚えている。夢は世界や将来が不鮮明な時に見るものなのかもしれない。子供の頃に見た夢はもっと生き生きしていた。


 大人になると自分の暮らす世界にも慣れ、将来も大体見通せるようになってしまう。ガチガチに固まった現実が、夢の入る隙間を奪ってしまったのかもしれない。しかしこの映画を観ていると、夢の手触りを思い出せるような気がしてきた。スクリーンに夢の中の世界が広がり、現実を後退さるおどろおどろしさがあった。


 主人公は、他人の夢の中に入り悪夢の原因を取り除くことができる。なので悪夢探偵。主演が松田龍平ということもあり、そそっかしい人は父親である松田優作の「探偵物語」を勝手にイメージしそうだが、トーンはかなり違っている。現実離れしている部分は同じでも、上に飛び上がるのと下に沈みこむのとではかなり違う。「探偵物語」には尖がった明るさがあり、「悪夢探偵」には捻じれた暗さがある。


 前作に比べると、今回はストーリーに大きな展開は見られなかった。同じ場所で足踏みしているようでもあり、監督の感覚と合わないと苦痛を伴うのかもしれない。それでも、悪夢を映像化するセンスはかなりのものだと思う。不快感を丁寧に撫でながら、薄気味悪さを生み出している。それでいてどこか懐かしく、和風の匂いが強く漂う。こういう映像世界を作れる監督は、そうそういないはず。心を広げて思いっきり感じる映画なのかもしれない。