Thu 090122 高校英語の授業を英語で行うこと 授業それ自体はむしろ楽しそうである | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 090122 高校英語の授業を英語で行うこと 授業それ自体はむしろ楽しそうである

 高校の英語の先生方は、そろそろ4年後に控えた「英語で授業」の準備に本格的に立ち上がらなければならない。「英語で授業」について、先生方に限らず一般の人も生徒たちも相当心配しているようで、そのキーワードで検索してこのブログに迷い込んで来られる方が驚くほど多い。

 既に2回にわたって指導要領改訂案「英語で授業」について触れたし、過去に指導要領がネグられた歴史も確認して、再び高校教育の現場でネグられる危険性も論じておいた(Thu 090108Fri 090109参照)。

 しかし、少なくとも高校教育の現場においては、「英語で授業」が実現しても、先生も生徒もそれほど苦労することはないだろうというのが私の意見。英語に全然自信のない英語の先生方も、別に転職のことを考える心配はないし、将来の高校生だってそんなに不安がる必要はない。

 むしろ、これから4年のうちに大きく変化する努力をすべきなのは、中学校の先生方と、入学試験問題を作成する大学側の関係者である。

「アメリカの赤ちゃんになりましょう」「文法なんかわからなくていいから、とにかく英語に肌で触れるようにしましょう」「親しんでいれば、そのうちわかるようになります」という英語教育には反対である(Sat 081004「アメリカの赤ちゃんになるな」参照)。

 理由はもうこのブログに詳しく書いてきたわけだから繰り返すことはしないが、ごく簡単に言えば「それでは時間がかかりすぎる、10年かかっても大人の英語に近づけない」からである。

 だからたとえ「英語の授業は英語で」になり「コミュニケーション重視」になっても、「ワケがわからなくてもいいから、とにかく口と身体を動かして」「歌を歌ったり、エアロビを楽しみながら」という幼稚園児みたいな英語教育にならないように心から祈っている。

 朝日新聞が大好きな「花マル先生」みたいなものがたくさん登場して、高校生相手に歌を歌い、踊り、歌わせ、ドラマを見せ、その程度の授業で「どうだ、英語って、楽しいだろ?」「英語って、難しくなんかない、楽しむんだ!!」と叫んで「感動と勇気を与えたい」とか言っているようでは、3日もたたないうちに飽き飽きされるだけである。

 

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(柔軟体操中)


 高校の教育現場で、先生方が安心して授業を行い、高校生たちが安心して授業を受けられるようにするためには、何といってもまず教材会社のしっかりとした努力と創意工夫が必要になるだろう。

 今までのようにリーディングの教科書と称して名作のアンソロジーを作っていれば済むわけではなくなるのだ。こぞってヒントにしなければならないのは、まあ誰が見ても「プログレス」である。

 もちろん現状でプログレスを無理して使用している高校では「これほど厄介な教科書はない」というのが意見の大半(または定番の意見)だから、思い切って難易度を大きく下げたものや、現行のプログレスほど教師や生徒の体力を要求しないライト級のものがたくさん試作されることになるだろう。

 プログレス以外にヒントにされるもの、言い換えればパクリの対象になると思われるものは(ちょっと古すぎる感じもするが)研究社「アメリカ口語教本」ぐらいである。ただ、プログレスやアメリカ口語教本を手許において想像してみると、高校の授業自体は、「原則として英語で行う」としても、さほど困難とは思えない。

(1)まず、中学生でも読める簡単なダイアローグを準備し、教科書には和訳もつけて予習させておく(もちろん授業中には和訳には決して立ち入らない)。授業はダイアローグのリスニングと音読練習から入る。(10分)

(2)ダイアローグ中の単語や熟語表現についての簡単な説明(5分~10分)。教材会社がテキスト中に入れて印刷してしまうか、教師が英英辞典から補助プリントを作成するか、授業中に英英辞典を引かせるかは、学校やクラスの習熟度別にその都度判断する。

 いま書店に出ているものとは比較にならないほど読みやすい英英辞典の出版も必要になるはずであり、「誰ももうジーニアスに勝てない」状況の辞書業界で、新たなビジネスチャンスになりそうである。

(3)ダイアローグ中の基本表現を5~10個とりあげて、基本表現中の単語や時制や人称を入れ替えるごく単純な「入れ替え練習」または「転換演習」を徹底して、基本表現の定着をはかる。(15分~20分)

(4)ダイアローグや、教材中の応用ダイアローグを利用して、生徒どうしの役割練習をさせる。教室内での個別演習に10分、授業のまとめとして「生徒vs生徒」で発表形式にするか「教師vs生徒」で数名指名するかでダイアローグの役割演習を5分。

 以上4段階で、50分授業を組み立てる。これに、習熟度に応じて、上級クラスなら(5)ダイアローグのサマリーを書かせる(6)ダイアローグの続きを書かせる(7)ダイアローグについて意見を述べあうなど、いろいろな工夫を付け加えることもできる。

 学力の余り高くないクラスなら、これらに代えて(5’)ダイアローグについての簡単な英問英答(もちろん事前に教師が準備)(6’)ダイアローグの途中からシチュエーションを少し変化させた発展ダイアローグ演習(これは教材会社で作成)なども考えられるはずだ。

 

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(深謀遠慮中)


 結果として、授業がうまく展開できれば、終了のチャイムが鳴ったときに、「ええっ、もう終わりなの」「疲れたア」「疲れたけど、面白かった」という生徒の反応が期待できる。上手な体育の先生や音楽の先生の授業と同じ感覚で、快い疲労感が生徒を包み込むだろう。

 毎回1セットがキチンと終了するように時間配分に気をつけながら、テンポのいい教室経営を心がければ、現在の訳読中心のリーディング授業にありがちな「ネムイ」「カッタリー」「これって役に立つの?」「うざくない?」「いつも途中の中途半端なところで終わる」というような、生徒からのマイナス評価は格段に少なくなると思われる。

 何よりも大切なのは、学力に合わせた教材の多様化である。特に低学力層のための教材の充実は必須。教材会社の腕の見せ所、というより、教材会社の4年間の努力に「英語で授業」の成否がかかっていると言ってもいいすぎではない。「アメリカ口語教本」入門篇や初級編のレベルの教材を、思い切って作れるかどうか、である。

(3)の「入れ替え練習」「転換練習」も、最初尻込みして「メンドイ」などと言っている高校生でも、中1中2並みの例文を素材にして、生徒が「こんなの誰でもできるぜ」という気持ちになったところで、先生がスピーディーにゲーム感覚で当てていければ、彼らの多くが「ケッコ、面白くない?」「ケッコ、ラクじゃね?」と言いながら乗ってくる可能性が高い。

 そうなれば、特に男子の食いつきが悪いかもしれない(4)の役割演習もうまく動き出しそうである。何だ、教材さえキチンと出来上がってくれば、授業それ自体の実施については、そんなに大きな心配はいらなそうである。

 文法事項をどう教えるのか。ニュアンスの説明を英語で行うだけの英語力を教師がどうつけていくか。辞書・参考書・練習用の傍用問題集はどのようなものが必要か。現在プログレスに準拠している音声教材と同じようなものはどう開発すべきか。塾の役割や大学入試はどう変わるか、中学校英語のあるべき姿は。

 考慮すべき問題はいくらでもある。明日からしばらくはこういう問題を考えていきたい。