みずほお腹を減らしながらふらふらと太陽の照りつける日射しの中で今にも倒れそうなほど照りつける太陽にみずほは倒れそうになりながらも歩いていた。暑さと急激な腹痛で倒れてしまったあの日とも違ううだるさだった。
<グゥー>お腹ぎグルグルと鳴っていた。
「あー、お腹が空いた。死にそう」みずほはお腹を抱えながら悶えていた。
(今どき餓死なんて、戦時中じゃあるまいし、恥ずかしいよ・・)
みずほは立ちくらみを覚えていた。あともう少しで関根病院に辿り着きそうだった。覚束ない足取りになり、電信柱に思わず寄りかかった。歩けなくなるということは滅多にないことだった。歩けなくなるということを人生で記憶にある限りでは初めて実感した。みずほは電信柱に凭れかかりながら、立ち止まっていると、一台のタクシーが止まった。
中から出てきたのは悠人だった。
「大丈夫・・ですか?どうかなさいましたか?」悠人の声に胸を押さえたみずほがゆっくりと顔をあげると、お互いがびっくりしたように目を大きく見開いた。
「あっ!!」悠人はびっくりしたような顔で思わずみずほをみた。
みずほもひもじさを忘れてびっくりのあまり心臓が破裂しそうになった。
「あっ!!」みずほも驚いた顔で思わず絶句した。
「あっ、あなた、あ、あお、あおなさん?」悠人は思わず固唾を飲んでみずほをマジマジとみた。
「あなた、あの誘拐事件のあの時の、窓越しからみていたあの、少年?」みずほも緊張しながらもかろうじて言葉を返した。悠人はみずほの目をまっすぐに見据えてうなづいた。
「・・・そう・・・君はあの時、ピアノを弾いていた?」
「・・・うん・・」みずほがうなづくと、悠人の表情(かお)にはみるみると信じられないといった顔に変わっていった。
「・・・嘘だろう」悠人は改めて信じられないといった面持ちで両手で電信柱に凭れかかっているみずほの両肘を握った。
「私も信じられません!!何処かで聞いたことがある名前だとは思っていました!でも確かに死にかかっていたあの少年なんだと昨日、訳もなく確信を持ったんです!」みずほは弱々しい声でいうと悠人は衝動的にみずほを抱きしめた。