「あら、やだ!!そんなこと誰が言っていたのかしら?文香ちゃんがそんなことを言っていたの?」茂登子は良子の表情(かお)を伺うようにいった。
「それは・・・」良子は思わず黙りこんでしまった。
「そうね、あるとしたらあの家のローンじゃないかしら?」
ー不動産の事業に失敗したのよー
文香が泣きながらいった言葉を思い出した。
「オタクさんは不動産の事業をされていたのかしら?」良子は勇気をだして聞いた。
「えっ?」茂登子は思わず顔をしかめたが、茂登子は何の動揺もなく真顔に戻った。
「・・・不動産の事業?あっ、はい、あれはほんの短期間やっていましたが、主人の市議の仕事が忙しくなったりしたのと、別の事業の方が採算がよくなり、なんてもうしますの?別に失敗したという訳ではないですの。ただ急にやめてしまったからそういう風に捉えられる人もいるかもしれないですわね。噂は尾ひれがついて回ってしまうものですから」茂登子は動じることもなく理路整然とした口調でいった。
「・・そうですか?」
「ええっ。有るとしたら家のローンぐらいですかね?ホホホ」茂登子が余裕綽綽に微笑みを浮かべるから良子も徐々に緊張が溶けて微笑むようになっていた。
「もし何か聞きたいことがございましたらいつでもなんなり言ってくださね。これから家族になるんですから」茂登子は優しい口調でいうと良子の表情(かお)にも微笑みが戻ってきた。
「すみませんね、変なことを聞いてしまって!!」違和感を感じていた良子にもいつものお人好しの素顔が戻ってきていた。
「いいえ。何処から聞いたか知らないけれど、そういったことは大事なとても大事なことですから」茂登子はそういってコーヒーを飲むために俯いたとき、一瞬、鋭く醒めた瞳(め)になったことに良子は気付かずにいた。
「今日、添田さんに会ってきた」悠人は暢三にいうと暢三は思わず言葉を失った。
「・・おまえ、あ、あいつに会ってきたのか?」悠人の言葉に暢三は少し動揺したようにいった。
「俺はどうお詫びすればいいんだ。もしあいつが死んでしまうようなことや障害を背負ってしまったら、俺はどうやって詫びればいいんだよ!!」悠人は涙を流しながらいった。
「悠人、落ち着きなさい。おまえは何も悪くないんだから、落ち着きなさい」
「オヤジ、あの人は一体何んだ?一体何があったというんだよ。まったくわからないし、とてもつらいんだよ。あの人の母親は教師なんかじゃないよ。オヤジ、前にあの人の母親は教師だって言っていたじゃないか?」
「いつ言った?」
「俺が助かった時だよ。あいつは統合失調症だっていっていたじゃないか?俺はオヤジのいったことを覚えているよ。でも実際は嘘ではなくホントに実の母親は教師ではない。あの海で働いていた人だったそうじゃないか?」悠人は暢三にあの時、あいつの言うことは嘘だと信じ込まされた不満をぶつけた。
「覚えてないけれど、私は教師だと聞いていた。多分、再婚した母親のことだったんだろうな?あまり、あいつの家のこと聞いたことなかったな」
「オヤジ、添田さんと何があったんだよ。ホントのこと教えてくれないか?」
「いろいろあったけれど・・・いろいろ恨まれているのかもしれない」暢三は弱気な心情を吐露した。
「いろいろって何だよ?オヤジ、あの人の自殺した母親のことを何かあったのかよ」
「それは知らない。私も添田の実母のことなど知る訳がない。何の関わりがなかったし」
「オヤジ、何かを隠していないか?頼むからホントのことを教えてくれ」
「私は相当恨まれたものだ。それなら私に言えばいいのに。恨みつらみをだ。なんで関係のないお前たちにいくんだ?理解に苦しむよ」
「あの人に自首を勧めたとき、オヤジはこれからも面倒をみるといったみたいだけれど、結局は見捨てたそうじゃないか?」
「そりゃそうだろう。自分の息子を殺そうとした男の面倒をみる、バカはどこにもいやしないよ」暢三は吐き捨てるようにいった。
「クラタ工業の反対運動が起きたことに関しても言っていたけれど、その事で何かあったの?」
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