「身代金の要求はまだきていないようだ」蔵田は妻の尚代にいった。尚代はカーディガンを着て、病弱な血色の悪そうな顔で、目の下にはどす黒いクマができ、今にも崩れ堕ちそうなほど憔悴していた。
「なんで、どうしてうちの子がこんな目に合わなきゃいけないの。言いたいことがあるなら、私たちに直接いえばいいじゃない。子供には罪はないのに・・・」尚代の目から涙がポロポロが溢れ堕ちた。
「これは脅しなのか?子供を盾にとった脅しなのか?卑劣な奴らだ」蔵田は受話器を叩いた。
「悠人、今、どこで何をしているの?お腹空いていないかしら?」
「大嶋ー!来い!」蔵田の叫び声に、階段を駆け上がる足が部屋の前に止まると大嶋がドアを開けた。
「はい!」
「警察にいって必ず犯人を捕まえるようハッパかけろ!なんなら懸賞金をかけてもいい。一刻を争う。息子を誘拐した男を警察と探偵両方使ってもいい。探し出せっ!」
「はいっ!」大嶋は礼儀正しく頷くと部屋を出て行こうとした。
「大嶋っ!」蔵田の呼びかけに大嶋は思わず立ち止まった。
「はい」
「添田に連絡してくれないか?」
「あっ、は、はい」大嶋は戸惑いながらもうなづいた。
「息子の居場所を知っているかもしれない。私からは連絡はできん。わかるだろ?」
「か、かしこまりました。あたってみます」大嶋はそういうとお辞儀をして部屋を後にした。
大嶋は蔵田の部屋を後にすると蔵田家を警察の元に向かう為に車に乗り込むと携帯で添田満成のアドレスを探すと、深くため息をついて、発信ボタンを押した。
<プルルー、プルルー、プルルー、プルルー、プルルー、プルルー、プルルー、プルルー>大嶋が電話を切ろうとした時、無音に変わった。大嶋は違和感を感じて電話を耳に近づけると無言だった。
「もしもし・・」大嶋は警戒しながらいった。
「・・・もしもし」とても低い声で陰険な感じのねっとりした話し方で添田は返答した。
「どーも」大嶋はぶっきらぼうにいった。
「・・・その節は。何のようです?」
「社長のお子様が行方不明になっている。あの警戒心が強くて全然私に懐かないあの子があなたを実の父親のように慕っていた。あなた何か知っているんじゃないかなぁって思って電話してみたんですよ。御存知ないですか?」大嶋のどこか上から目線の問いかけに添田は一瞬黙っていた。
「・・・さぁ、わかりません」
「何か知ってそうな気がするんですよ。あの子も小学4年生で体格もそこそこいい。簡単に誘拐される子ではない。人見知りのあの子が知らない人のクルマにのこのこついていくようなそんな子じゃないでしょう」大嶋はつっけんどんにいった。
「知らないですよ」添田は語気を強めていった。
「本当ですか?」
「随分、ひどい言い方じゃないですか?それに失礼だっ!!」
「フンッ。失礼なのはどっちだよ。添田さん、社長を恨むのは筋違いですからね」大嶋は嘲笑うようにいった。
「恨んでなんかいないですよ。まるで私が犯人だと決めつけるあなたに腹わたが煮えくりかえります」添田は冷静に反撃した。
「私はあなたが大嫌いでした。そして、あなたがどうしようもなく鬱陶しかった。あなたがいるからわたしは偉くなれないと思った。それは事実だ。でもあなたが本当は社長のことが気にくわなくて下剋上を企んでいたのも社長は知っていた。だから先に手を打ったまでだ」大嶋はまくし立てるように言った。
「言いがかりはつけるなっ!」
「おまえは社長の息子を手玉にとって
会社の情報をとろうとした。一番、下衆だと思わないか?」
「私はおまえ達に一生を台無しにされたんだー!!卑劣なお前たちは俺に濡れ衣を着せられたんだっ!」