「えっ?」
「あっ、いや、まぁ、きっとそれだけ好きなんだと思いますよ」愛歩は取り繕うように言い返した。
「いつまでもあの人のことを思ってばかりいても仕方ないことは百も承知なのに、何だか、とても生きていることさえ息苦しく思えてくる時があるんだよね。こんなこと君にいってもどうしようもないことなのに、見ず知らずの君にこんなことを話してしまうんだろう?不思議だよな」誠一はこともなげにいった。
「・・そうかもしれないですね。私もそう思います」
「どうせ、明日からあいつのぐたつぎ具合では仕事にならないかもしれない。その時は渡した名刺の所に電話して。まともにやるかもしれないけれど・・」誠一は苦笑いをこぼしながらいった。
「・・・わかりました」
誠一の所を後にすると、愛歩は真理絵に電話をして、近くのレストランで落ち合った。
「あー、愛歩、久しぶり!!」真理絵は愛歩の顔をみるなり、弾けそうな微笑みを浮かべた。愛歩も真理絵の顔を
「元気にしてた?」
「・・うん。何とか」
「相変わらず、自転車操業なの?」
「生きてくって本当に面倒くさいものね」愛歩はしみじみいった。
「やめてよ。まだ若いんだから。それいうなら私だって大変よ。彼氏と別れてさ、時給900円のお弁当屋も朝から晩まで働いているけれど、毎日は楽しいよ」真理絵はさわやかな微笑みを浮かべた。確かに悲壮感など微塵も感じられなかった。
「人生は心の持ちようよ」真理絵はさわやかにいうと、愛歩もつられて笑顔を浮かべた。
「・・そうだね」
「今度、店がなくなる最後の日に店長の家でご苦労様会を開こうと思っているのよ。来てよ」
「うん。基本的にヒマだから大丈夫だよ」
「最近、しんどいのよ」愛歩はため息をついた。
「何がしんどいの?」愛歩の気持ちを推し量ろうとしながら真理絵はいった。
「・・んー・・なんかやるせないことばかりだよ。いろいろと人の死に際とか悲しみというものに異常にぶつかるのよ。どうしてなんだろう?」
「例えば?ご家族の方とか?」真理絵は推理するようにいった。
「そうだね。おじいちゃんが亡くなった時も人間のイヤなものみたし、他にもいろいろあってさ、人間って夢や希望があるのに、生きたくても生きれない人もいるのに、生きていたくなくて死んじゃう人もいるのよね。皮肉なものでさ」愛歩は深遠な眼差しに対して真理絵は思わずクスッと笑った。
「なんか愛歩とは思えないほど海よりも山よりも深い発言ね。いつものあなたとは思えないわ。本当にどうしたの?」
「本当にそう思うんだよね。生死というものに対してあまり深く考えたことがなかったのにいろいろ考えさせられるのよ。私みたいに生きていることさえしんどいと思っている人もいるのに、生きていたくて希望にあふれているのに、何も困っていないのに、思わぬ所で死んじゃう人。生きていたくなくて死んじゃうあの子とかさ」愛歩は思わず溜息をついた。
「溜息なんてつかないで。でもさ、仕方ないのよ。死にたくて死んだ訳じゃないんだから、その人が悪いわけじゃないのよ。気にする必要もないのよ。ねっ、誰?生きていたくても希望があった人って?家族?」
「いや、そうではないし、本当は自分には関係のまったくない人なんだけれど」愛歩は少し恥ずかしそうにいった。
「誰?誰?気になる。愛歩を悩ませている人が誰なのか気になるわ」真理絵は愛歩の目をみてつぶやいた。
「・・ふ、藤本真広って知っている?」
「藤本・・あのエッグスとかいうアイドルの人だよねっ?」真理絵はこともなげにいった。
「えっ?知っているの?」愛歩は思わぬ所で自分の年代でも知っている人も僅かではないのか?とさえ思えるのに、久しぶりに電話をかけてきたこの子が知っているなんて愛歩は驚いた。
「びっくり?」愛歩は目を見開いて真理絵を見つめた。