第8部 悲しみの雨 第12章 どこかで出会っていた? | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー

エイチ・・・アンド・・・エム・・・たしかそんな感じの言葉を言っていたような。聞き間違えなのかと愛歩は思案するけれど、よくわからなかった。

愛歩が記憶を手繰るように俯いていると愛歩は思わず肩を叩かれた。愛歩はびくっとして思わず振り向くと誠一が立っていた。愛歩は思わず目を大きく見開いた。誠一も驚いた顔をしている。

「えっ?どうして君がここにいるの?」誠一の問いかけに愛歩も少し驚いてたじろいだ。

「あっ、たまたま、この近くで待ち合わせをしていたの。暑いから涼んでいたのよ」

「・・・そう・・」

「沢村さんはどうしてここにいるんですか?」

「ここの5階がうちの会社なんだ」

「えっ?うそっ?」愛歩は目を丸くした。

「えっ?どうして?」

「ここの目の前のお弁当屋に昔、働いていたんですよ。そこの知り合いに今日会いにきたんですよ」愛歩は不審がられないように本当のことを伝えた。

「今日は1人?一緒にお昼でもどう?」

「あっ、今日はこれから知り合いと13時に待ち合わせをしているんですよ」

「じゃあ、会社をみていってら?あと1時間あるよ」

「いいんですか?」

「ああ」


誠一の言葉に連れられて愛歩は初めてH&Mの会社の中に入った。午前中は麻里が仕事で仕事がなくなり、午後は真広という人の会社にいるなんて、なんてすごい偶然なのか?愛歩は生まれてこんな奇遇に遭遇したのは初めてのような気さえした。よくよく考えてみると今日はあの店のティッシュ配りはずなのに、ここにいることを疑問に思ったりしないのだろうか?それともあまり興味がないのだろうか?


エレベーターが5Fを指すと誠一と愛歩は降り、奥の方に向かって歩いていると、H&Mの会社の扉を開くと愛歩の気持ちはどこか懐かしいような気さえしてきた。何か懐かしいような不思議な気持ちに思えてきた。誠一の後について、中に入っていくと従業員たちが見知らぬ来訪者を不思議な目でみていた。愛歩は従業員たちの視線を浴びながら、緊張しながら社長室に入っていった。

誠一が扉を閉めると緊張の糸が少し途切れた。

「座っていいよ」誠一の言葉に愛歩は目の前のソファーにゆっくり腰をかけた。

「今日は仕事じゃなかったっけ?」誠一はふと思い出したように愛歩に問いかけた。誠一は机の中からクリアファイルを取り出すと、シフトを確認しているようだった。

「あぁ、いやぁ、そのぉ・・」

「あいつ、怒ってた?」

「・・・・・」

「いいよっ。別に。きっと怒り心頭で仕事どころじゃないんだろっ」誠一は愛想笑いを浮かべた。

「本当でそれで日給がいただいていいんでしょうか?」

「・・仕方ないだろう?こちらの都合なんだから。あまり気にしないでよ」誠一は愛想笑いを浮かべた。

「ここが、真広さんの会社だったんですね」愛歩はここで働いていらっしゃったんですね。

愛歩は壁に掲げられている真広の写真をみて、ふと不思議な気持ちに囚われた。

(昔、私、この人と出会っていたんだろうか?)愛歩の脳裏にそんな言葉が微かに浮かんでいた。

「・・昔、出会ってた?」

「えっ?」誠一は愛歩の独り言に小さく反応した。

「私、ひょっとしたら、この人にどこかで出会っていたような気がするんです!」愛歩の言葉に誠一は首をかしげた。