真広は慌てて余計な邪念を振り払うように頭を振った。
ーピンポーン
部屋のインターホンが鳴った。真広は壁に掲げられている壁時計を見ると、8時を回っている。真広はテレビインターホンで外を見ると誠一が立っていた。ホッとしたように真広は玄関にいき、鍵を開けた。誠一はいつも通りに中に入ると、リビングにコートを脱ぐとソファーに投げた。いつもより少し青ざめていた真広をみて、すぐに変化に気がついた。
「・・・おかえり」
「・・・おまえ、いつもより元気がないじゃないか?」
「ねぇ、今日、マンションの駐輪場の前に男の子達がたむろしていなかった?」
「男の子達?いや?たしか・・・いなかったと思うよ。誰も見なかったから」誠一は素直に答えた。
「・・・そう」真広は少し不満気に頷いた。
「どうしたんだよ?」
「今日、駐輪場の奥の方に数人の男の子達がいて、何か凄く怖かった」真広も素直に言った。
「不良か?」
「たぶん。でも着ているものは貧相なものとかヤンキーっぽくなかったけれどね」真広はしみじみ呟いた。
「知らないなぁ」誠一はこともなげにつぶやいた。
「ねぇ、それより、あのカレンダーの赤いマークは何?」真広は急に元気になって戯けたように誠一に聞いた。
「赤いマーク?」誠一はカレンダーの方をみた。
「ほら、来週の月曜日の赤いマークよ!」
「あぁ、来週の月曜日は休みなんだよ。振り返えで!」
「・・奇遇ねっ!私もその日はお休みなのっ!いつもなかなか休みが合わないのにねっー!」真広は嬉しそうに誠一に詰め寄った!
「そうだな?珍しいな」
「ねっ!どこか行きたいわっ!」
「いいよ。どこにいきたいの?」
「そうねっ!どこがいいのかな?よくよく考えるとまともにデートしたりしないものねっ!」真広はしみじみとした口調でいった。
「海とか山とか川とか・・」誠一は適当に言った。
「ああっ、ねぇ、もう何年も前にいった海を覚えている。次にくる時は2人は結婚する時だねって!あそこのハンモックのあるペンションの下に瓶に願いをいれたものを埋めたの覚えている?」真広は嬉しそうに遠い昔の記憶がまざまざと語りはじめた。
「・・・あぁ、覚えている。何か大きな変わり目ごとに来ようって!約束の海だねって言ってた!」
「懐かしい・・・そうだなっ!」誠一の表情(かお)も次第に明るい表情(かお)になっていく。
「ねぇ、今度の月曜日、あの海に行こうよっ!」
「ああっ、いいよ」
「約束の海ねっ!」真広は遠い昔の約束を思いだして嬉しそうに笑った。