第4部  遥かなる日々  第2章  幸せのフィルム | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー

「じゃあ、これから平井君の歓迎会でも開こう。女子どもは帰ったからおっちゃん3人だけだけど歓迎会を開くから今日は一杯付き合え!」午後、祐人を迎えに来た少し禿げた中年の同僚・谷田が祐人の肩をポンと叩きながら祐人の耳元でささやく。

「今日はキャバクラでぱぁっと一杯ね!いいだろ、若いねぇちゃんと盛り上がろうや」同僚が口元がニンマリ笑いながら囁いた。

「いや・・・別に・・・・・」谷田はさっさと帰る準備をしながら口笛を吹いている。小さく顔をしかめる祐人。

祐人を含めて4人の一行は八王子の街の裏通りにあるパブの中に入った。

「いらっしゃいませ~!」4人の一行をママらしき人が迎えた。

「よう!」谷田は着物を着たママに軽く手を上げると率先して一番奥のテーブルに腰をかけた。祐人も一番隅に小さくなりながら腰をかけながら見慣れないこの雰囲気に内心戸惑っていた。

「いらっしゃい!」年の功40代後半くらいの白いドレスを着たママが谷田に歩みよった。

「ママ、若くて元気な女の子を頼むよ」

「はいはい、今日は比較的お店がすいているの。女の子たちウェイティングしているから呼んでくるわね」ママはしっとりとした口ぶりで色気を感じさせた。

(キレイだな・・・)祐人は何気なくママに見とれていた。ママは人差し指で迷う仕草をしながら女の子達を呼びに行った。

「今日はよりどりみどりみたいだよ。嬉しいなぁ~♪なぁ、家田!いつもおっかない女房の尻に敷かれてるんだからこういう場所でストレス発散しなきゃな」谷田は機嫌よく笑いながらグラスを口に運んだ。

「ごもっともです」恐々粛々と谷田の部下の家田と呼ばれた男は頭を下げた。

「平井君は所帯持ちか?」

「え、ええ」恐縮する祐人。

「奥さんは美人かい?」谷田の口元がにやけている。

「いや・・・普通です」

「きっと美人なんだろう・・・いいなぁ・・・俺のところなんかよ鬼だよ、鬼。若くて可愛い子でもみてなきゃ気がもたねぇっつーの!!」谷田は一人憤りながらまくし立てた。

「おまたせー」小さな銀色のバケツのような入れ物にお酒と氷をもった若い女の子4人が口々にいいながらやっていきた。

「おお、マッコじゃねぇか!」谷田はマッコと呼ばれる女の子を見ると目尻に皺を寄せながら嬉しそうに笑った。

「お久しぶりです、谷田さん」マッコと呼ばれた女の子はお決まりのように谷田の横に腰をかけた。残りの3人の女の子は適当に散らばって3人の男の間に入って腰をかけた。

祐人は緊張をしながら隣に座った女の子をおずおずと見た。

「ども・・・・」女の子はそういうとグラスに氷を入れて手慣れた手つきでお酒をいれた。

「おじさん、このお店初めて?」女の子ははにかみながら聞いた。

「あぁ・・・初めて・・・・」

「やだ、、こんなお店に来た位で緊張するなんてすごく真面目なのね。私の名前はナミっていいます。よろしくね」奈未は祐人にお酒を注いだグラスを渡した。

「・・・・よろしく」一口お酒を飲む祐人。瞬き2つ分、奈未を見つめた。

「おじさんはどこに住んでいるの?」

「僕は松戸だけど・・・一時的にこっちに来ているんだ」

「ふ~ん」うなずく奈未の横顔を祐人は何気なく見つめた。祐人に見つめられていることに気がついた奈未は奇異な眼差しを差し替えした。

「私の顔に何かついてるの?」



-高いヒールを履いてよろけながら通り過ぎてく女の子を思いだす。-



「君は何歳なの?」奈未の質問には答えず、祐人は質問で返した。

「おじさんは?いきなり歳を聞かれるなんてマジびっくり・・・」

「・・・・・・僕は34歳・・・」

「じゃあ10コ違うんだ。おじさんは実家は何処なの?」

「実家も千葉だよ。君は?」

「沖縄」ぶっきらぼうに奈未は答えた。

「沖縄かぁ・・遠いなぁ・・・」



-クラクションの音と車窓から手を男の顔がよぎる。-



「君はこの仕事以外に何か仕事をしているの?」

「もう・・・プライバシーの侵害ね!」

「あっ、そうだね。ごめん」苦笑いを浮かべながら祐人はグラスのお酒をもう一口飲んだ。

「君とかいうの、何か説教されているみたいだわ。せめてナミって呼んでよ。本名だからさ」奈未はクスッと笑った。

「あぁ・・・」

「私は掛け持ちでホテトルをしているの」

「そう・・・」遠い目をする祐人。

「今日も八王子から少し離れた場所で頑張ってきた」

「そう・・・・」

「野蛮でしょ」奈未は自虐的な笑みを浮かべた。

「別に・・・」



-祐人が振り返った時、車も女の子もいなかった空間を思い出す-



「何でそんなに身を削って働くの?」

「脳がないの。頭が悪いから・・・・」

「仕事はいくらだってあるじゃないか?」

「私の頭で働ける仕事ってろくなものがなくてさ、暮らしてけないのよ。おじさんのような働きマンじゃないからさ」

祐人はグラスに注がれたお酒を一気に飲み干すと奈未の顔を凝視する。

「何なのよ、、怖いわ」奈未は祐人の視線が普通の視線でないことにたじろいだ。



                                                      つづく、、