第4部  遥かなる日々  第1章  妻の笑顔 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー

祐人は17時に八王子の駅に降り立つと会社の人が迎えに行くという連絡を受けて祐人は八王子の駅で待っていた。腕時計の針は17:10をさしている。それらしき人影はない。目の前にはギャルのような露出の激しい女の子もまた腕時計を見ながら誰かを待っているようだった。やがて女の子は下の車の通りの男がクラクションを鳴らしながら車の窓ガラスから手を振っている。女の子は車のクラクションの音で相方に気がつくと女の子は
高いヒールをカツカツさせ祐人の前でよろけながらも階段を下りてローターリーに止めてある車の男のところまで駆けてく女の子の後ろ姿を何となくみていた。
(あれはどうみても水商売の女だよな)祐人は女の子の後ろ姿を視界から消えるまで見ていた。
(変な男にひっかかるなよ。まだ若いんだから・・・)
「平井さーん、ですか?」息をゼーゼーハーハー言いながら伺うように中年のスーツをきて額に汗をしながら50歳近く前髪が微妙に禿げている男が祐人に腰をかかがめながらやってきた。
「あっ、そうですが」息を切らす男の姿をみて祐人は男に毒のなさげな同僚に安堵を覚えた。
「会社は車で15分くらいのところです。実際にはあなたの働く場所はもう二駅遠くになりますがしばらくはこっちで打ち合わせしてもらいたいことがあるので明日は今から案内する本社に来て欲しいんですよ。今から会社を案内しますんで、行きましょ」
「あっ、はい・・・」
同僚の男はさっさと前を歩いていく。祐人もついていきながら何となく後ろを振り返るが車も女の子ももういない。

ラブホテルの一室で女の子と男はベッドでぼんやりしていた。天井には時代錯誤なミラーボールが回っている。
「君の彼氏はこんな仕事をしていることを止めたりしないのか?」
「全然。彼もいかれているから。前なんか<お前が好き>って突然狂ったように部屋のものを投げ飛ばすの。愛しているからって物を投げ飛ばすっていつの時代の話だって感じじゃない?でも何人の男と遊んでもちゃんと収入を入れれば何も言わないわ。矛盾しているよね」
「そんな男とどうして別れないの?」男は奈未を片腕で優しく抱きしめながらも奈未のことを聞いてくる。でもどうしてだろう。奈未はこの得たいの知れない男に何でも話せる気がする。
「彼は母親がいないのね。父親の暴力の中で育ってきて何ていうか放っておけないの。何度も別れようって思っても私がいないと死んじゃうような気がして」
「そっか。。ひょっとしたら君は彼に供応できるから助けられるんだろ。ひょっとしたら君も彼と同じ思いで育ってきたのかな?」
「そうかも。。。私は親の抑圧の中で生きてきた気がする。形的には両親がいるけど全然理解してもらえなかった。だからダメな人間の気持ちがわかるのかもしれない。父と母は仲が悪くてね。父親には恋人がいてそんな父と別れることが出来なかった母はいつも怒っていてそのとばっちりが私に向けられた。私がいるから離婚出来ない、あなたなんかいない方がよかったって言われ続けた。でも母が別れられない本当の理由は何の取り柄も資格もない田舎で40過ぎた母が仮に離婚したとしても子供を育てながら女一人で働く覚悟がなかったのね。経済的に苦しむことが目に見えていたから別れられなかったのよ。別に娘がいるからという問題ではなかったのよ。ただの不甲斐なさなのよ。でも私はパパっ子だったから恋人と再婚してもパパの恋人もざっくばらんないい人だったからついていってもいいって思ったこともあったけど、パパも意地っ張りでもママが一人では生きてけない
し私もいたから温情で離婚はしなかったけど今も恋人とは続いているよ。パパのことを憎んだりしたこともあったけど歳を取るごとにママを深く愛せなかった気持ちも分かるし結局ママに愛がなくても捨てなかっただけ優しい人なのかもって思えきて・・・」
「田舎は何処なの?」
「沖縄」
「遠いな」
「でも暑いのが嫌い」
「田舎も遠いなぁ」
「滅多に帰らない。でも寂しくないの。東京が大好きかも。でも今の彼を守ってあげたい気がするけど、、ずっとは嫌なの。もっと思ってくれる人に出会いたいかも」
「そうだな。君は守られて生きている方が幸せだと思うな」男はただ奈未の話を聞いているだけで何も求めてこなかった。
(きっとこの人は本当はいい人なんだろうな・・・)奈未は今日のお客のこの男がいつもの客と何となく違う気がした。
世の中にはいろんな人がいるよな。ぼんやり奈未は天井を眺めていた。ライトミラーが優しく揺れていた。


つづく、、