ずぶ濡れになった髪をタオルで拭いながら千広は暗闇の中で今日の出来事をぼんやり考えていた。クローゼットの上に飾られている徹とのツーショットを見る。あの時、少女の頃の記憶が甦る。場所は広島。親と喧嘩して家を飛び出してプチ家出をした足で向かったのは隣町の高校のグランドに恭一に初めて会いに行った。自分は中学生だった。暑い夏の午後。
暗闇の部屋の中でぼんやりしているとテーブルの上の携帯電話が鳴った。ディスプレーには<久世亜砂美>と表記されている。千広は電話に出ると
「もしもし」亜砂美は小さな声で伺うような声でささやいた。
「ん?どうしたの?」そっけない千広。
「どうしたの?って全然連絡くれないだもん。学校にも来ないし。」
「あぁ、、学校ねー。どうでもよくなったよ」天井を見つめる千広。
「浪人してまで入ったのにこれじゃ留年よ」心配そうに咎める亜砂美。
「別に、どうでもよくなってきたよ」
「そんな・・・・二人で一緒に予備校に通って一緒に上京してきたのに・・・寂しいよ」
「そうだねぇ。。。そうそう、話は変わるんだけどさ、西本恭一って亜砂美は知らない?」
「西本??・・・・・あっ!!・・・わかった。S高の人、、、あ、あのぉ・・・千広が中学の時に憧れて玉砕した、、バスケのエース!!家はすごい金持ちのボンボンっていう噂の。それがどうかしたの?」
「会ったの。今日。渋谷でばったりよ。」
「うッそー!!運命じゃない?だって昔、千広はすごい好きでさ、、年も離れているし、家も遠いけどよく夢に出てくるって言ってたじゃない。思春期だった千広は全然会えなかったりしたとき夢でもいいから逢いたい!!って言ってたわよね!懐かしい。」笑い声を立てる亜砂美。
「亜砂美は何でも知っているのね」嬉しそうにつぶやく千広。
「まぁ、、小学生の頃からのお付き合いで、受験も一緒に失敗して、一緒に上京して、、もう10年以上の付き合いだからねー。何でも知っているわよ」亜砂美もしみじみ呟いた。
「でもあの西本とかいうあの人は東京にいるんだね!広島に就職しなかったのね!で話したの?」
「ううん、私の顔を見て逃げるように去ったわよ」千広の脳裏に自分の顔をみて’はっ’と驚く恭一の顔が浮かぶ。
「何で?」
「知らない。けど水商売の仕事っぽかったけど。女の子囲んでた。ホストっぽかったけど。」
「うっそー!。。人は変わるものなのねー。昔はあんなに人気者だったのに・・・」
「そうね。。。」そういいながら千広はテレビの横にある小さな棚からミニアルバムを取り出す。
写真を開くと中学生だった頃の自分が満面の笑みを浮かべている。1998、8、27と刻印されている。
そして写真にはピンクの油性ペンで記されている。
<初めて笑ってくれたね。>恭一の横で嬉しそうににっこり笑う千広。
遠い記憶の彼方に無邪気だった頃の自分が重なりあう。
「千広、、聞いてるの?」
「あっ、うん。聞いてるよ」現実に戻される千広。
「でもどうして水商売なんかしているのかしらねぇ?」
つづく、、