雨の渋谷の街を傘もささずに宇佐見千広はずぶ濡れになりながら歩いている。まだ若いのに雨の中をゆっくり唇を噛み締めながら歩く姿を通りすがる通行人やカップルがクスクスと指を指しながら笑っている。指さされて笑われていることさえ視界に入らないほど真っ直ぐに歩いていた。
<ブルルー ブルルー>ポケットの中で携帯が鳴っている。ずぶ濡れのズボンのポケットの中から携帯電話を取り出すしディスプレーには<竹内徹>と名前が出ている。
千広は電話に出るか出るまいかを携帯電話を見ながら迷いあぐねながら鳴り止まない着信にしぶしぶ電話にでる。
「もしもし、僕だけど」
「何よ」冷たくあしらう千広。
「ちゃんと話をしようではないか。あんな風に業を切らされて出てかれたら話を取り繕うこともできないではないか。僕は君を愛しているんだ」冷静に話す徹。
「愛?」
「そうだ」辛うじて答える徹。
「私をただ弄んでいるだけのクセによくそんな偉そうなことが言えるわねぇ」強気に言い返す千広。
「そんなことはないよ。弄んでなんかない。」強く撤回する徹。
「あんたの腹の中が見え見えで嫌よ!」
ガチャ!
千広は怒りに任せて携帯を切った。
携帯電話をポケットにねじ込みながら歩いていくと、裏の通り道に出た。
冷たい風が吹き抜ける。あまりの冷たさに身を竦める千広。
街の寂れたネオンも何だか今日は儚く見える。人もほとんど歩いていない。
目には孤独を湛えている。
「きゃ~もうやだぁ~!」店のいっかくから女達の矯正な笑い声が聞こえる。店の前を通ったとき入り口で数人の女と二人のホスト風の男がいちゃついている。
<男に媚びる女もバカみたい。何が楽しいのかしら?あんな変な声をあげる女も今時いるんだぁ>醒めた目で横目で見ながら通りすぎようとしして千広はゆっくり歩みを止めた。どこかで見たことのある顔。派手でいかにも水商売の女達に囲まれている男の一人の顔に強く惹きつけられる。
「(どこかで)・・・・・・西本先輩?」
記憶がどんどん遡ってゆく。見つめる男も千広の視線に気付く。
”はっ”とした顔をしてバツが悪そうに目を逸らす。
「さっ、中に戻ろう」男はまるで千広を意識的に避けるかのように他の人を店の中に誘導し自分も一緒に消えた。
後ろ背中を見ながら千広は唖然とした。
(西本恭一・・・・・)
雨の中を一人あの頃と大好きだった憧れの人の変わり果てた姿に千広は呆然とした。
つづく