「日本人は皆悪い。皆汚い。汚い日本人と金のために結婚するんだわ」そう独りごとを呟いた時ウエイトレスがコーヒーを運んできた。日本で飲む初めてのコーヒー。
「にがっ・・・・・」苦くて真っ黒なコーヒーはこれからの自分を暗示しているように思えてきて初夏なのに鳥肌が立った。
「おまたせ」べっとりなポマードにべっとりな脂を浮かべている、いかにも成り上がりなカン・ヨンクがどこか神経質そうな彼・押本勇起を息揚々と連れてきた。対称的な二人だったことを昨日のことのように覚えている。私腹をこやした太った男を想像していたのに・・・・・・
青春時代、、上海で知り合った彼は少しでも収入があろうものなら殴ってでも金だけを奪ってゆく。金に囲まれて暮らしたいっていう。貧乏のまま生きてくくらいなら死んだ方がマシだとも言う。そんな彼を由花は愛しいと思った。
生き抜こうとする恐ろしいまでの「生」への執着心に射抜くようなギラギラした眼差し。
だけど彼は本当に人を殺してしまった。強盗殺人。平凡な魚屋の主人を。通りがかりの公衆のモニターでニュースであらましを見たとき気の触れた子供のように大泣きした。貧しさが呪わしかった。同時に彼にどうしてあげることもできなかった自分に不甲斐なさを感じていた。お金さえあれば彼は殺人者になることはなかった。お金があれば幸せはきっと買える!!だから日本で絶対成功してやるんだ。日本人なんかに負けてたまるか!!揺るぎない決心を胸に向かい合った相手はどこか寂しげな目にどこまでも澄んだ心のような気がした。上海の彼を鮫とするなら目の前の彼はそれに食われる微生物。
(こんな害なさ気な顔しているけど腹の中では金・金・金。絶対になめられてたまるか!!)
「今日から二週間だけ君の旦那になる人を紹介するよ。。。押本さんだよ。ちなみに彼女の名前は王由花(オウユリン)って姫みたいな名前だよ。彼女は努力家でね、、これでも日本での成功のために日本語を完璧に近い位マスターしているからね。二週間仲良く過ごしてね」
「よろしくお願いします。」ぎこちない日本語で由花はあいさつをしたが、、寂しげな瞳の彼は「ああ・・・・」力なく頷いただけだった。
つづく、、