「日本人は皆悪い。皆汚い。汚い日本人と金のために結婚するんだわ」そう独りごとを呟いた時ウエイトレスがコーヒーを運んできた。日本で飲む初めてのコーヒー。
「にがっ・・・・・」苦くて真っ黒なコーヒーはこれからの自分を暗示しているように思えてきて初夏なのに鳥肌が立った。
「おまたせ」べっとりなポマードにべっとりな脂を浮かべている、いかにも成り上がりなカン・ヨンクがどこか神経質そうな彼・押本勇起を息揚々と連れてきた。対称的な二人だったことを昨日のことのように覚えている。私腹をこやした太った男を想像していたのに・・・・・・
青春時代、、上海で知り合った彼は少しでも収入があろうものなら殴ってでも金だけを奪ってゆく。金に囲まれて暮らしたいっていう。貧乏のまま生きてくくらいなら死んだ方がマシだとも言う。そんな彼を由花は愛しいと思った。
生き抜こうとする恐ろしいまでの「生」への執着心に射抜くようなギラギラした眼差し。
だけど彼は本当に人を殺してしまった。強盗殺人。