乾燥日記 -7ページ目

宇宙美人

ついに人類は宇宙人と邂逅することになる。

宇宙船が地球に初めて、公式にやってくるのだ。

各国首脳は万全の体勢で迎え入れた。

30メートル全長、円盤型の宇宙船がゆっくりと降下。

ハッチが開き、宇宙人が降りて来た。

その宇宙人はとてつもない美人であった。

まるで人間なのだが、人間じゃない。

ありえない美しさであった。

各国首脳は、我れ先にと歩み寄った。

SPも我を忘れて、立ち尽くしていた。

それくらい美女であった。

そして、美女は踵を返し、宇宙船に戻っていく。

各国首脳もそのまま宇宙船に乗っていった。

皆ぽかーんと一部始終を見ていた。

誰も、何もできなかった。

そして、各国首脳は二度と戻ってこなかった。

一人だけ、ついていかなかったのは、女性首相だけであった。

ドライ&エラー

今日はバレンタイン、彼はこのセーター、喜んでくれるかしら。

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すごい喜んでた。
よかった~。

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今日のデートであのセーター、着て来てくれるかな?

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「やあごめんごめん遅くなっちゃった。」

あれ?あのセーター、着てくれてるけど、なんか、変。
ピッチリしてる。
もしかして、彼、太った?
ダメ!デブはダメ!デブだけは愛せない!別れる!

「え?別れる?どうして!こんな素敵なセーターもくれたのに!」

それが原因よ!
さようなら!

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「おっかしいなあ、洗って縮んじゃったの、怒ってんのかなあ。」


千代子

「今日は、チヨコをあげます。」

「よろしくおねがいします。」

こうして二人は結婚しました。

月よこい

私は月が好きだ。

だって、月を迎えると、あの人を思い出せるから。

あの人にしかない魅力、
その仲間達にも魅力があり、
夢も大きい。

毎回月を見る度、ハラハラさせられるけど、
結局また、月を待ってる。

それに、あの人だけじゃない。
あの動物や、あの機械、様々な世界を
月が運んでくる。

月は私にとって、かけがえのないトランスポーターなのだ。

ああ、早く次の月、こないかな。


はやく読みたいなあ、ジャンプ。

向き不向き

では三十三回忌の法要を始めさせていただきます。

まずはお経を唱えます。
よきところでお焼香をお願いします、とお声がけいたしますので、
よろしくお願いいたします。

「南無妙法蓮華経・・」

「声、高いなあ。」


重力横町

いつもの飲み屋に向かうために、
家を出て、重力を操作する。

飛んでいった方が早いし、
いり組んで迷路のようになっている横町では
空中を通らないと、たどり着けない場所だってある。

ネオンの看板を横目に街をすり抜ける。
月が足下で光っている。
空気が澄んでいて、今宵も気持ちよく酔えそうだ。

体は酔う前から浮遊感に包まれていて、
というか、
浮遊していて、
風が体にあたり、すりぬけ、服と肌の間にすべりこみ、なんともいえない心地よさ。

右側に商店街のアーケードの屋根を見ながら、
目当ての飲み屋まであとわずかのところで、
ふと左側を見ると、猫がいる。

何やら、腹を減らしているようだ。
俺は猫をそっと胸に抱えて、
空へ連れ出した。

「ニャーー」

「はっ、ゆ、夢か。」
「また空を飛ぶ夢を見てしまった。」
「それにしても、なんでこんな飛ぶ夢ばかり見るのかな。」
「あ、どうも、はい、順調です。地球?もちろん、青いですよ、今日も。」
「はやく地球に帰りたいな。そしたらいつもの飲み屋に行きたいよ。」
「今日は空を飛ぶ夢を見ずに、地球を歩く夢を見よう。」
「でも、歩く、ってどんな感じだっけ?」


宗教と政治とメディア

最初は、困った人の助けになることが好きな、だけだった。

困っている人がいると、仕事を中断して、助けに行った。

もめ事があれば、仲裁に入った。

暴力に苦しんでいる人がいたら、行って、話をした。

話を聞いてもらえないときは、より力の強い人間と一緒に行って、話をした。

すべてのもめ事は、きれいごとだけでは解決せず、

暴力やお金を使うこともあった。

いつの間にか、俺の周りには人が増えていた。

お金をもったやつや、暴力の得意なやつが集まるようになっていた。

そうこうしているうちに、俺の周りの人間は俺を崇拝するようになっていった。

俺が解決したもめ事や、俺が間に入ってまとまった事業の話が尾ひれをついて広がった。

いつの間にか、俺は、俺の知らない奴にまで、崇拝されていた。

そいつらにとって、俺は神のような存在になっていった。

不思議なもので、直接話していない人間のほうが、俺を崇拝する。

俺の周りの人間は、俺との距離感によって、組織の人間をクラス分けし始めた。

俺の言葉は、直接伝わらず、編集された紙や映像やWEBを介して、より多くの人間に伝わり始めた。

そうすると、また、距離の遠い人間に俺の言葉が伝わり、俺の力よりも強大な何かが現れている気がした。

俺は神として崇められ、組織はもめ事を調整し、事業の成功を判断し、金と暴力を背景に、王国が広がりつつあった。

俺は、ある日、殺された。

俺に恨みを持つ人間は多く、暗殺されたのだ。

だが、組織は存続し続けた。

まるで俺がいなくても、全く関係なく、代表は入れ替わり、

組織は金と暴力を背景に力をつけ、

崇拝は深く浸透し、

メディアはそれを広め続けた。


そして、今では、それは、国と呼ばれていて、

そこには約1億2745万人の人が住んでいる。

才能ルーレット


神様が一人に一つ才能を与える。
その才能に努力と運と人脈をつなげて、人は成功する。

じゃあその才能はどうやって決まるの?
染色体に描かれているの?
教えてくれ、神様。


「それでは第3億5463万6542回才能ルーレットの開催です!」
「会場は異様な熱気に包まれています。実況は私天使、解説は悪魔さんにお願いします。」
「よろしくお願いします。」
「さあ、一人目の人間がルーレットを回します!」
「あんなに力んではいい目が出ないですね。」
「おっと残念。「枝豆をキレイに剥く才能」ですね。これは痛い。」
「また来世に期待しましょう。」
「みんなスポーツや商売、芸術の才能を望むので最近はなかなか突出した才能が当たりませんね。」
「しかし、それも運命、おっと次の人間がルーレットを回します。」
「「シールをキレイに剥がす才能」ですね。微妙です。」
「さあ、盛り上がってまいりました!」
「靴紐を結ぶ才能」
「目的の駅に着く1分前に起きる才能」
「魚をキレイに食べる才能」
「CMが終わる頃にチャンネルを戻す才能」
「おっと!一番いい才能がでました!大当たり!」
「出ましたね。ルーレットの才能ですね。」
「来世に思い通りの目が出せます!やったぜ!」

間に合った

やばい
完全に遅刻だ。
夢の国では、遅刻なんてありえない。

タクシー!
絶対に間に合わせてください!

よし!ギリギリセーフだ!
速攻で着替えて、と。

開演2分前!
間に合った!



「わーいミッキー!写真撮って!」


数日後・・・

「あれ?このミッキー、首と胴の間に肌色の何かが?おーいこの写真面白いぞー、ネットにあげちゃおうか、って、あれ?皆は?」
「そこまでだ。」
「お、お前は!?ぐふっ!」



「ふう、間に合った。」

待ってる

「わたし、あなたをずっと待ってるから。」

そう言われてから10年、
やっと刑期も終わり、釈放された。
もう覚えてはいないだろうな。
そう思ったけど、刑務所の門をくぐると、一人の女性が立っていた。

思わず駆け寄る。
「お前、待ってたのか?」

腹が重い。
なぜか風景が揺れる。

「ずっと待ってた。」

俺の腹からは血がしたたり、
突き立てられたナイフがやけに光を反射して眩しい。

そのまま、真っ白になって、それで。