ゴールデンスランバー・もうひとつの結末 その7
『Golden Slumbers Another End 7』
第六部 もうひとつの世界
青柳雅春
青柳雅春は今、何処の国のモノとも分からない軍用機に乗せられ、海を渡っていた。軍用機の窓の外は真っ暗で、海の上なのか、陸の上かも分からない。普通のジャンボ旅客機とは違うビィーンという高い音が振動していて、暗い機内には室内灯の明かりが頼りなく点いているだけだった。青柳雅春は、この先どうなるのか分からないが、世間に無罪を証明した代償に、彼らの指示に従うことになった。前にアイドルを助けた時のことを思うと、あの時以上に自分の顔がテレビに露出し、更に殺人犯扱いだったこともあり、今日本で普通に暮らせないことも明らかだったから、この飛行機に乗ったのも確かだ。
いや、従う以外に選択がなかったというべきか。
青柳雅春の座席の横には、ハーフなのか、クオーターなのか、少し日本人が混じったような顔をした欧米系の白人が座っていた。
「何処に向かってるんだ?」青柳雅春は、自分が巨大な力の手のひらの中にいることは、分かっていても、あえて敬語は使わないで白人に話した。
「今言わなくても、数時間後には分かる」
白人は前を見たまま静かに言った。その対応に青柳雅春は、何を言っても意味がないだろうと思い、目を閉じた。
彼らが何者であるのか。はっきりしたことは分からないが、アメリカや日本といった国家ではないことはわかった。しかし国家よりも大きいものなのか、小さいものなのかも分からないが、一国の首相を暗殺出来てしまうほどの、巨大な力を持った組織であることは確かだった。日本の警察も、彼らに言われるままに動いたことは間違いない。いや、日本の警察ではなく、日本そのものが動いたと言ったほうが正しいだろう。
青柳雅春は中央公園で倒れ、担架に載せられた後、駆け寄ってきた佐々木一太郎の苦虫を噛み潰したような顔だけは忘れられなかった。狙撃を中止させたことを後悔していたのは間違いない。警察の役目は思ったとおり、青柳雅春を逮捕することでなく、投降した青柳雅春を、逮捕の前に射殺して口を塞ぐことのようだった。しかし警察の思惑とは予想外の展開がおき、生きたまま逮捕してしまい、その後どうするべきか誰も判断出来なかったらしい。日本の警察の組織とはそういうものだろう。決められたこと以外、誰も責任を負えなし、誰も行動出来ない。
その後青柳雅春は、救急車で警察病院に運ばれ、意味もなく医者に診察され、直ぐに白のクラウンに乗せられ移動した。後部座席の両サイドには、制服の警官が二人座り、真ん中に青柳雅春が座らされた。
青柳雅春はこの後、警察署で取り調べが永延と続くのを覚悟していた。しかし、法治国家である日本には裁判というシステムがあって、公に自分の発言が出来る裁判所があり、国選以外の弁護士を選ぶことも出来るから、そこからが勝負所だと思っていた。マスコミをうまく使って世論を味方に出来れば、濡れ衣を証明出来るかもしれない。根拠のない自信だけが青柳雅春を支えていた。
昼過ぎに着いた先は、東京の桜田門の警視庁本部だった。青柳雅春は、直ぐに取り調べ室に行くと思っていたが、連れて行かれたのは大きな会議室だった。青柳雅春を先導する警官が扉を開ける。青柳雅春は会議室の中を見て驚いた。そこで待ち受けていたのは、明らかに警察ではないだろうと思われる面々だった。
楕円状の大きなテーブルには、日本人も含め、おそらくロシア人なのか、北欧系の外国人、中東系の外国人、中国人などあらゆる人種が20人くらい座っていた。青柳雅春は、テーブルの真ん中に座らされた。座っている全員が青柳雅春に注目している。
いったい今から何が始まるというのか、青柳雅春は、手にかく汗が止まらなかった。
十秒ほどの沈黙の後、「ブラボー」その中の誰かひとりの、確かにそういう言葉が聞こえた。青柳雅春は耳を疑い、回りの面々を見渡す。するとまた何処からともなく「ブラボー」「ブラボー」「ブラボー、ブラボー」と、幾人もの声が聞こえ始め、気が付くと、そこに居合わせた青柳雅春以外の全員が手を叩いて、拍手を鳴り響かせている。
全く意味の分からない青柳雅春は呆然とすることしか出来ず、むしろその喝采に恐怖すら感じた。
拍手が小さくなっていくと
「Did you consider the idea that fell with fireworks?」と早口な英語が聞こえてきた。
青柳雅春はよく聞き取れずに、どう反応していいのかも分からず黙っていると、ひとりの若い白人男性が立ち上がり、青柳雅春に近付いてくる。
そして青柳雅春の肩を叩き、
「初めまして」と握手を求めてきた。青柳雅春は驚いた。顔は外人顔なのに、日本語の発音は生粋の日本人並みだった。青柳雅春はよく分からないまま握手をする。
「花火の爆音と共に倒れたのは、君が考えたのか?」またしても完璧な日本語をその白人は口にした。
「はい」青柳雅春は、コクリと頷いて返事をする。小さい声だったが、誰もが青柳雅春の言葉に集中していた。
またしても会議室に拍手が鳴り響き、拍手が小さくなると
「How will you have done if shot ahead of fireworks?」と質問の声が上がる。
「花火の前に撃たれたら、どうするつもりだったんだ?」
白人がまた訳して、青柳雅春に聞いた。
「一応、防弾チョッキは着ていました」青柳雅春が答える。
「オー」「オー」今度は感心するような声が幾つも聞こえた。
青柳雅春は、この面々がただ者ではなく、首相殺しの黒幕ではないかと思い始めていた。いや、間違いなくそうだ。俺は、コイツらのゲームの中でなんとか生き残り、コイツらは、出来のいいオモチャを見るように、今、俺を見ているのだろう。
つづく
ゴールデンスランバー・もうひとつの結末
第六部 もうひとつの世界
青柳雅春
青柳雅春は今、何処の国のモノとも分からない軍用機に乗せられ、海を渡っていた。軍用機の窓の外は真っ暗で、海の上なのか、陸の上かも分からない。普通のジャンボ旅客機とは違うビィーンという高い音が振動していて、暗い機内には室内灯の明かりが頼りなく点いているだけだった。青柳雅春は、この先どうなるのか分からないが、世間に無罪を証明した代償に、彼らの指示に従うことになった。前にアイドルを助けた時のことを思うと、あの時以上に自分の顔がテレビに露出し、更に殺人犯扱いだったこともあり、今日本で普通に暮らせないことも明らかだったから、この飛行機に乗ったのも確かだ。
いや、従う以外に選択がなかったというべきか。
青柳雅春の座席の横には、ハーフなのか、クオーターなのか、少し日本人が混じったような顔をした欧米系の白人が座っていた。
「何処に向かってるんだ?」青柳雅春は、自分が巨大な力の手のひらの中にいることは、分かっていても、あえて敬語は使わないで白人に話した。
「今言わなくても、数時間後には分かる」
白人は前を見たまま静かに言った。その対応に青柳雅春は、何を言っても意味がないだろうと思い、目を閉じた。
彼らが何者であるのか。はっきりしたことは分からないが、アメリカや日本といった国家ではないことはわかった。しかし国家よりも大きいものなのか、小さいものなのかも分からないが、一国の首相を暗殺出来てしまうほどの、巨大な力を持った組織であることは確かだった。日本の警察も、彼らに言われるままに動いたことは間違いない。いや、日本の警察ではなく、日本そのものが動いたと言ったほうが正しいだろう。
青柳雅春は中央公園で倒れ、担架に載せられた後、駆け寄ってきた佐々木一太郎の苦虫を噛み潰したような顔だけは忘れられなかった。狙撃を中止させたことを後悔していたのは間違いない。警察の役目は思ったとおり、青柳雅春を逮捕することでなく、投降した青柳雅春を、逮捕の前に射殺して口を塞ぐことのようだった。しかし警察の思惑とは予想外の展開がおき、生きたまま逮捕してしまい、その後どうするべきか誰も判断出来なかったらしい。日本の警察の組織とはそういうものだろう。決められたこと以外、誰も責任を負えなし、誰も行動出来ない。
その後青柳雅春は、救急車で警察病院に運ばれ、意味もなく医者に診察され、直ぐに白のクラウンに乗せられ移動した。後部座席の両サイドには、制服の警官が二人座り、真ん中に青柳雅春が座らされた。
青柳雅春はこの後、警察署で取り調べが永延と続くのを覚悟していた。しかし、法治国家である日本には裁判というシステムがあって、公に自分の発言が出来る裁判所があり、国選以外の弁護士を選ぶことも出来るから、そこからが勝負所だと思っていた。マスコミをうまく使って世論を味方に出来れば、濡れ衣を証明出来るかもしれない。根拠のない自信だけが青柳雅春を支えていた。
昼過ぎに着いた先は、東京の桜田門の警視庁本部だった。青柳雅春は、直ぐに取り調べ室に行くと思っていたが、連れて行かれたのは大きな会議室だった。青柳雅春を先導する警官が扉を開ける。青柳雅春は会議室の中を見て驚いた。そこで待ち受けていたのは、明らかに警察ではないだろうと思われる面々だった。
楕円状の大きなテーブルには、日本人も含め、おそらくロシア人なのか、北欧系の外国人、中東系の外国人、中国人などあらゆる人種が20人くらい座っていた。青柳雅春は、テーブルの真ん中に座らされた。座っている全員が青柳雅春に注目している。
いったい今から何が始まるというのか、青柳雅春は、手にかく汗が止まらなかった。
十秒ほどの沈黙の後、「ブラボー」その中の誰かひとりの、確かにそういう言葉が聞こえた。青柳雅春は耳を疑い、回りの面々を見渡す。するとまた何処からともなく「ブラボー」「ブラボー」「ブラボー、ブラボー」と、幾人もの声が聞こえ始め、気が付くと、そこに居合わせた青柳雅春以外の全員が手を叩いて、拍手を鳴り響かせている。
全く意味の分からない青柳雅春は呆然とすることしか出来ず、むしろその喝采に恐怖すら感じた。
拍手が小さくなっていくと
「Did you consider the idea that fell with fireworks?」と早口な英語が聞こえてきた。
青柳雅春はよく聞き取れずに、どう反応していいのかも分からず黙っていると、ひとりの若い白人男性が立ち上がり、青柳雅春に近付いてくる。
そして青柳雅春の肩を叩き、
「初めまして」と握手を求めてきた。青柳雅春は驚いた。顔は外人顔なのに、日本語の発音は生粋の日本人並みだった。青柳雅春はよく分からないまま握手をする。
「花火の爆音と共に倒れたのは、君が考えたのか?」またしても完璧な日本語をその白人は口にした。
「はい」青柳雅春は、コクリと頷いて返事をする。小さい声だったが、誰もが青柳雅春の言葉に集中していた。
またしても会議室に拍手が鳴り響き、拍手が小さくなると
「How will you have done if shot ahead of fireworks?」と質問の声が上がる。
「花火の前に撃たれたら、どうするつもりだったんだ?」
白人がまた訳して、青柳雅春に聞いた。
「一応、防弾チョッキは着ていました」青柳雅春が答える。
「オー」「オー」今度は感心するような声が幾つも聞こえた。
青柳雅春は、この面々がただ者ではなく、首相殺しの黒幕ではないかと思い始めていた。いや、間違いなくそうだ。俺は、コイツらのゲームの中でなんとか生き残り、コイツらは、出来のいいオモチャを見るように、今、俺を見ているのだろう。
つづく
ゴールデンスランバー・もうひとつの結末