ゴールデンスランバー・もうひとつの結末 -8ページ目

ゴールデンスランバー・もうひとつの結末 その8

      『Golden Slumbers Another End 8』


 青柳雅春

 大会議室の外人たちは、青柳雅春を見たり、指差しながら何かを話している。
 青柳雅春は、自分がどうなってしまうのか、想像を超えた場面に更に緊張感は増していった。おそらくコイツらからしたら、俺の命なんて、ティッシュの繊維よりも軽く、ガラスのコップについた水滴と同じくらい、消えても何の問題もないのだろう。
「俺はどうなるんですか?」青柳雅春は耐えきれず、横に立っている白人に声をかける。
「ミスターインアーイ」
 青柳雅春の正面に座る年配のボス的な北欧系の外人が、青柳雅春の横に立つ白人に向かって呼びかけた。
 白人は北欧系の外人と目を合わせ、「How is he done?」今度はネイティブな英語を話した。
 青柳雅春はふたりの外人の顔を交互に見る。
「It left it to you.」北欧系の外人は両手を軽くあげて言った。それを見た白人は、何も言わずに頷いた。
 その様子に他の外人達は全員立ち上がり、次々と大会議室を出て行った。

 青柳雅春以外誰もいなくなった会議室は突然静まり返り、青柳雅春は、だだっ広い牢獄にひとり残されたような気分になった。今、立ち上がったところで、自分にはどうにも出来ないことくらいはよく分かっていった。
 それから二十分くらい経ったのか、もしかしたら五分なのかもしれないが、青柳雅春に話しかけた白人がひとり戻ってきた。
 青柳雅春は白人の目を見て言った。
「俺は殺されるのか?」
 青柳雅春は、結果は何であれ、極論を言うことで早く恐怖から逃れたかった。
「君を殺すのは、日本の警察のメンツを保つだけのことで我々には関係ない。ないが我々と接触した以上、君はもう日本では暮らせない」また完璧な日本語を白人は話した。

 青柳雅春

 軍用機の上下の揺れは気流のせいなのか、今まで乗った飛行機以上に激しく、青柳雅春は気持ち悪さがこみ上げ、呼吸が荒くなっていた。
 青柳雅春の隣りに座る白人が、青柳雅春に水の入ったペットボトルを渡す。
「ありがとう」青柳雅春は、ペットボトルを受け取り、水をゆっくり口に含んだ。
「ミスターインアーイ」
 機内の後方から声が聞こえ、白人はシートベルトを外して席を立った。

 しばらくすると、白人はまた席に戻り、シートベルトをして、青柳雅春に話しかけた。
「三日後の仙台港で、青柳雅春の水死体があがることになった」
「え、」突然の死刑宣告に青柳雅春は、気持ち悪さも忘れ、背筋が冷たく震えた。
 驚いた青柳雅春の顔を見て、白人は鼻で笑う。
「君じゃない、他の青柳雅春だよ」
「どういうことですか?」
「日本の警察と話し合った結果だそうだ。日本中が青柳雅春を探していて、警察の対応も問題化していて、世論がどうにもならないそうだ」
「だからって」
「青柳雅春が死んだことになれば、誰も青柳雅春を探さないし、青柳雅春が存在しなければ、世論の警察への不満や追求も減る」
「・・・・」
「時間が経てば、世論は飽きて全て収まる。その為にもアナザーストーリーが必要で存在するってことだ」
「アナザーストーリーって。死んでいる俺と、生きている俺ってことですか?」
「そうだ。どちらが真実かってことは、この世の中そんなに関係ない。どっちも真実だ」
 青柳雅春は「はぁ」と大きくため息をついて、白人の顔を見る。
「インアーイさんには普通でも、日本人の俺としては、全然受け入れられない話ですけどね」
 白人は、青柳雅春の言葉に含み笑いをして言った。
「言ってなかったが、オレも日本人だ」
「えーー?」青柳雅春はもう一度、白人の顔をまじまじと見る。
「見ての通りハーフだか国籍は日本で、日本名はイナイだ」
「イナイ?」
「ここでは皆、インアーイと呼ぶが、I・N・A・I イナイだ」
 どこかで聞いた名前に、青柳雅春の意識は波打った。
「つかぬ事聞きますけど、消火器の底に合鍵隠したりします?」
「はぁ?まぁーそうすることもある」
「まさかとは思うんですけど、仙台市青葉区東上杉三丁目八番地二一号、ハサママンション三○二号、じゃないですよね?」
「何で知ってるんだ?」
 稲井は、狐につままれたような顔をしていた。


                                つづく




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