ゴールデンスランバー・もうひとつの結末 -6ページ目

ゴールデンスランバー・もうひとつの結末 その6

      『Golden Slumbers Another End 6』

 青柳雅春

「俺に拳銃を、貸してください」
 青柳雅春は腰を下ろし、壁にもたれて座る児島安雄に目線を合わせて、ゆっくり言った。
「それは駄目だ」
 児島安雄は、首を横に振って青柳雅春を見た。その目には、警察官としての強い意志があった。
「もちろん、児島さんの気持ちは分かります。借りる条件として、弾を全部抜いて貸してもらえないですか」
「弾の無い拳銃で、いったい何をするつもりなんだ」
 青柳雅春は、テレビを通して無実を訴えられなかった場合、投降場所で自分が撃たれない為に必要であることを、児島安雄に細かく説明した。
 そして生きて捕まり、無実を証明することを約束した。
「花火が打ち上がったら、その音に合わせて倒れます。そこに沢山の警察や報道陣が集まれば、もう俺を撃つことは出来ないはずです」
「だが、もしその前やその瞬間に、本当に狙撃班が撃ってきたらどうするんだ?」
 児島安雄は、いつしか青柳雅春を信用し、心配しているようでもあった。
「それも十分有り得ると思います」青柳雅春は、恐怖を押し殺すように頷いた。
 児島安雄は手錠のかかった両手で、胸の辺りの服を挟んで引っ張った。
「頭撃たれたら終わりだけど、身体だったら大丈夫かもしれん。俺の防弾チョッキ、見えないように、服の下に着てけや」
「すいません。ありがとうございます。もしうまくいったら、俺が無理矢理奪ったことにしますから」
「大丈夫、こんな老いぼれ、簡単にやられましたって俺も言うさ」
 青柳雅春は、児島安雄に頭を下げた。
「でもやりきれるのか? 本当に殺す気なら、たとえその場は生きて捕まっても、その先どうなるか分からんぞ」
「俺にも分からないですけど、もう逃げることに嫌気がさしたんです。正直、思いつく限りやるだけやって、後のことは考えてないです」
「そうか、もう逃げないのか」
「うーん、ですね。逃げるのは、自分が犯人であることを認めてしまっている気がするんです。やっぱ俺は俺で、犯人じゃないですし、自分を偽ってまで生きられないですから」


 
第五部    事件後
   
    ◇

 青柳雅春逮捕後、午前八時に宮城県警で会見が行われた。
「首相殺しの容疑者である青柳雅春を逮捕、逮捕時に容疑者が拳銃を持っていたため、遠方より麻酔銃を使用し、撃った麻酔弾は的中。現在容疑者は、警察病院で入院中ではあるが、命に別状はない」との報告があった。会見中、マスコミから麻酔銃を使う必要が本当にあったのか、逮捕時に何故、青柳雅春が拳銃を持っていたのかなど、詳細を求める声があがったが、会見は警察側の一方的な発言のみで終了した。
 ここで青柳雅春の二日に及ぶ逃亡劇は終了し、誰もが首相殺しの事件は解決したと思っていた。
 後は、起訴されたのち、司法が青柳雅春に対して、どのような判決を行うのか。裁判は長期化するだろうが、極刑を免れないだろうというのが、大方の意見であった。
 
 取り調べも長引くだろうというマスコミの読み通り、青柳雅春はなかなか起訴されず、勾留期間は延長され、二十日間という最大勾留期間が過ぎた翌日に、今度は警視庁本部から青柳雅春についての会見が行われた。
「首相殺しの容疑者である青柳雅春を、証拠不十分により勾留期間十九日目に、釈放」
 その瞬間、マスコミの集団の罵声が会見場に鳴り響いた。あれだけの状況証拠をそろえた上での逮捕であったにも関わらず、突然の釈放に誰も納得出来るような会見ではなかった。さらに最大勾留期間の一日前という意表をつくタイミングの釈放に、意図的なものを感じざるを得なかった。
 会場中のどよめきが治まらない中。
「現在捜査は、新たな容疑者を捜索中。以上」また警察側の一方的な会見で終了した。

 この事件の真相は、何であったのか。
 青柳雅春逮捕後二十日を過ぎ、テレビの報道もネタがつき飽きられていた最中、青柳雅春の釈放報道で、ワイドショーはまた再燃した。そして、あらゆる報道機関が青柳雅春を探し始めた。釈放後の青柳雅春のコメントに、日本全国の注目が集まった。一体どうやって青柳雅春は釈放されたのだろうか?何が起こったのか? そして濡れ衣を着させられた無実であったならば、テレビの前で話すことは当然のように思われたからだ。
 しかし、釈放報道から一週間が過ぎても、誰ひとり青柳雅春の足取りを追える者はいなかった。マスコミも総力をあげ、青柳雅春を探したが何処にも見付からず、逆に本当に釈放されているのだろうか?という疑問の方が強くなっていった。いや、本当にまだ生きているのだろか?という意見も飛び交い、青柳雅春が本当に存在していたのかすら、アヤしい状況になっている。

 おそらくこの事件の真相を語れるのは、青柳雅春ひとりしかいないはずだ。何故彼は身を隠し、沈黙しているのだろうか。全ての謎は深まるばかりだ。


                                つづく




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