あるスーパー・マーケットでレジ打ちを担当している社員グループが「生産性の向上」ということで訓練を重ね、結果一人で従来の2倍の速さで客をこなすことができるようになったとします。するとレジ打ち担当の社員グループはその後どのように処遇されるでしょうか?

 

......答えは、「人数を半分に減らされる」です。お客の数は変わらないのですから当然のことです。

 

 今回の話題は「日本の労働生産性」についてです。会計から少し話は外れますが、しばらくお付き合いください。

 

 技術大国として世界に冠たるわが国ですが、労働生産性が先進7か国(G7)中で最低だという事実をご存知でしょうか。

http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2016_press.pdf

 

労働者1人あたりで生み出す成果、あるいは労働者が1時間で生み出す成果を指標化したものを「労働生産性」といいます。労働者がどれだけ効率的に成果を生み出したかを数値化したもので、労働生産性の向上は、経済成長や経済的な豊かさをもたらす要因とされています。

 

 国内では、長時間労働・サービス残業・過労死などの問題が現れているにも関わらず、なぜ労働生産性が低いのでしょうか。日本人が怠け者だということではなく、反対にとっても勤勉で働き過ぎることが生産性を低下させる原因となっているのです。

 

労働生産性とは、

で、計算されます。就業者一人当たりのGDPということです。

 

 労働生産性が低い原因について色々と議論されていることの一部ですが以下に並べてみました。

 

  1. 過剰なサービスが求められている(又は行っている)
    わが国では、きめ細やかなサービスが当たり前となっている現状があり、また、そのサービスの提供分を価格に上乗せできないという現実があります。
     

  2. 労働者にとって労働生産性を上げるモチベーションが存在しない
    最初に書いたようなスーパー・マーケットのレジ打ち係のように、お客の数が増えない場合には、労働生産性の向上が反対に自分たちの首を絞める結果に繋がります。
    ※高度経済成長期のように人口の増加があった時代では労働生産性の向上は売上高の増加に繋がっていました。
     

  3. 結果より努力を称賛する傾向がある
    日本企業の管理職は、部下を評価する場合、結果よりその過程に重きを置く傾向が強く現れます。残業が常態化しているのは、残業が努力の表れであるかのように捉えられているからでしょう。

     

    これらの他にも

  4. 細かなことでも上司に確認する
    米国では、労働者は契約書により仕事の範囲や権限が決められているため、その範囲であれば、いちいち上司の確認は不必要です。
     

  5. 完璧主義的な仕事
     日本では運送業者の再配達業務が問題視されていますが、米国では基本留守中のお届け物は家の前に置いたままになるそうです。

    それぞれの原因についてそれぞれが日本の労働生産性の向上を妨げているわけで、経済成長を阻害しています。日本的と言えばそれまでなのですが、悪しき風習や非合理的な活動も見られます。

     

     政府が「働き方改革」と称して労働生産性の向上を目指いしてる現在、国民の一人一人が、さらに事業所の全てが働き方に対する考えも見直していくべきなのではないでしょうか。特に人口減少が差し迫った問題である以上、喫緊の課題だと思われてなりません。

 

 今回は、不正とは言わないまでも、よく使われる会計制度を逆手に取ったトリックのひとつをご紹介しましょう。少し専門的な話にもなったりしますが、ご興味があれば最後までお付き合いください。

 

大手アパレルメーカーの子会社であるT産業での話(フィクションです)。

年度末を間際に控えS川経理部長の顔が浮かない。T産業の本年度の決算着地見込みが営業赤字と出たからだ【下図】。

 原因は主力商品の販売不振に加え、昨年度末に導入した最新鋭機の減価償却費が製品製造原価を大きく引き上げる結果となっているためである。T産業の中期経営計画では今期の売上高を150,000と予定していた。

 

 ある日、S川経理部長は、T産業の取締役であるU山工場長に相談を持ち掛けた。『今から、決算期末にかけて目一杯の生産をしていただけませんか。去年導入した最新鋭機であれば、人件費コストを抑えながら大量の製品を生産できるはずです。売れる当てのない商品の生産ですが、やってはいただけないでしょうか。』と言って、一枚の紙をU山工場長に見せた。渡された紙を見たU山工場長は書かれている内容に目を見張り、生産を引き受けることにしたのだった。

 

渡された紙には、以下のような損益計算書が書かれ、さらにその下に詳しくその内容が記載されていた。

 そして決算を迎え、T産業は親会社へS川経理部長がU山工場長に渡した上記損益計算書に似たような営業報告を行うことができたのだった。

  さて、読者の皆さんはこのトリックを推測できるでしょうか。

  では、タネ明かし。

 上の二つの損益計算書で大きく異なるのは「売上原価」の金額ですね。

 当初は120,000であったものが、売れる見込みのない製品を決算期末に向け増産すると一気に104,000まで減少してしまうのはなぜなんでしょうか。

 

 製造業者が製品を製造するためには、材料費や人件費など製品を造るために直接必要な経費(これを「製造直接費」と言います)と、工場の家賃や警備のための費用、そして建物や機械の減価償却費などの経費(これを「製造間接費」と言います)がそれぞれ掛かります。

 この二種類の製造費用ですが、その特徴としては、材料などの製造直接費は生産個数に比例して増加しますが、減価償却費などの製造間接費はその年の生産個数とは無関係で一定です。

 簡単に言えば、生産数が増えれば材料費は増加しますが、減価償却費は一定です。そのため、製品一個に係る平均コストは減価償却費が一定であることにより、造れば造るほど低下していくのです。 

 さらに、増産した製品は売れずに期末在庫になってしまいます。会計処理上期末の在庫に係る費用は売上原価から除かれます。実際に販売された製品に係る費用だけが損益計算書上で費用と認識される仕組みとなっているのです。 

 この原理を利用した黒字化戦略がT産業の決算前対策なのです。製品1単位当たりの製造間接費の配賦額を減額して、製造コストの低減を装う戦略です。

 具体的なイメージは下図を参照してください。

 理解を簡単にするため、直接費は材料費だけ、間接費は減価償却費だけとして記載してあります。

ただし、制度的に不正なことはしていないにしろ、この会社の企業としての寿命は短いでしょうね。

 

 

 いつの間にか、わが国の名目GDPが新基準になったとは言え、過去最高値を更新し続けているようです。

振り返ってみると、山一證券や北海道拓殖銀行が相次いで破たんした1997年(平成9年)度の521.3兆円を最高にそれ以降下がり続けました。世に言う「失われた20年」です。ちなみに1997年の漢字は『倒』でした。

そして今現在ですが、20174-6月期の名目GDP545.3兆円とのこと。名目GDPが増加すれば税収も増加します。現在は消費税率の更なる引上げなど必要ないくらいに税収が増えているのではないのでしょうか。

 

今回は名目値が増加すれば利益と認識され、税が課されるというお話です。

 

今の会計制度は名目計算を基本としています。これは、物価変動を利用して税金を取る仕組みなんですが、全世界共通の概念です。
 

名目計算の仕組みが問題となるのは、資本の名目価値の変化に合わせて政府が企業の財布に手を突っ込み、税を課すことで実質株主価値を棄損させる仕組みだということです。

例えば、資本500万円があるとします。そして選択肢が二つ存在しているとします。今は、どちらの選択肢でも自由に選択できるとします。二つの選択肢は以下の通りで、

 

選択肢① ゆくゆく工場を建設する目的で土地を買い求めておくこと(価格=500万円)

選択肢② 生産性を上げるための機械の購入(価格=500万円)

今は取り敢えず①を選択したとします。

 

 そして数年後、工場建設の計画は中止され、その敷地として買った土地を手放し、その代金で機械を買おうという計画が新たに出てきました。

土地と機械の価格は今でも等価です。ただし、この数年間で物価は2倍に上昇していたとしましょう。土地=1000万円、機械=1000万円となっているわけです。

 土地を売り貨幣1000万円を受け取りました。さてこれで機械を買えばよいわけです。

 あれれ! 帳簿には固定資産売却益=500万円が記帳されています。この数年間の間に土地の面積が増えたわけでもなく、単にインフレ(貨幣価値の下落)という現象が起きただけなのに、課税される収益が発生してしまいました。

 

 

 土地の利用価値は今も数年前も同じです。また機械も利用価値は変化していません。そして、土地と機械は等価である事実も変化していないのに、土地を売却し、その資金で土地と等価であるはずの機械を購入することができなくなってしまったのです。資金が税金分不足してしまうのが原因ですね。

 この場合の利益を『貨幣利益(名目利益)』と言い、さらに、この場合の税金を『インフレ税』と呼びます。

政府は、このインフレ税の存在をなかなか国民に打ち明けようとはしないものなのですがね。

名目GDPが増加すれば、税収が増える理由としては、上記貨幣利益の発生も一役買います。当然、サラリーマンの名目給与収入も増加し源泉所得税や社会保険料が増え、その結果サラリーマン家庭の実質購買力を奪い去る(より貧乏になる)現象も同時に起きるのですがね。

 

会計の話に戻ると、企業の損益(利益)を物価の変動を考慮したもので捉えるか、それとも物価の変動を考慮せずに捉えるかによって大きく資本余剰額の認識が変わります。

 

例えば、期末純資産と期首純資産との差を利益と認識します。そして、期間インフレ率が10%だったと仮定します。

この場合、期首純資産が1000万円であった企業の期末純資産が1100万円以上でなかった場合、その企業の儲けは無いことになります(実質利益認識)。

もし、インフレ率を超える純資産額の増加が無ければ、その企業は明らかに購買力が低下した状態となってしまいます。名目上の利益が出たからと言って喜んではいられないはずです。

 

会計の世界では、自分の実力以外で利益が発生してしまうことがあること、さらにはその見かけ上の利益に対しても課税を受けてしまうことがあることを覚えておいてください。すべては、貨幣錯覚なのですが、税金は現実なのです。