いつの間にか、わが国の名目GDPが新基準になったとは言え、過去最高値を更新し続けているようです。
振り返ってみると、山一證券や北海道拓殖銀行が相次いで破たんした1997年(平成9年)度の521.3兆円を最高にそれ以降下がり続けました。世に言う「失われた20年」です。ちなみに1997年の漢字は『倒』でした。
そして今現在ですが、2017年4-6月期の名目GDPは545.3兆円とのこと。名目GDPが増加すれば税収も増加します。現在は消費税率の更なる引上げなど必要ないくらいに税収が増えているのではないのでしょうか。
今回は名目値が増加すれば利益と認識され、税が課されるというお話です。
今の会計制度は名目計算を基本としています。これは、物価変動を利用して税金を取る仕組みなんですが、全世界共通の概念です。
名目計算の仕組みが問題となるのは、資本の名目価値の変化に合わせて政府が企業の財布に手を突っ込み、税を課すことで実質株主価値を棄損させる仕組みだということです。
例えば、資本500万円があるとします。そして選択肢が二つ存在しているとします。今は、どちらの選択肢でも自由に選択できるとします。二つの選択肢は以下の通りで、
選択肢① ゆくゆく工場を建設する目的で土地を買い求めておくこと(価格=500万円)
選択肢② 生産性を上げるための機械の購入(価格=500万円)
今は取り敢えず①を選択したとします。
そして数年後、工場建設の計画は中止され、その敷地として買った土地を手放し、その代金で機械を買おうという計画が新たに出てきました。
土地と機械の価格は今でも等価です。ただし、この数年間で物価は2倍に上昇していたとしましょう。土地=1000万円、機械=1000万円となっているわけです。
土地を売り貨幣1000万円を受け取りました。さてこれで機械を買えばよいわけです。
あれれ! 帳簿には固定資産売却益=500万円が記帳されています。この数年間の間に土地の面積が増えたわけでもなく、単にインフレ(貨幣価値の下落)という現象が起きただけなのに、課税される収益が発生してしまいました。
土地の利用価値は今も数年前も同じです。また機械も利用価値は変化していません。そして、土地と機械は等価である事実も変化していないのに、土地を売却し、その資金で土地と等価であるはずの機械を購入することができなくなってしまったのです。資金が税金分不足してしまうのが原因ですね。
この場合の利益を『貨幣利益(名目利益)』と言い、さらに、この場合の税金を『インフレ税』と呼びます。
政府は、このインフレ税の存在をなかなか国民に打ち明けようとはしないものなのですがね。
名目GDPが増加すれば、税収が増える理由としては、上記貨幣利益の発生も一役買います。当然、サラリーマンの名目給与収入も増加し源泉所得税や社会保険料が増え、その結果サラリーマン家庭の実質購買力を奪い去る(より貧乏になる)現象も同時に起きるのですがね。
会計の話に戻ると、企業の損益(利益)を物価の変動を考慮したもので捉えるか、それとも物価の変動を考慮せずに捉えるかによって大きく資本余剰額の認識が変わります。
例えば、期末純資産と期首純資産との差を利益と認識します。そして、期間インフレ率が10%だったと仮定します。
この場合、期首純資産が1000万円であった企業の期末純資産が1100万円以上でなかった場合、その企業の儲けは無いことになります(実質利益認識)。
もし、インフレ率を超える純資産額の増加が無ければ、その企業は明らかに購買力が低下した状態となってしまいます。名目上の利益が出たからと言って喜んではいられないはずです。
会計の世界では、自分の実力以外で利益が発生してしまうことがあること、さらにはその見かけ上の利益に対しても課税を受けてしまうことがあることを覚えておいてください。すべては、貨幣錯覚なのですが、税金は現実なのです。