既にご存じだと思いますが、平成31年4月より金融庁「金融検査マニュアル」が廃止となりました。「金融検査マニュアル」は、金融庁の検査官が銀行などの金融機関の検査を行う際に用いるマニュアルで、日本のバブル崩壊に伴う銀行の不良債権の増大に伴う金融機関の経営悪化に対処するために作られたものでした。
平成11年4月から運用が開始され、過去様々なドラマが生まれたものと思います。テレビドラマで言えば「ハゲタカ」とか「半沢直樹」などが有名です。
「金融検査マニュアル」の運用は、各銀行等が独自に行っていた担保資産査定中心の検査から、リスク管理重視の検査へと転換を促す内容となっていました。
極論すれば、この「金融検査マニュアル」が中小・零細企業の“倒産”を促したという側面は否めないのです。銀行が企業に対し、本来返済不要とされていた借入金までも、その後返済を求めるといった結果となったのですから。
話は変わって、企業にとって「運転資金」と言われるものについて書いてみたいと思います。
企業経営における『資金』を大きく分けると、1.運転資金と2.設備資金に大別できます。このうち「運転資金」とは、“経営を行うに当たって必要となる資金”のことを言います。また、「設備資金」は生産などに必要な設備を購入するための資金ですから、簡単明解です。
では、一般的に運転資金を数式で、
◆運転資金=売上債権+棚卸資産-買入債務
と表し、この算式で計算された金額を指します。
この運転資金を、言葉で表すと
『入ってくるお金(売上)』と『出ていくお金(仕入)』の時間的なズレによるマイナスのキャッシュフロー(不足資金)
とでも申しましょうか、商品を仕入れ、そしてその商品が売れて、その後その代金を回収するまでのタイムラグにより寝た状態となる資金です。
イメージとしては下図のようなものです。
この「必要運転資金」は事業を継続している限り一定残高は絶えず発生し、かつ「寝た」状態になり、その企業が清算するまで回収できない資金となってしまいます。
従いまして、企業会計から論ずれば、この「運転資金」は返済不要の「自己資本」で賄うべきものということなりますが、中小・零細企業の場合はすべてを「自己資本」で調達するには無理があります。
そこで、その解決手段として広く用いられていた銀行融資が、一切返済を求めない短期継続融資(通称「短コロ」)だったのです。
バブル崩壊前までは、この返済を求められない短期継続融資が中小・零細企業の経営にいかに貢献していたかは想像に難くありません。昔は、企業と銀行との友好な関係がこの短コロを介して築かれていたのです。
この返済を求められなかった短期継続融資に異変が起こったのです。平成14年に改訂された「金融検査マニュアル別冊(中小企業編)」に、「正常運転資金の範囲を超える部分の短期継続融資を不良債権と判断する事例」が掲載されました。これを受けて各金融機関は自己防衛的に「短期継続融資すべてが不良債権に分類される」と思ったのです。一斉に中小零細企業の短期融資が長期の約定弁済融資(証書貸付)に切り替えさせられて行きました。
フリーキャッシュフローを超える毎月の返済が、零細企業の資金を圧迫したのです。それに耐えられなかった企業が次々とギブアップして行くという時代が始まったのです。
ドラマ「ハゲタカ」や「半沢直樹」の時代的背景はこのようなものだったのです。
こういう状況を問題視した金融庁は、平成27年 年1月、金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕に新たな事例を追加して、正常運転資金について「短期継続融資」で対応することは何ら問題ないことを明確化しました。
しかし、長期融資から短期継続融資への回帰は遅々として進まず、中小企業の「約定弁済地獄」はほとんど変わっていのが現状だと言われています。
各金融機関には「自己査定」という制度は実施しているものの、今は「金融検査マニュアル」自体が廃止となっています。今後は、従来に等しく、「資金繰りと経営の安定」を目的とした短期継続融資の拡大がもっともっと求められるべきだと思います。
金融機関の融資担当者に限らず、企業経営者においても、「運転資金」の本来の意味と、短期継続融資の利用方法をもっと勉強することが必要です。
人から借りたお金は返すのが常識です。しかし、企業経営と資金繰りの安定化を目的とした返済不要と見なされる資金もあることを知っておいてください。
企業経営においては、必要な考え方と言えます。