突然ですが、次の二つの選択ケースを考えてみてください。

【選択①】は「98g98円の商品①と、100g100円の商品②があった場合、どちらを選びたいと思いますか」というものです。

【選択②】は「98%の確率で12,000円が当たるというA箱、100%の確率で10,000円が当たるというB箱があった場合どちらを選びますか」というものです。

 【選択①】は、『人の感覚は“端数価格”が安価に見える』という実験です。思わず手が出て買ってしまう価格表示というものです。このケースではどちらの商品も1g1円なのですが、98g98円の商品の方が安いように感じてしまうという心理を試すものです。

 【選択②】は『人の感覚は“少ない確率”を過大評価してしまう』という実験です。確率論的には、

 A箱の価値=12,000円×98%=11,760円

 B箱の価値=10,000円×100%=10,000円

であって、明らかにA箱の方が価値的には高いのに、人の心は2%のハズレを過大に評価して、「私はハズレるに決まっている」と思い込んでしまいB箱を選ぶ人が多くなるという心理を試すものです。

 自分が買った宝くじが、さも当たりそうに思えるのはこの心理効果が働くためですね。(少ない確率の過大評価)

 

 と、いう風に今回は、人の心理効果を見てみることにしたいと思います。

 

 次は、同じ金額のお金なのに、拾う(利得)のと、落とす(損失)のとでは、損失の方が心のダメージが大きいというものです。

 上の図で青の矢印は心が受けるダメージの大きさを表すもので、2万円の利得より同じ金額であっても2万円の損失の方が大きく感じせてしまうのです。

(※プロスペクト理論「価値関数」)

 

 ビジネスの世界でよくある現象としては、コンビニなどで売れ残りを気にするあまり、仕入数を調整してしまい結果売上げ機会を逸してしまうなどのケースなどがあげられます。

 このように、私たちの心は絶えず損失を回避するように動くもののようです。

 

 反対に、損失が限りなく拡大してしまうといった結果に終わるかもしれない心の動きについてです。これは企業経営においては禁物ともいえるものなのですが、日常生活ではよく見受けられるものです。

 その心の動きを「コンコルド効果」と言い、「これ以上コストをかけたとしても収支がプラスになることはないと分かっているにも関わらず、コストをかけ続けてしまう現象」です。

1960年代にイギリス・フランス両政府が共同開発を始めた超音速旅客機コンコルド計画が結果的に大きな損失を出して終わってしまった史実に基づきそう言われるようになりました。

 

 たとえば、行列のできるラーメン店でいやというほど待たされたとします。あなたは今までの待ち時間をふいにして列を離れることができますか?「ここまで待ったんだから...」と、なるはずです。

 食べ放題、飲み放題に参加すると、元を取るまで飲食しないともったいないと思ってしまう。

 パチンコで負けが込んでくると、勝つまでやめられなくなってしまう。などがよい例と言えるでしょう。

 

 さらに、月額会員制のサービスがつまらなくなったとしても、月末まで利用しないともったいないと思ってしまう。

 購入する都度ポイントが貯まって行く化粧品など、今まで貯めたポイントが惜しくて乗り換えができないなど、さまざまなケースがあります。

 

 今この事業を中止してしまうと、これまで費やしてきた広告費や人件費、大勢の社員の努力がもったいない...と思ってしまう気持ちが大損失を招く結果になってしまうのです。

 

 投資の世界には「見切り千両」という格言があります。この格言の意味は『損には違いないが、それによって大損が避けられるのなら、千金の価値があろう』というものです。

 

 私たちの心は限られた合理性(=限定合理性)の基に動くとされています。日常的に沸き起こる様々な錯覚が私たちの合理性を奪うのです。自分はまっすぐに歩いているつもりでも、後から振り返ると思いっきり曲がっていたりするものです。

 企業経営では、損失が極限的に拡大する可能性があるコンコルド効果(コンコルドの誤謬)だけは極力避けなければなりません。

 「見切り千両」、この言葉、頭のどこかに置いておいてください。