『女の子が森でクマの家を見つける。誰もいないので入ってみると、テーブルの上にお粥が置いてあった。1つ目のお粥は「熱すぎる」。2つ目のは「冷たすぎる」。3つ目のは「ちょうどいい」ので、全部飲んでしまう。

女の子は疲れていたので椅子に座ろうとした。1つ目の椅子は「大きすぎる」。2つ目のは「もっと大きすぎる」。3つ目のは「ちょうどいい」ので座ったが、椅子は壊れてしまった。

眠たくなったので寝室に行ってみると3つのベッドがあった。1つ目のベッドは「固すぎる」。2つ目のは「柔らかすぎる」。3つ目のは「ちょうどいい」ので、そこで寝てしまう。

クマが戻って来て、お粥は食べられ、椅子には座った痕があり、1つは壊されていて、ベッドには寝た痕があり、子グマのベッドには女の子が寝ているのを発見する。目を覚めた女の子はクマに驚き、慌てて家から逃げていった。』

これは、「ゴルディロックス3匹のくま」というイギリスの童話のあらすじです(Wikipediaより)。

 

 ここに登場する女の子の名前をゴルディロックスいい、人には「ちょうどいい」モノを選択する習性があり、それをゴルディロックス効果と呼ぶことの語源となった物語なのです。

 

 この物語にある通り、人は3つ程度の選択肢があると「ちょうどいい」という感覚が生まれると言われます。この性質を商売に利用している例をご紹介するとにします。

 

 レストランで三種類の食事のコースが用意されていたとします。それぞれのコース料理は、「松コース:6,000円」「竹コース:4,000円」「梅コース:3,000円」だったとします。

 

 もし、あなただったら、どのコースを選びますか?

 

 

 松コース:6000円は「ちょっと高すぎる」反対に梅コース:3,000円では「ちょっと足りないような気がする」と考えてしまい、間の竹コースを選択してしまうというものです。

 

 ケースを変えて、もし選択肢が竹コース:4,000円と梅コース:3,000円の2つだけだったとしたら、多くの人(10人中7人)は安い方の梅コースを選択してしまうのだそうです。

そこで、売上高(客単価)を上げるために、一番高い松コース:6,000円を新たに加えて、お客の選択を中位価格の竹コース:4,000円に誘導するという戦略を取るのです。

 

 ここで大切なのは、一番高額である松コース:6,000円は単なる「捨て石」ではないということです。

 ゴルディロックス効果の黄金比は価格比で「6:4:3」であると言われます。この時の購入比は「2:5:3」だそうで、客10人がいた場合、2人が一番高価な商品を選択することもあるということです。

 

 あくまでも統計的な数字ですが、以下にまとめるとこうなります(10人の客がいた場合、客はそれぞれ何を選択するのか)。

 

 

 客単価を引き上げたいと考えた場合、このゴルディロックス効果を利用した販売戦略を考えてみることも工夫の一つかと思います。

 

 ハンバーガーチェーン店で、LサイズとMサイズそしてSサイズの商品があると必ずMサイズ商品を選択してしまう自分がいたことが思い出されてしまうのは、しっかりとこのゴルディロックス効果に誘導されていたのだと気づかされます。

 

 人の心理効果を使ったうまいやり方です。簡単に引っかかってしまうのは私だけなのでしょうか。

 

 相当以前のことです、こんな話が実際にありました。掻い摘んで要約すると、

・自分たちはニューヨークで10億円の資金を投入した結果、為替の動向を100%に近い確率で当てることができるシステムを開発することに成功した。

・今回は特別にこのシステムを使ってお客様の資金運用ができることになった。

・ただし、一人が運用できる資金は2000万円を上限とする。

・毎月の運用報告は書面で通知され、分配金額も確実に振り込まれる。

 

 運用収益率はどの程度だったかは定かに覚えてはいませんが、何人かの知り合いがこの儲け話?に資金をつぎ込んでいた模様でした。結局は詐欺事件として後日新聞紙上を賑わせる結果となりました。

 

『確実に儲かるのであれば、誰だって“他人の金”を運用したりはしない。“自分自身の金”を運用するはず』(⇒他人に儲けをくれてやることはない!)

 

 資産運用会社のプロと呼ばれる人も同じで、本当に儲けることができるのであれば、誰だってサラリーマンなどしてはいませんよね。

 

 今回は『儲けと価格』のお話です。

 

 世の中、なかなか「儲け話」なんて言うのは落ちていないものです。たとえば、箱根で“温泉まんじゅう”が1個50円で売られていたとします。

 そして、同じ“温泉まんじゅう”が東京では1個100円で売られていたとしましょうか。

 このような状態を「価格の歪」と言うのですが、この場合誰もが、「箱根で“温泉まんじゅう”を仕入れて、東京で売る」ことを思いつきます。いわゆる『鞘(さや)取り』です。

 この「価格の歪」に気付いた最初の1人や2人程度がこれを実践する間は良いのですが、その内100200人がやりだすと、どうなるでしょうか?

 

 箱根での“温泉まんじゅう”の仕入れ値は上昇するでしょうし、東京での売価は反対に下落するでしょう。双方の価格が同じく75円で均衡する状態に落ち着きます。

 

 次に、時代は遡り、1498年ヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を発見したころのお話です。

 

 そのころのヨーロッパでは大切な食糧としての肉が腐るのを防ぐためにアジアで採れる香辛料が珍重されていました。そのころの香辛料はアラブの商人によりラクダなどにより陸路で運ばれていました。途中オスマン帝国による高い関税を課せられるなどして、ヨーロッパに到着する頃には金(gold)並みに高価なものになってしまっていたのです。

 

 大航海時代のスタートにより、貴重な香辛料を船により大量に運ぶことが可能となり、巨万の富を彼らにもたらしたのです。その後、我も我もと沢山の人が香辛料ビジネスに乗り出したのでした。

 その結果、貴重なはずの香辛料の価格は値崩れし、誰もが儲けが出ない価格水準にまで下落して行ったのです。

 その結果、船乗りたちは、新たな儲けを求めて東へと船を進めました。インドネシアを超えさらに東へ、そして1543年日本の種子島に漂着したポルトガル人が鉄砲を日本に伝えると言う副次的な出来事も起こりました。

 

 自由な競争が可能な市場では、同じモノの価格は同一の価格に収斂して行くという法則があります。これを「一物一価の法則」といいます。誰が取引したって同じ儲けしか得られなくなるというものです。

 

 “温泉まんじゅう”もアジアの香辛料も自由な競争市場では、一つの価格(最低価格)に収斂して行くのです。

 「ここだけ」「今だけ」「あなただけ」なんていう美味しい話なんて存在しないと思った方が賢く生きられると思います。

 

しかし、 「一物一価の法則」が真実であれば、物事には先行者利益しか存在せず、後から参入した者は低収益か無収益に甘んじなければならない運命にあります。

 

 今回の話しは、ここでは終わりません。

 もし、「一つのモノに多くの価格」が存在したらどうでしょうか(一物多価)。

「一物一価」の世界では儲け過ぎは許されない社会です。誰もが薄利に耐えなければなりません。そのような時代から抜け出すための方法の一つが「一物多価」というわけです。

 

 「令和は一物多価の時代」と言われるかもしれません。様々なものが多くの値段を持つようになります。

 

 既に、「付帯条件」を変えたり、「消費者の年齢」「消費する時間」「リサイクルやシェアの度合い」などを変化させることにより、様々な価格を実現させることが可能となっています。

 

 たとえば、航空券がそれです。予約の変更の可否、事前予約などの付帯条件の種類によって同じ座席の価格が違います。

 さらに、映画館では年齢による割引が、スーパーでは「タイムセール価格」が、既に多価化を実現しています。

 

 まだまだアイデアを搾れば、一つの商品やサービスで多くの価格を実現することが可能なのではないでしょうか。

 余多ある需要と供給を様々な角度からマッチングさせることにより、マッチングの条件やその他の環境を変化させることにより「一物多価」を実現させ『儲けの実現』に繋げることが可能となると思います。

 

 結論ですが、

  1. 儲け話は転がっているものではないし、ましてや他人を儲けさせてやろうなんて話は詐欺以外の何物でもない

  2. 一つのビジネスモデルは、先行者利益はあるものの、競合他社が増えるに従い価格は誰もが儲けが取れない価格(最低価格)に収斂して行く(一物一価)

  3. 令和のビジネスモデルは、需要と供給のマッチングを様々な角度から変化(付帯条件・年齢・時間・その他)させることで、需要に応じた価格を提供できる体制を整えることを戦略することも選択肢の一つとなる(一物多価)

 商品やサービスの差別化による経営も大切たと思いますが、視点を変えて自社の商品やサービスの「多価化」も考えて見ることも有りかなと思います。どこで買っても同じ値段を続けていても「儲け話」にはなりませんよ。

 

NKKの朝の連続ドラマ『まんぷく』、これは即席めんの誕生や成長を題材としたストーリーが好評を博したドラマでした。

 即席めんが日本でどのようにして生まれて、成長していく過程などが面白おかしく描かれていました。どのようなドラマでもサクセスストーリーは見ていても楽しいものです。

 

 当ブログでも『まんぷく』にあやかって、即席めんの話題を論じて見ることにします。

 

 即席めんが日本でうぶ声を上げたのは昭和33年(1958年)のことです。まず、日清食品が「チキンラーメン」を発売。その直後サンヨー食品から「ピヨピヨラーメン」、「サッポロ一番」が発売され、東洋水産から「ハイラーメン」、エースコックから「エースラーメン」などが登場して行きます。

 

 さらに、各社が市場に新商品を投入して行く過程で、「出前一丁」や「チャルメラ」などのヒット商品が生まれ、即席めん市場は拡大の一途を辿りました。

 

 しかし、昭和45年(1970年)に日清食品が「カップヌードル」を市場に投入すると、即席めん市場の様子が一変します。それまで拡大の一途を辿っていた袋めんのシェアがカップ麺に喰われていったのです。

 

 このカップ麺の市場でも激烈なシェア争いが繰り広げられました。平成5年(1993年)のトップ5を上げると、

第1位:カップヌードル (日清)

第2位:日清どん兵衛  (日清)

第3位:赤いきつね   (東洋)

第4位:スーパーカップ (エース)

第5位:緑のたぬき   (東洋)

となっいてました。

 

 カップ麺の次に市場に投入された商品は、生めんタイプのカップめんでした。

 平成元年に島田屋が「真打ちうどん」で生めんタイプを発売、次いで平成3年には加ト吉がラーメンを当市場に投入しました。これが、平成4年の日清食品の「日清ラ王」発売のきっかけとなったのです。

 

 以下のグラフは日本即席食品工業協会の公表データから即席めんの生産数量の推移を表したグラフです。

 

 

 昭和33年袋めんが誕生し世に出ました。最初は徐々に生産が拡大して行くものの、2年目からは爆発的に生産拡大が続きます。続いて登場するカップめんの生産量も同じような経路を辿るのです。さらに、前述した通り、カップめんの登場が袋めんの運命に大きな影響を与えたことを理解するのはこのグラフをご覧になれば一目瞭然ですね。

 

 今回のお話のキーは、製品や商品・サービスなど(これをプロダクトと呼びます)の将来性などの分析に使うツールのご紹介です。

 簡単に言えば、

  1. 市場の成長率:将来性が有るのか、無いのか

  2. 市場における占有率:儲かっているのか、いないのか

     この二つの軸でプロダクトを分析するものです。

    プロダクトポートフォリオマネジメント(Product Portofolio Management)と呼ばれ、省略して「PPM」とも言います。

 

 自分たちが取り扱っている商品や製品、サービスなどが、

  1. 「将来性もないし、儲かっていない(負け犬)」

  2. 「将来性はあるけど、儲かっていない(問題児)」

  3. 「将来性はないけど、儲かっている(金のなる木)」

  4. 「将来性はあるし、儲かっている(花形)」

    のどこに該当するかを考えて、

    「もっと金を突っ込もうぜ!」や「儲からないから、やるの止めようぜ!」などの経営戦略を立案するのに使うものです。

     

     即席めんでこのPPM分析を行うと、いろいろと面白いストーリーが出来上がります。

     

     昭和33年日清食品が袋めんを世に出します。その時はまだ、将来性も未知数ですし、当然儲けもありません。ですから、「負け犬」です。

     これが、将来性がだんだんと見えてきだします。でも設備投資などの費用ばかりが掛かり、儲けはまだ出ません。「問題児」です。

     その内、しっかりとした将来性が見え、次第に儲けが出てきます。売れ筋への進展がそこにはあります。「花形」へ昇格です。

     そして、広告宣伝などしなくてもしっかりと儲けを維持できる「金のなる木」へと駒を進めるのです。

     しかし、新商品(代替商品)のカップめんの登場が「金のなる木」の地位を脅かすのです。

     最後には、新商品にシャアを奪われ「負け犬」へと....。

     

     朝ドラの『まんぷく』のモデルとなった日清食日を例にとり、日清食品の中期事業計画などからPPMを推察してみると、

     

  1. カップめんのうちノンフライめんを「花形商品」

  2. カップめんのうち生めんタイプを「金のなる木」

  3. 袋めんについては既に「負け犬」としての位置づけである。

     

    今の日清食品の広告宣伝とうの経営資源の投入量からすると、上記はあながち間違っているとは言えないかも知れませんね。

     

     どこに、どのような商品に自らの経営資源を投入して行けばよいかを考えるための手法としては、このPPM分析は有用な方法なのかもしれません。

     

     AI(人工知能)の出現が様々な分野で語られだしてきました。いつ今までなかった製品やサービスが世の中に出現するか予断を許さない状況です。自社のどの製品やサービスが、今どの象限「問題児」「花形」「金のなる木」「負け犬」にあり、今後何に注力して行けばよいかを素早く考え行動しなけばならない時代だと思います。

     

    自社の次の「花形」や「金のなる木」となるべき製品やサービスを育てるための努力は惜しむものではないと思います。