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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回はBloodからで、T細胞性悪性腫瘍に対する第2世代CAR-T細胞の臨床試験をご紹介いたします。

 

Antitumor efficacy and safety of unedited autologous CD5.CAR T cells in relapsed/refractory mature T-cell lymphomas

LQC Hill et al, Blood 2024, doi: 10.1182/blood.2023022204

 

【要旨】

新規の標的療法にもかかわらず、一次治療に不応もしくは再発(r/r)のT細胞性リンパ腫の予後は不良である。正常T細胞と腫瘍T細胞のT細胞抗原が共通であることから、T細胞性悪性腫瘍を治療するためのキメラ抗原受容体(CAR)T細胞プラットフォームの開発には、T細胞の兄弟殺し(fratricide)を克服するための付加的遺伝子改変を必要とする。

 

我々はCD5陽性腫瘍細胞に対する強い細胞障害活性を保持する一方で、形質導入されたT細胞でのCD5蛋白レベルを抑制的に調節することにより兄弟殺しを最小化するCD5向性CARを開発した。ヒトに初めて投与する第Ⅰ相試験において、第2世代の自家CD5.CAR-T細胞がr/r T細胞悪性腫瘍患者から製造された。この論文では、成熟T細胞性リンパ腫(TCL)患者コホートからの有効性および安全性データを報告する。

 

試験に参加した17人のTCL患者のうち、CD5 CAR-T細胞は試みられた14の細胞ラインのうち13(93%)で製造に成功し、9人(69%)の患者に投与された。全奏効率(完全寛解もしくは部分寛解)は44%で、2人の患者で完全寛解が観察された。グレード 3以上の有害事象で最も頻度の高いものは血球減少だった。グレード 3以上のサイトカイン放出症候群や神経毒性は起こらなかった。2人の患者が急速に進行する原疾患のため、即時毒性評価期間に死亡した。

 

これらの結果から、CD5.CAR-T細胞は安全であり、r/r CD5発現TCL患者において内因性のT細胞を排除したり、感染合併症を増加させたりすることなく臨床的奏効をもたらしうることが示された。結果の正当化のためにはより多くの患者で長期間のフォローアップが必要である。

 

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再発難治性T細胞リンパ腫に対する、CD5をターゲットとした新規CAR-T細胞療法の臨床試験でした。T細胞腫瘍を治療対象にするCAR-T細胞の作成には難しさがあり、製造したCAR-T細胞が自身を攻撃してしまう(兄弟殺し)こと、製剤に腫瘍細胞が混入してしまうリスクがあることが挙げられます。

 

兄弟殺しを避けるための方法にはいくつかあり、一つは標的分子を変えることなのですが、例えば有望そうなCD30は全てのT細胞リンパ腫に発現するわけではなく、対象患者が限定されてしまいます。もう一つは遺伝子改変技術を用いることで、こちらも既に実用化されていますが(ブログでも紹介しました)、やはり高い製造技術が必要で、製造期間やコスト面も気になります。

 

 

今回の研究を発表したグループはCD5を標的とした次世代のCAR-T細胞を作成しました。CD5を標的とすると、上記の兄弟殺しが起こってしまうと予想されるのですが、同グループの先行研究によると、不思議なことに今回のCAR-T細胞は遺伝子改変技術を用いなくともCAR-T細胞上のCD5発現が低下し、限定的かつ一過性の兄弟殺ししか起こらないことが細胞実験やマウスモデルで示されました。

 

本論文は、いよいよヒトに初めて投与した臨床試験となります。再発難治性T細胞性リンパ腫に対する新薬の臨床試験での奏効率は10~30%台くらいが相場・・・という厳しい疾患ですが、今回の研究では少数例で確定的なことは言えないものの、44%の患者に奏効したということで、かなり有望な有効率を示しています。残念ながら長期間持続する効果までは確認できず、今後の第Ⅱ相試験での検証に期待したいと思います。

 

おまけ

 

 

先日の送別会で送り出したDSさんにプレゼントした似顔絵クッキーです。本当に長い間お世話になりました!