こんにちは。

 

今回は2か月ぶりの名実況列伝です。

 

扱うレースは、今夜放送されるウマ娘で描かれるであろう、2017年有馬記念。ただ、レース背景や実況に関してはウマ娘要素を抜きにしてお送りしていきたいと思います。アニメの感想はまた別に書きますので。

 

今夜放送される、と言いつつ放送までに書き上げられるのかが一抹の不安。不安の単位って抹なんでしょうか。二抹の不安とか使わないか。

 

それはともかく、レース背景から。

 

10月には毎週のように襲い掛かった大雨と重馬場から一転、11月に入ると概ね天候が回復。マイルCSこそ前日の雨の影響があったものの、その他のレースはすべて晴れの良馬場開催。中山コースも使い込まれてはいたものの比較的フラットなコンディションで、すべての馬が実力の最大限を発揮できるように下準備は整いました。

 

ファン投票2位サトノダイヤモンド、ファン投票4位レイデオロは出走回避。それでもGⅠ馬5頭、その他数多の有力馬で出走枠は埋まり、登録はちょうどフルゲート16頭。そんななか一桁オッズは4頭。

 

単勝1.9倍の1番人気は「お祭り男」キタサンブラックと武豊。2位サトノダイヤモンドより4万票以上多い124,641票を集め、堂々のファン投票1位です。これがラストランとなるGⅠ6勝馬は天皇賞秋1着、ジャパンカップ3着という臨戦過程。過去グランプリレースには春秋合わせて4回参戦していますが、いまだに勝ちはありません。オグリキャップ・ディープインパクトのラストランを導いた名手は公開抽選枠で見事内枠を引き当てました。有終の美を飾れるか。

 

単勝4.5倍の2番人気は「獅子心王」スワ―ヴリチャードとミルコ・デムーロ。ファン投票は16位です。春二冠を戦い、皐月賞6着、ダービー2着と栄冠を取り逃した3歳馬は、秋は有馬記念をとるための思い切ったローテーション。前走アルゼンチン共和国杯は好タイムで圧勝。最高のコンディションで古馬の一線級に胸を借ります。やや外枠なのが不安要素か。

 

単勝6.7倍の3番人気は「偉大なる馬」シュヴァルグランとヒュー・ボウマン。ファン投票は5位です。惜敗続きでビッグタイトルが遠かったハーツクライ産駒の遅咲きも、前走ジャパンカップにてオーストラリアの名手に導かれGⅠ初制覇を達成。中山競馬場での出走はこれで2回目となります。1回目は前年の有馬記念で6着。

 

単勝9.8倍の4番人気は「魔法の王冠」サトノクラウンとライアン・ムーア。ファン投票は3位です。大阪杯6着、宝塚記念1着、天皇賞秋2着、ジャパンカップ10着と古馬王道路線で印象的な活躍を見せた1頭は、キタサンブラックに次ぐGⅠ2勝の実績を引っ提げ、イギリスの鬼才ライアン・ムーアと初タッグです。

 

その他、

一昨年の二冠牝馬ミッキークイーンと浜中俊(ファン投票9位)

重賞5勝馬ヤマカツエースと池添謙一(12位)

激動の馬生は未だ途上の「幻の美酒」シャケトラと福永祐一(15位)

引退レースとなる前女王クイーンズリングとクリストフ・ルメール(39位)

激走気配漂わす唯一のステイゴールド産駒レインボーラインと岩田康誠(13位)

牡馬混合戦得意な名牝のラストランルージュバックと北村宏司(20位)

兄ラーゼンの思いも載せてサトノクロニクルと戸崎圭太(80位)

過酷な運命を乗り越えたブレスジャーニーと三浦皇成(75位)

札幌記念の覇者サクラアンプルールと蛯名正義(45位)

大外には「最強の2勝馬」サウンズオブアースとクリスチャン・デムーロ(18位)

兄妹3頭で重賞制覇を遂げた名牝の娘トーセンビクトリーと田辺裕信(81位)

王道路線にいつもいる不屈のハーツ産駒カレンミロティックと川田将雅(54位)

 

以上16頭。

 

ちなみに、これは全く関係ない話ですが、この年には1,278票を集めてファン投票77位に入った馬は、1年後に100,382票でファン投票3位となり武豊と共に有馬記念出走を果たします。さて、誰でしょう?

 

UtD「この年も有馬記念行くって言ったらよかったのに」

????「そしたらあんな盛り上がらなかっただろ」

UtD「逃げてレコード出したのに捕まえられた側の気持ちになってくれ。二度とごめんだよ」

 

閑話休題。

 

今回ご紹介するフジテレビの実況担当は青島達也アナウンサー。年末の絶叫がもはやおなじみといったベテランアナウンサーですが、この年が3回目の有馬記念実況。しかも、2012(ゴールドシップ!つよーーーーい!)と2013(目に焼き付けよう!これが!オルフェーヴルだあああああ!)以後の有馬記念は塩原アナウンサーが実況しており、久々の担当となります。

 

それではスタートです。

 

 

さあ舞台は整いました。第62回グランプリ有馬記念スタート。キタサンブラックもいいスタートを切りました。一番内の白い帽子、キタサンブラック武豊。早速先手を取る。まだまだ先は長い。

 

青嶋実況は独特の抑揚があり、他のアナウンサーの実況とは一線を画しています。その独特さは主に、リアルタイムの感情をぐっとこめることに起因することが多いです。スタートしてすぐのフレーズにもそれは現れています。「キタサンブラックもいぃースタートを切りました!」「早速、先手を、とる」など、その時々の感情に身を任せるように言葉を乗せています。青嶋アナはリアルタイムの昂奮が一番伝わる実況者であると評せるのは、こういった特徴があるところが大きいと個人的には感じています。

 

白い帽子、黒と茶色の勝負服、キタサンブラック先頭。小回り中山6つのコーナー。まず1つ、そして2つ目に向かいます。キタサンブラック先頭。2番手には福永祐一シャケトラ。外からはカレンミロティック9歳馬、川田。内にヤマカツエース、その後ろにクイーンズリング、クリストフ・ルメール。あと、後ろから赤い帽子トーセンビクトリーなどが追走します。最後方にサウンズオブアース。

 

さきに述べた特徴と真逆になりますが、青嶋アナはリズム感がある印象的なフレーズを要所で放つことがあります。アナウンサーごとレースに没入する瞬間と、離見の見(世阿弥が述べた客観的な視線のこと)を体現する瞬間で抑揚がついており、その切り替えも青嶋実況は非常にわかりやすいです。

 

私的にリズム感が良いのは「小回り中山6つのコーナー」というフレーズ。一息入れつつ、「まず1つ、そして2つ目に向かいます」と実況のペースを一旦落ち着けて、自然とトーンダウンさせてからの落ち着いた馬読み。ここで一旦トーンダウンすることで、正面スタンド前の大歓声への足掛かりを作っています。ライブ感のある実況でありながら、実は周到に練られていそうな実況でもあります。

 

正面スタンド前、16頭の雄姿。お客さんはみんな待っていた。これがラストラン、キタサンブラック。今武豊、ちらり、ターフビジョンの方を、タイマーの方を恐らく見た。流れはどうだ。ペースはどうだ。

 

「お客さんはみんな待っていた」のあたりは情感たっぷり。間を少し広く置いているのは、スタンドの大歓声を聞かせる為でしょう。そして武豊のわずかな視線の動きを逃さずにとらえ、「流れはどうだ、ペースはどうだ」とつなげていく。まさに名人芸。

 

武豊騎手の騎乗フォームは安定感がある分、僅かな挙動でも視覚的にわかりやすく映るのでしょう。「グラスワンダーを探しているのか、何を探しているのか、左右を見た、左右を見た武豊騎手、スペシャルウィーク」(99宝塚、杉本)のときはさすがに素人目にもわかりやすい動きでしたが、今回の視線移動は本当にわずかで、あらためて見ても見逃してしまいそうですが、確かにビジョンの方を見ています。

 

2番手にシャケトラ、福永ぴったりのマーク。そして内にヤマカツエース。その後ろにクイーンズリング。外の方からじんわりカレンミロティック。トーセンビクトリーなども押し上げてくる。ミッキークイーンは後方から。入りの1000メートルは61秒6というタイムです。

 

タイムを読み上げるために、ふたたびざっと馬読み。歓声が離れていく1コーナーから再びトーンを抑え、「外の方からじんわり」などは非常に優しく言葉を紡いでいます。私的な好みで言うと、ざっと馬読みをする際には人気馬にフォーカスしてほしいのですが、これはアナウンサーそれぞれの特質によります。前半1000メートルのラップタイムはスローペース。キタサンブラックには絶好のレース展開です。

 

さあこの流れ、武豊の狙い通りか。キタサンブラックこれがラストラン。有終の美を飾るか。2番手シャケトラぴったりマークは変わらず。内にヤマカツエース、池添謙一最内枠をひいています。外からカレンミロティックのピンクの帽子ちらりちらり。あとは、クイーンズリング続きました。外から赤い帽子の3枠2頭。トーセンビクトリー外、その内からサトノクロニクル戸崎。その真ん中にサクラアンプルール中山得意。蛯名、有馬2勝の経験。内ブレスジャーニー三浦皇成上がっていった。外の方から10番のシュヴァルグランここにいます。ジャパンカップを勝ったシュヴァルグランはヒュー・ボウマンとこの位置、ゼッケン10番。その後ろに宝塚を勝ったグランプリホース、サトノクラウン。その外にスワーヴリチャードがいます。スワーヴリチャード3歳馬ミルコ・デムーロ。そして内に8番のレインボーラインが続きまして、ミッキークイーン牝馬の切れ味、後ろから押し上げてくるサウンズオブアース、最後方に変わったルージュバックという形。

 

有馬記念の基本的な実況の構成は、スタートしての脚色→有力馬の位置orざっと馬読み→スタンド前通過に言及→ざっと馬読み→ペース言及→向こう正面で本格的に馬読み→3コーナー勝負所→……という形。今回は概ねそれに沿っています。

 

青嶋アナの馬読みの特徴は、馬名を読み上げたあとにその馬の特徴を付け加えることが多いこと。例えば、「中山得意のサクラアンプルール」ではなく「サクラアンプルール中山得意」、「3歳馬スワ―ヴリチャード」ではなく「スワ―ヴリチャード3歳馬」というようなフレーズの順番になっています。これが倉田アナの実況だったら前者の読み方になっていたと思います。

 

この馬読みは、馬名を素早く正確に読むことが出来る半面、フレーズの区切り方で視聴者に疑問符が浮かぶ実況になってしまうこともあります。「1番人気キズナ、ディープ産駒武豊は」(13東京優駿、青嶋)などはそれがモロに出てしまった形。なまじっか「キズナ」と「ディープ産駒」の間に息継ぎが入ったことが致命的でした。レースがナマモノな分、ブレスの位置で苦戦するアナウンサーは何も青嶋アナだけではないのですが、今回のレースは特にそういった疑問点がない実況だと思います。もしかしたら、「スワ―ヴリチャード3歳馬ミルコデムーロ」に引っかかる人はいるかもしれませんが、内外の関係や仕掛け始めの言及、付帯情報の豊富さなどを鑑みると素晴らしい馬読みと言って差し支えないでしょう。

 

2度目の3コーナー、まだキタサン、悠然と先頭。そして後続の各馬の動きはどうだ。ぴったりマークのシャケトラ。まだ、まだステッキは抜かない福永祐一。そして外の方から、トーセンビクトリー3番手。これは、追い出しのタイミング。我慢比べとなるのか有馬記念。

 

「悠然と」という形容がぴったりの逃げ方をしているキタサンブラック。後方に位置する馬は手綱を押していますが、先団の馬はいまだ仕掛けるタイミングを探っています。あっというまに4コーナーを回り直線。先に仕掛けたら負けだ、そんな福永・田辺・川田・池添・ルメールの声を聴いたかのように、青嶋アナも悲鳴のような実況となります。「我慢比べとなるのか有馬記念!」我慢比べとなったら誰よりも強いのは、先頭を行く勝負根性の鬼。おそらくこのタイミングで青嶋アナはキタサンブラックの勝利をどう描くかと思考をロックしたのだと思うのですが、どうでしょうか。聞いてみたい。 

 

さあ追った、キタサンブラック、すべての思いを込めて、武豊、ステッキ、一発、二発、離す、離す、離す、あと100。

 

青嶋実況の最終直線。レースに没入しすぎた結果、言葉が途切れることも多いですが、有馬記念は直線も短いですし、そもそも直線で洒落た実況をするより、その瞬間の熱狂をこめているような趣もあります。ラジオ実況だとおそらくアウトでしょうが、テレビ実況だとこれでいいとも思わなくはない。

 

個人的な意見を言わせてもらうと、青嶋アナの最終直線における名実況には繰り返しの短いフレーズが含まれていることが多いと思います。今回で言うと、「ステッキ、一発、二発、離す!離す!離す!」のあたり。その他、「行ってしまうぞ!行ってしまうぞ!」(04、スプリンターズ)や「これだ!これだ!目に焼き付けよう!これが、オルフェーヴルだああああ!」(13有馬)などが有名どころでしょうか。

 

2番手各馬が追いあう、真ん中シュヴァルグラン、外からスワ―ヴリチャード。しかし、これが男の引き際だ。キタサンブラック。

 

クイーンズリングに言及してないところは非常に惜しい。人気薄だったのでしょうがないかもしれませんが、2着馬への言及はほしい。今年の宝塚記念にて、岡安アナは最後までスルーセブンシーズの名前を言えなかった(そもそもヴェラアズールと勘違いしていた)ため大きく凹んでいましたが、その意識はぜひとも強くあってほしい。ここには書いていませんが、レース後、少し落ち着いてから2着争いに言及する際にも青嶋アナはクイーンズリングに言及していません。熱狂のさなか、おそらく抜け落ちてしまったか、それとも見えなかったか。名実況なだけにそこだけは本当に惜しい。

 

それもこれも、キタサンブラックがあまりに主人公すぎてすべての人の視線を釘づけにしてしまったからにほかなりません。実は、残り100メートルより前の最終局面において、スワ―ヴリチャードは内に、クイーンズリングは外に斜行をしているため、サクラアンプルールはその被害をうけ大きく後退し最下位入線。トーセンビクトリーやシュヴァルグランも厳しい競馬を強いられる格好になっています。

 

そして、このレースの決め文句、「しかし!これが!男の!引き際だあああああ!キタサンブラックゥゥゥゥ!」。名実況列伝は感嘆符などをつけないでお送りすることを基本としていますが、殊青嶋実況においてはその良さを半減させてしまうデメリットもあります。他局のマイクに声が乗るほどの絶叫は、否が応にもこちらの気分を盛り上げてくれます。北島三郎さんの所有馬が、あらかじめ引退レースを明言し、勝利して引退する。「男の引き際」はそんな事実を端的に言いあらわす最高の文言です。

 

中山競馬場、すべての人が拍手を送ります。強い。駆け抜けた男道、そしてスタンドの北島オーナーに、スタンド前のお客様が振り向いて一斉に手を振って拍手をして、おめでとうというそんな気持ちを伝えました。いやー、強かった。タイム2分33秒6、ラスト3ハロンが35秒2。キタサンブラック優勝。見事にGⅠ7勝。

 

北島三郎オーナーの万感の表情。スタンドの一体感。今年もそうでしたが、主人公に勝たれてしまっては、どうにも仕方がない。どこをどう切り取っても絵になってしまう。

 

何とか書き上げました。実際にテレビで観戦したレースとはいえ、6年前ともなると記憶もあいまいで、そもそもその時期には今ほど競馬にのめり込んでもいなかった。改めて振り返ると新たな発見があってやはり面白い。

 

是非、今夜放送のアニメウマ娘と比べてみてください。ウマ娘12話感想も放送前には投稿いたします。

 

それでは次回予告をば。

 

「目下4連勝中のイブンベイ、イブンベイが行った」

「カラフルな勝負服が躍ります」

「エンジン全開、4速5速6速!」

「オグリキャップ頑張れ!オグリキャップ頑張れ!」

 

レース単体のインパクトが強すぎて、実況がフィーチャーされないところを一つ、取り上げてみようと思います。「事件」と形容されるレースさながら、実況も他では見ない、異様なものに仕上がっています。お楽しみに。

 

それではまた。