STILL LIFE
「おみおくりの作法」★★★★☆
(UK/Italy, 2013)
ひとりきりで亡くなった人の葬儀を執り行う孤独で真面目な地方公務員を主人公に、
見ず知らずの故人の人生に誠心誠意向き合う姿をユーモアとペーソスを織り交ぜ優しく綴る。
主演は「HAPPY-GO-LUCKY (2007)」で気性の荒い理不尽な自動車教官を演じたエディ・マーサン。
同一人物とは思えないほど、正反対のキャラクターを演じている。
公務員のジョン・メイは温厚で、温和で、丁重で、マイペースでいつも無表情。
突然の解雇を言い渡す非道な上司にも彼は無表情で、冷静な態度をとる。
しかし後半、少しづつ心に溜まって行き場のなくなった感情が溢れ出てくる。
剣幕に上司に詰め寄り、調査の延期を懇願するジョン・メイ。
却下に立腹し、上司の車にいたずらするジョン・メイ。
故人の身内に、お墓の立地の素晴らしさを興奮しながら熱弁するジョン・メイ。
抑えていた感情が、どんどんどんどん身体から溢れてくる。
そして最期にようやく彼の表情にもふわっーと感情が表れる。
端的にいうとテーマは『孤独死』。
字面や音から強烈な悲壮を感じる、あまり気持ちのいい言葉ではない。
本編の字幕ではあまり(たぶん一度も)使われていなかったかな。
本編のセリフで「葬儀は残された人のため」とあった。
日本でもよく言われるフレーズだと思う。私も一部同感していた。
でもこの映画を観ると、やっぱり「葬儀は故人を見送るため」にあるべきと考えさせられる。
孤独だったジョン・メイ自身の終焉は、彼を敬愛する多くの人に見届けられた。
ここ数年で一番をつけたいぐらい素敵なラストカット。
MOONLIGHT
「ムーンライト」★★★★☆
(USA, 2016/TheProjector)
貧困地域に生まれた孤独な黒人少年が自らのセクシャリティに悩みながらも成長していくさまを、少年期、青年期、成人期に分けて描いたヒューマン・ドラマ。第89回アカデミー賞で作品賞を獲得。監督は長編2作目の新鋭バリー・ジェンキンズ。
観よう観ようと思いながらも、なかなか足が向かない。
これまで観た同題材の映画「わたしはロランス」や「ヘドウィグ・・・」は
性と心の不一致にもがきながらも、どこか華やかな世界にいた。
本作は"貧困地域に生まれた孤独な黒人少年"が主人公。
設定に哀愁を感じ重たいなと思い、腰が重くなった。
これは万全の体調で挑まないと、なかなか立ち直れなくなるのではと。
そしてしっかり体調を整えて映画館に向かった。
まずはキャスティングがなかなか特異。
主人公シャロンを幼少期、10代、青年期に分けて、
オーディションで選ばれた3人の役者が演じている。
この3人には、通常狙うであろう外見の似た雰囲気が全くない。
どうしたって雰囲気の似ている3世代の役者を選ぶのが常だが、この3人にはそれがない。
世代が次のシーンに移ると、少し混乱してしまう。
あれ?どれがシャロン?と。
会話を追ってようやく判別できる。
なのに観ている内に、どんどんシャロンだと確信する。
話し方とか、姿勢とか、そしてなにより目。
貧弱な青年が、ムキムキになって金のネックレスにグリルつけてたって瞳がシャロン。
とっても澄んでて綺麗。
実際は他人のはずなのに、すごく不思議。
これほど純粋なラブストーリは他にない。
オスカーの歴史を変えたと評されるのも大いに納得。
http://moonlight-movie.jp/
RAMS / Hrútar
「ひつじ村の兄弟」★★★★☆
(Iceland/Denmark, 2015/TheProjector)
2015年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリに輝いたアイスランド映画。
40年間も不仲の老兄弟が、大切な羊たちに訪れた絶体絶命の窮地を前に思わぬ行動に出る。
”ひつじを愛しすぎた老兄弟が巻き起す、まじめでおかしな大騒動”
こんな表記なもんだから、コメディよりかと思い気軽に観に行ってしまった。
なんとも切実で切ない。
酔いつぶれた兄弟をユンボで搬送し病院の前に放置するシーンですら悲壮な音楽をつける。
疫病に犯されたひつじを自分で”処分”するというシーンもしっかり映してる。
製作者らはいたって真剣。
この作品には悪者は誰ひとりいない。
みんな純真で懸命。
それだけにラストカットはたまらなく切ない。
ELLE
MOMMY

「Mommy/マミー」★★★★☆
(Canada, 2014)
2009年の「マイ・マザー」で鮮烈なデビューを飾り、以来世界中でもっとも注目を集める
私も大好きな映画監督の一人、グザヴィエ・ドラン。
母と息子の愛と葛藤を、架空の世界を舞台に、アスペクト比1:1を多用したユニークな画面構成で瑞々しく描き出したドラマ。
見慣れない1:1という幅の狭い画面にストレスさえ感じる映像。
そして主人公の感情とともにアスペクト比が変わるという面白い手法をとっている。
ドラン作品でいつも圧倒されるのが、登場人物のほとばしる感情。
抑えきれずにあふれ出す感情を、俳優から引き出しているのは監督だと思うのだけど、
どうやったら虚構の世界の感情をあそこまで搾り出せるのかと不思議に思う。
怒りを表すために大声を出すのではなく、怒りに任せて大声がでる。
演っている方も、撮っている方も疲れるだろうな。
観ている方もぐったりする。
綺麗で美しく、身勝手で自分本位な、様々な愛の形を見せられる。
彼の作品を観て最後に思うことは毎回同じ。
なぜたかが20数年生きただけで、人間の奥底の感情をこれほど表現できるんだろう。
ほんと天才通り越して怪物。
TONI ERDMANN

「ありがとう、トニ・エルドマン」★★★★☆
(Germany/Austria, 2016/TheProjector)
ヨーロッパ映画賞を席巻したということで期待大。
ジャンル表記は"コメディ"だったり"ヒューマンドラマ"だったりと様々。
それもそのはず。
皮肉たっぷりのセリフとか、父親の奇行が笑えるものの、何だか常に哀愁が漂う。
全てのユーモアが切なく映り、とても不思議でこれまでにない感覚。
手持ちカメラでワンカット長回しが多く、挿入音楽が一切ない。
そのせいか、映像や俳優の一挙手一投足への集中力は増すばかり。
シーン中やシーン終わりに適度な余韻を持たせ、なぜか緊張感が途切れない。
体感として約2時間30分とは思えなかった。
ラストシーンの細部まで目が離せなく、さらにエンディングの音楽は5拍子?という耳慣れないリズムで、最後まで不思議な感覚。
私はこの父娘から何か感じ取ろうと必死に映像を見入る。
でも掴めそうで掴めない。
この父娘の心の奥底に手を入れて、微かに何かが指先に触れるけど、届きそうで届かない、
指先で転がせるだけで、しっかり掴めない。
この父娘にしか伝わらないことがあって、この作品はそれを敢えて観客に伝えようとしていない。
映画を観て、その世界に入って、共感した気になって、共有された気になって、
でも実際はそんな単純なものじゃない、とすかされてしまう。
人間の心は1+1=2なんて単純じゃないんだと。
全てが右とか左とか、上とか下とか、1とか0とか、黒とか白とか、そんな明確じゃないと。
全てに答えがあるわけじゃなく、全ての答えを見つける必要もない。
そして答えがないという答え、というソクラテス的な出口で、とりあえず落ち着く。
不思議な感覚がずっと続く。
そして父になる

「そして父になる」★☆☆☆☆
(Japan, 2013)
この映画の公開当時とても興味があったものの、
俳優陣の面々にその興味が薄れてしまい鑑賞を見送っていた。
この作品の興味はただ一つ。
育ての親か血脈か、という難題を、この映画として、この物語で、この2つの家族はどういう答えを出したんだろうと。
内容は、有象無象の対照的な家族と、想像の範囲内でのストーリー展開。
そこは目をつむり、ぐっとこらえてラストまで観る。
しかし肝心のラストの答えは結局、あやふやにどちらとも取れるような描き方でエンドロール。
あ、是枝監督、逃げたな、ととっさに思った。
この2つの家族には答えがあったはずなのに、それを描かなかった。
敢えて見せなかった、濁した。
何の批判を恐れたのか。
これも一つの答えだと、他の誰にも批判させないぞと、堂々と描けばいいのに。
監督なのか、プロデューサーなのか、スポンサーなのか。
兎にも角にも、落胆。がっかり。
どうしても、この作品の公開当時に観た『もうひとりの息子(2012)』という同題材の仏映画と比較してしまう。
対立するユダヤ系とパレスチナの18歳の息子の入れ違いというかなり複雑な環境下。
そしてこの作品の答えは、血脈ではなく育った家族とこれまでどおりの生活に戻ること。
ラストシーンのセリフ「君が歩むはずだった人生を、僕が精一杯生きるよ」と。
素晴らしく美しいエンディング。
NOCTURNAL ANIMALS
「ノクターナル・アニマルズ」★★★☆☆
(USA, 2016/TheProjector)
前作『シングルマン』に続くトム・フォード 第二作目監督作品。原作はベストセラーの同名小説。
前作シングルマンでは”美しい映像美”なんて評されていたけど、
私の印象はそれより人間ドラマが色濃くセリフが秀逸だった。
主演エイミー・アダムズは鬼才なデザイナー役。
奇妙な個展と音楽で始まり、終始不穏な空気が彼女を取り巻く。
ある日、小説家志望だった元夫から突然小説が送られてくる。
それを毎夜読み進めるうち、現実と小説の世界が交差していく。
夫はエイミーの頭の中の小説の回想シーンでしか登場せず、現実の世界には現れない。
小説のシーンはあくまでもエイミーのイメージとはいえ、
最悪の状況で家族を守ろうする元夫に、なぜか必死さが欠けている。
緊迫した状況なのに思わず笑ってしまう。
そしてラストカットのエイミーの瞳。
傲慢で自信家の彼女がついに敗北を喫する。
After the Storm
「海よりもまだ深く」★★★☆☆
(Japan, 2016/TheProjector)
挫折ばかりの人生を送る男がひょんなことから別れた妻子と、母親の家で一晩を過ごす一日を、是枝監督らしい人間味あるタッチで綴る作品。
『誰も知らない』然り『歩いても歩いても』然り、団地の日常を描かせると、
この監督の右に出る者はいないと言ってもいいぐらい。
日常をありのままに撮って、一本の映画にして、それが海外でも評価される。
武器も何も使わず素手で、全裸で戦っているような。
たまに有る興行的な映画さえ撮らなければ、素晴らしい監督だと思う。
Pielot goes wild
「気狂いピエロ」★★☆☆☆
(France/Italy, 1965/TheProjector)
ジャン=リュック・ゴダールの描く、「勝手にしやがれ」と並ぶヌーヴェル・ヴァーグの伝説的な作品がデジタル・リストア版で再上映。
過去に一度観た微かな記憶が引き出される、、ことなく、
初めて観るかのように振り回された。






