前回
https://ameblo.jp/ids-gaichu-h/entry-12574900037.html?frm=theme
小山先生の講演内容に戻ります。扱いきれなかった要素がありますので補足を。
CPUE(Catch Per Unit Effort)
単位努力当たりの捕獲数
アライグマ防除の有効そうな指標として専門家の間で用いられているのがこのCPUEというものです。獣医大の加藤先生も扱っていました。今回小山先生は鳩山での防除にこれを応用して里山での捕獲努力、生息密度の推定をして下さいました。
分かることは主にこんな感じです。注目するのは
・設置した罠の台数
・罠を設置した日数
・日数内に捕獲された個体数
の3つです。「努力」は台数と日数によって示され、「捕獲数」は当然その間に捕獲された個体数です。これから分かるのは、主に罠1台あたりでどれくらい捕獲しているか、1日あたりにどれほどの数が平均して捕獲されているかです。
これによってその場所のアライグマの生息密度がおおよそ分かるという仕組みです。スライドにあるように、努力に対して捕獲数が少ないほどその場所の生息密度は低く、努力に対して捕獲数が多いほど生息密度は高いということです。
少ない罠で毎日のように捕まるのであれば生息密度は高く、多くの罠を仕掛けてあまり捕まらないなら生息密度は低い。あとは具体的に自治体ごとに比較しなければ分かりにくいので、理想を言えば各自治体のCPUEが換算されて公開されれば研究機関などの研究にも活用されていいとは思うんですが・・・。
話を戻して、小山先生が2017年度の捕獲にCPUEの計算をした結果が以下の通りです。
注目してほしいのは「1.89」というCPUEで、ほぼ1年間罠を設置し続けて、要は1日あたり1.89頭は捕獲されていたということです。54頭を罠8台で捕まえていたわけですから、埼玉県内の同じくらい捕まる自治体よりはだいたい少ない罠の台数ですし、何より基本休日は罠を閉める決まりになっている自治体の防除よりも多い日数設置、見回りをしている点は自治体の努力をかなり上回っていると言えるでしょう。
さらに細かい指標も出されています。
前回の結果のように2017,18の2年間で中心部の定着をほぼ防ぐことができたわけで中心部のCPUEは低く抑えることができています。しかし周辺部は1.82から3.1にも増加しており、全体のCPUEも2018年度は1.89から2.06へと増加しています。この点からも里山内部の生息密度を減らしても周囲からやってくる、通過するアライグマは依然として多いことが伺えます。発表当時はまだ4カ月間しかわかっていない2019年度のCPUEも3.1よりは減っていますが2.08とそれなりに高い数値です。
この数値からも、一見すると捕獲が少なくなったからといって生息密度が減ったとは言い難く、理想としてはできるだけ多くの罠をアライグマを減らすべき領域に設置し続けて、CPUEが低くなるところまで防除を続けるべきだということです。
獣医の方々と防除の関係
さて、これまでにも触れてきましたが、小山先生たちがどのように防除をされているかをご紹介。
ご夫婦ともう一人の3人の誰かがほぼ毎日(今日もでしょう)病院の開業前に罠を見に行っています。当然ご夫婦は獣医なので、2人がアライグマの処分を担当しています。その方法がまたすごいんですよ。
先生たちはこの通りその場で、薬で殺処分を行っています。僕も詳しくは知らないんですが、麻酔薬を打ってから殺処分用の薬を注射していると聞きました。「保定」とはアライグマを押さえつけて動けなくすることなんですが、ほとんどはおとなしい個体なのですんなりと注射ができるようです(「ほとんど」を外れた、常にこちらを向いて威嚇してくるような奴の場合どうするのかは分かりませんが・・・)。
それでも危険度が高いアライグマに直接注射をし、さらにその薬代もほとんど自己負担で防除をされている点はかなりの負担と言えるでしょう。いちいち捕獲した個体を運搬して別の場所で殺処分する手間も省けて極めて効率がいい方法ですが、当然薬を用いた処分は獣医資格のある人間にしかできませんので、いかに小山先生ご夫婦が尽力されているかがお分かり頂けると思います。
極めつけが殺処分後の処置です。単に殺すだけでは終わらず、病院に持ち帰ってX線撮影、年齢測定、メスの場合は解剖まで行って詳細な測定を行った上で、さらには死体は自ら処理場へ搬入しているときます。おまけに血液とダニは検体として国立感染症センターに送ってどのようなウィルス、細菌を保有しているかを検査している・・・。間違いなく埼玉県の全自治体以上に念入りな処置をされています。僕たちも測定はしていますがしょせん身長と体重、おおよその年齢の測定程度しかやってませんのでいかに先生が殺処分するだけでなくそこから情報を得ようと努力されているかが分かると思います。
以上のことからいかに小山先生たちが異様なまでの努力をされてアライグマの防除を行っているかが分かりましたが、ここで問題になってくるのは獣医の方々への負担です。
防除計画の手引きには、理想としては獣医の立会での速やかでアライグマにストレスを与えない処分が望ましいとありますが、対応できるだけの獣医の確保は困難だとあります。そりゃそうですよね、年間何千頭も捕まるというのにそう各所に対応してくれる獣医がいるはずはありませんからね。
ただし埼玉県の場合は現在年間約5500頭のアライグマが殺処分される内、2000頭は獣医が処分しているそうです。自治体は捕獲だけで殺処分を近隣の獣医に任せている場合も多いです。ここでも大きな問題があって、先ずは何より殺処分をやってくれる獣医が少ない上、殺処分に関わる費用は獣医にはほとんど出ていないと聞きました。ある自治体では単に捕獲されたアライグマを獣医のもとに持ち込むだけの業者には1頭あたり数万円が支払われるのに獣医はほぼタダで殺処分をしているそうです。つまり、獣医の方々の協力はほとんど獣医の善意によってのみ行われているというわけです・・・。
この状況だというのにアライグマの捕獲数=獣医の方々の負担は年々増加しているわけですから、終わりの見えない殺処分にそれまで協力して下さっていた獣医の方々が限界だと処分をやめる日もそのうち訪れてしまいます・・・。ただでさえ動物を助けることを使命だと思っている方々が多いであろう獣医が動物を殺し続けることに気が進むはずはありません。
この点に対して小山先生は対策案を出されていました。
必ずしも開業医、勤務医ばかりではなくとも獣医免許の所持者がいることに先生は目をつけられました。こうした方々に協力してもらえれば現在よりは人手を増やすことが出来るでしょう。また、各地に設備を備えた処分場を設置する事で運搬の手間を省くこともできると提唱されていました。このような施設は千葉県でいくつか作られたそうですが、施設が少なく、捕獲が多い地域から離れていることからまともに機能していないそうです。しかし狭い埼玉県の各地にこうした施設と近隣の免許所持者に御協力頂ければかなり負担を減らすことができるでしょう。
他にもこのままの形で防除をつづけた問題と有効そうな対処方法を先生は挙げて下さいましたが、結局はそれに伴って人を繋ぐ仕組みと、皆さんに相応の報酬が支払われる組織図ができなければ実現しようがないわけであり、改めて従来の組織同士の枠組みを超えて動く必要があるのは間違いないでしょう。
何より早いのは、どこかの投資家がボーンとウン千万ほど投資して僕たちで計画を実行して結果を出すことなんですがね(笑)
ともかく、先生方や僕たちが思っているような計画の実現の道のりは険しいということです。
この問題の現状を少しでも知って頂ければ幸いです。