今行ってるのはコントラバスの修理です。
横板の下の一枚が端から端までぱっくりと真っ二つに割れました。

横板の修理がほぼ終わりました。
それ以前の写真が無いので残念ですが

割れたのは今回が初めてではなくもう一つ端から端まで割れて修理した後がありました。
過去の修理はとてもおおざっぱなものでした。割れは隙間が空き向こうが見えるほどでした。
古い木片を外すと端から端までぱっくりと開いてこれも接着しなおすことになりました。
これでもほかの横板に比べるとましな方です。すべての修理をやり直すことはとても不可能です。

真ん中の方はこんな感じで補強だらけです。
古い接着をやり直しても隙間が無くなりましたから、しっかり接着をすれば厚みが3mmくらいあるのでくっつくのですが、しっかり接着せず大きな木片で補強するというやり方でした。一つ一つの仕事を確実にやるべきだと思います。
何もかもがおおざっぱで雑に行われています。今回の修理はこれまでの修理でも初めて丁寧に行われたものです。
とんでもなく時間がかかり、一つの木片を取り付けるのに1万円以上はかかることになります。ざっと30万円はかかってしまいます。
しかしコントラバスの横板の修理の問題は、横板そのものではなく表板を開けて再び閉めることにあります。そっちの方がはるかに多くの費用が掛かるでしょう。
職人には大きく二つのタイプがいることがわかります。丁寧にきちんと仕事をする人と、大雑把で強引なやっつけ仕事で行う人です。
ヴァイオリン職人について語っていますが、そのどちらを言っているのかによって全く違ってきます。
後者でもイタリア人であれば「名工とい言われています」と営業マンが説明しています。
それくらいはみなさんにも見分けがついてもらいたいです。

あご当てのネジの交換です。
左のネジから右のネジに交換したいというお客様の希望です。またあご当てを薄くしてほしいという希望もありました。
右の方がネジが細いので穴がぶかぶかです。あご当ての穴を埋めて穴を開け直しました。2時間はかかりましたから今の物価と為替なら工賃が3万円ほどになります。
あご当て自体は何でもないもので4000円位のものですが、あごにうまくフィットするのでカスタマイズして欲しいという依頼でした。
これも常連のお客さんだからやるのであって、普通はこんなことに3万円も出す人はいないでしょう。
職人として仕事に取り組めばできることがありますが、経済的にはどんどん難しくなってきています。
一つの作業をするだけでそんな費用になるのに、音のことになると理屈ではないのでいくつものパターンを試してみないといけません。何倍ものお金を払って何通りかのことをしてその中でベストを選ぶ必要があります。
現実的には楽器を健康な状態にキープするだけでも費用が掛かりすぎです。
覚悟してください。

ビオラの裏板を平らにします。
材木屋で製材された板を買って来るのとは違います。板が全く平らではありません。のこぎりで切られてから20年近く寝かせてその間に歪みが出たのを平らにします。新しい木であればそれだけ歪むという事です。
このときスクラブプレーンという粗削り用のカンナを使います。
これは日本にはないタイプのカンナで

平らな台に丸い刃がついています。

これで削ると

ガタガタに削れます。
抵抗が少ないので早く粗削りができます。

この前買った定規で確認します。
ガタガタはしていますが全体として平らになるようにするわけです。
日本の場合古くはチョウナという鍬(クワ)のような形の刃物がありました。粗削りはそれで行ったのです。
チョウナは日本には独特の形がありましたがそれ自体は斧に次いで原始的な工具です。石器時代から石で作られたものがあり、20世紀に機械が発達したことで使われなくなりました。人類に何万年も使われてきた工具が我々の生きてる時代に失われました。
建物の柱はもちろん丸太をくりぬいて丸木舟を作ったり、臼を作ったりもしました。イタリアでもルネサンスの絵画はポプラの板に描かれましたが、裏側を見るとチョウナで削ったと思われる跡が残っています。
ヴァイオリン製作でも同様であったと考えられます。例えば大きなノコギリは二人で両側を持って木材を切っていましたが、現在の製材所に比べると大雑把なものです。ちょうどこっくりさんの様な感じでどう切れるかもわかりません。それををチョウナで削って板にするとすれば、そんな感覚なのでアマティやストラディバリ、デルジェスのアーチの高さがバラバラなのでしょう。今はトーンウッド業者の段階で厚みが揃っています。そこからさらに0.1mm単位にこだわる職人が出てくる始末です。一枚板は例外でかなり厚めになっています。

このような作業でもモクソンバイスはうまく機能しています。
賃金が上がっているので時間×単価で値段を計算するとビオラの値段は400万円くらいになるでしょう。それでも医者やITなど他の産業に比べると一時間の単価は半分以下で貧乏なくらいです。
私が仕事以外の時間に半分趣味で作っているので値段はずっと安くなります。
2年くらいかかるでしょうけども、手抜きはしたくありません。業者に卸すなら最低限の労力で売り物になるものを作るのがプロですが、そんなことはやりません。
だから、いくつも楽器を作って音の良い楽器を選んで他を捨てるような無駄なことはできません。試作して音が良い作り方を探求する余裕なんて無いのです。
幸い若い頃に私はいろいろやったのでこれからの若い人には厳しいでしょう。
コントラバスの仕事で腰が痛くなるのでこの程度です。