
コントラバスの修理です、コーナーが無い変わったタイプのものですが19世紀のものです。過去の修理も多いですが大きな木片を張るよりも小さいものをたくさん貼る方が、力を上手く分散させ音への悪影響も少ないと思います。この修理を見た人は「粗い仕事だな」という印象を受けます。
コントラバスは修理費用も高いので安上がりに大雑把に行われることが多いです。
弦楽器の修理では割れを接着した後に補強する方法があります。
私は木片を貼り付ける方法を基本としています。

この楽器にもたくさん割れがありますが、補強は木片ではなく羊皮紙のようなものが貼られています。ひびの所にテープのように張るわけです。
傷が開かないようにという事なんですけど、横方向は補強できておらずグニャグニャになっています。
今回のコントラバスで特に問題はエッジの修理です。
大きな材木が必要ですが過去の修理では木目の向きが滅茶苦茶でした。
開けようとするといろいろな方向に裂けていきます。
平らな板はギター用のものなどが市販されていますが、のこぎりで切ってあるので繊維の向きがわかりません。

今回の修理ではこのような材料を使います。真ん中で真っ二つに割りました。
もともと割ってあるので繊維の向きの通りになっています。
巨大な塊ですが意外と簡単に割ることができました。
木材は分厚い方が簡単に割れてしまいます。薄い板であれば弾力があるため多少粘りますが、分厚い木材は変形することができずパカーンと割れてしまいます。
板の厚みでも話していますが、板が厚いからといって割れないという事はありません。

このような大きな木材では重量級のワークベンチが必要です。
全部やり直すとなると何週間かかるでしょうか?
開けたときに裂けて壊れたところだけ直せばまだましです。

やってみると大きい分かえってヴァイオリンやチェロよりもやりやすいようです。
ヴァイオリンやチェロでは型を成形してあてがって加工します。表板はグニャグニャしているので型に固定しないと加工している面が真っ直ぐになっているかわからないですし、曲がった表板に木材を貼り付けると出来上がった後も表板に変なストレスがかかったり割れたりします。
それがコントラバスではフリーハンドで空中です。それができるのは平面を感じ取る勘が身についてきたからでしょう。
私の中ではアバウトな修理ですが、過去に施された修理に比べるとずっと精巧になっています。
コントラバスの修理はまじめにやると修理の依頼が殺到してしまうという問題があります。
代金も高いわけですが、国立のオーケストラなので支払えるというわけです。
税金じゃないかと思うかもしれませんが、保険代を国営の楽団で払っているという事ですね。
それでもコントラバスの方が保険の料率は高いですし、他の加入者の料金から支払われていることには変わりありません。
とはいえ次々に壊れたコントラバスを持ってきて困ったものです。
音楽家の選ぶコントラバスのチョイスが信じられません。まるで名門オケでは状態の悪いバスをこぞって求め合っているようです。

作っているビオラですけどもこんな平行四辺形のような板でも自作のモクソンバイスで固定することができています。
真ん中の列にもベンチドックを取り付けられるようにしておいてよかったです。

面白い模様の板目板です。
黒い部分があります。節ではなくただ黒くなっているだけで強度には問題がなさそうです。避けられるかギリギリですが、白木のうちは目立ってもアンティーク塗装にすれば気にならないことでしょう。
自然のものですからほくろみたいなものです。
模様も含めて二つと同じようなものはみつからないことでしょう。

表板は未だに決まっていません。
割ってある木ですがねじれがあって結局真っ直ぐにはなりません。
通常ビオラは少しヴァイオリンよりも大きいので少し粗目の木目のものが使えます。
ただ音では、粗い木目の方が明るい音になり、細かいものの方が暗く柔らかい音になる傾向があると思います。
音に個性は出ますが一長一短でどちらが優れているとは言えません。
ましてや今回のような大きな塊ではコンコン叩いても響かず音なんてわかりません。
分からないことは分からないと素直に認めるほうがいいと思います、それを木材をコンコン叩いて「これは音が良い木材だ」なんて言うようだと何もかも言うことが信用できません。
針葉樹は夏と冬で成長の速度が違うため年輪に現れます。冬の部分は硬く密度が高いので線のように見えます。夏の部分は密度が低く柔らかいのです。
このため単純には強度を言うことができません。
冬目が太く硬いものは板自体も硬めになります。低音は引き締まりボリューム感は減ります。小型のビオラでとなるとヴァイオリンに使うようなものの方がいいということなるかもしれません。
こんな事も発想の転換でふつうは思いつかないことです。
どうせまっすぐでないなら、のこぎりで切られている他のストックも検討してみます。

横板は裏板の木材の端を切ったものです。これをスライスします。
裏板が板目板のピエトロ・グァルネリ作ヴァイオリンの場合にはネックや横板が柾目板で裏板とは合わせていませんでした。
普通に考えれば横板と裏板は同じようにするでしょう。それがグァルネリ家のいい加減な所で面白いです。
横板と裏板が同じ材木から切り出されていることは多くはありません。
材木屋でもセットで売られていることが少なく、買った後も保管するために横板と別々にすると見つからなくなってしまいます。
せっかくユニークな木目なので同じ材木からとりたいと思います。
これからビオラを作っていきますが、オールド楽器のようなものを目指して行きたいと思います。型もアマティがベースなので典型的なものです。
オールド楽器というのはその時代の人には合理的と考えられていた製造法だったと考えています。
しかしその後の時代でもっと簡単に楽器を作る方法が見つかっていくので、今からすると余計なことが多いように思えます。
ヴァイオリンやチェロを含めてオールド楽器の中では、小型すぎるモデルやアーチの癖が強すぎるものがあり、オールドの中では癖が少ないアーチのものがベターかなと思います。
それに対して現代の楽器はいずれも癖がなさすぎます。
オールドの中で望ましいものをさらに発展させたものが現代の楽器というわけですが、やり過ぎじゃないかと考えています。
今の我々からすると癖が強いアーチを目指してようやくオールドに近づくというわけです。
アーチに癖が強いと響きや鳴りを抑えてしまうと考えられてきたことでしょう。どんどん癖を無くした結果が現代の楽器の音です。
それで絶妙な加減を探っているのが私の楽器作りなんです。
ですからめちゃくちゃ鳴るとか音量があるとかそういう話ではありません。
先日若いヴァイオリン教師がドイツ戦前モダンの名器のパウル・クノーアとフランツガイゼンホフを弾き比べていました。ウィーンのガイゼンホフは若い頃はシュタイナー型のものを作っていましたが、ストラディバリを真似て癖が少なくなっています。
私はガイゼンホフは暗く繊細で柔らかい音だと感じていましたし、クノーアは明るく輝かしい強い音だと考えていました。
実際に先生が弾いてみるとガイゼンホフでも力強さがあり、クノーアは思ったほど音量も感じませんでした。楽器なんてそんなもんです。
こうなると音色が圧倒的に美しいガイゼンホフの圧勝です。
正しく作られ100年も経った現代の楽器が惨敗です。
しかしそれとて弾く人が変わるとどうなるかはわかりません。
上級者は柔らかい楽器のほうが音量が出て、初心者は硬い楽器のほうが音量が出ることがありそうです。多数決では後者が勝ちますが、どうやって評価を決めますかね?
評価なんて無いんです、自分が弾いた時にどんな音が出るかだけです。弓でも同じことが言えます。
新作で少しでも音量があるものを作るよりもすべきことがあると思います。