ビオラを作ります | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。
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こんにちはガリッポです。

モクソンバイスもできたことでこれからビオラを作っていきます。
今回の特徴は、できるだけ小さいサイズでビオラらしい低音の深く豊かな音のものにすることです。

モデルはこちら、ジローラモ・アマティをモディファイしたものです。
ジローラモ・アマティのビオラを97%に縮小したものの胴長が平面で396mmとなります。
それをさらにモディファイし392mmとしました。小さくしても横幅は396mmのものに対して同等にしてあり、特にミドルバウツではそれ以上に広げています。こうなるとそっくりにコピーするというよりはアマティ風のモデルという事になります。
ビオラのサイズとしてはSサイズになります。
38cm台のものは3/4になります。大人のサイズではないです。ただし、ヴァイオリンを弾く小柄な人が、たまにビオラも弾くという事であればあり得ますが、ビオラを専門に弾くとなると小さすぎるかなと思います。

しかし基本的にはビオラのサイズは体格によって決まってしまいます。いかにビオラが優れているかではなく、自分の体格でいかに弾きやすいかという事が大事です。
これはビオラに限らず弦楽器はロンドンやニューヨークなど世界のどっかで何といわれているかではなく自分にとって良いか悪いかというだけです。自分が人生の主人公です。

まあプロを目指すような人であれば多少は無理して大きめのものを弾くという事もあるでしょう。しかし、プロになってから長丁場で体を痛めることにもなりかねません。

まずは裏板のチョイスから

私は一枚の板が好きです。なぜかと言うと立体感が見やすいからです。2枚の板だと杢の縞模様がⅤ字またはへの字となり目の錯覚でアーチの立体が分かりにくいからです。私がそれだけ立体造形に注意を払っているという事です。
ビオラのサイズで一枚板を確保するのは難しいです。しかし今回小型という事もあってヴィイオリン用で少し大きめのものなら何とかなります。うっすら描かれている輪郭線はヴァイオリンのものです。

左が板目板、右が柾目板になります。
何がどう違うかと言うと木材の取り方です。

分かりやすいようにネック用の角材で見ていきます。

上の面が板目で右の面が柾目になります。
手前の木口をよく見ると年輪が見えると思います。外側の皮の方が板目板になります。

弦楽器に使われるメイプル材には杢といって縞模様が出るものがあります。柾目の向きではこのようにはっきりした横縞になります。

それに対して板目めの向きではぼんやりとしたようなものになります。年輪の線も柾目では縦線になるのに対して、板目では地図の等高線のようになります。
斜めに取るとこの間になります。それも不規則で面白い模様になります。

狂いが少ないという意味でも柾目板の方が木材としては上等といえます。弦楽器用ではなく一般の板として丸太をスライスすると真ん中の一枚しか取れません。
弦楽器の場合にはセンターで貼り合わせるため木の中心は外してケーキのように切り取ります。
アーチがあるのでそのほうが無駄がないのです。
その時皮の付近が板目板になります。


上等な柾目板は杢が深く縞模様が端から端まで通っているものです。模様自体は好みの問題で様々なものがあります。さらに重要なのは縦の年輪の幅が狭いことです。この木材では右端は細かく左端になると荒くなっています。木材の成長の仕方によっています。ビオラほどのサイズとなると左右で差が出てきます。もっともっと樹齢のある木であればいいのですが、これでも十分良い方です。この木材はとても古いもので40年以上経っているものです。

この木材では右側の杢は強いですが左になると弱くなっています。普通はこうですからさっきの柾目板がいかに上等かというわけです。これでもヴァイオリン用なら使えるでしょう。エッジまで杢が入っていると私は良い木だなと思います。

今回は依頼主の希望により板目板の方にしました。板目板は普通はトーンウッド業者のカタログの価格表には出ておらず一枚板自体が珍しいです。柾目の場合はチェロ用で何か節や割れなどがあり使えない場合にヴァイオリンやビオラ用になることがあります。
板目板は珍しく、杢の出方も様々です。アマティ家の楽器では板目板でも細かい縞模様のものをよく見ます。バーズアイも板目板で「貝」と呼ぶ模様のものもあります。

私みたいに板目板をよく使う人は現代では珍しいでしょう。アマティやストラディバリでは時々使っています。

私の実感として板目板の方が柔らかく弾力があるように思います。少なからず音にも影響があることでしょう。窮屈になりやすい小型のビオラには合っているかもしれません。柔らかい板はチェロの表板でははっきり音に特徴が現れ、柔らかく暗い音になります。裏板でも同様の傾向が予想されます。


表板はこんな木の塊があります。割ってあります。カンナがけしていないので木目がよくわかりません。何か特定の楽器のコピーを作る場合にはこれではどんな木目なのかわかりませんが、今回はそういうわけでもありません。
厚みが十分あるので良いですね。近頃の木材はフラットなアーチを作るために厚みが少ないことが多いので困ります。
この木がダメならほかにも候補があります。やってみないとわかりません。
20年以上は経っています。極端に古いものもありますが、ひび割れなどがあちこちにあってダメそうです。

モクソンバイスですけどもネックの材料にカンナをかけることができています。
ヴァイオリンやビオラのネックはアマティ家では1650年くらいまでは現在とは90度向きが違っていて横から見た時に板目板になっています。1650年頃からは柾目板になっています。ストラディバリなどはすでに現在と同じです。
現在でも裏板が板目であれば、ネックも板目にとるでしょう。しかしそうではなくて、裏板が柾目板でも板目板でもアマティはネックを板目で取っていたようです。

アマティらしいものとなるとネックも板目で取らないといけません。板目のネック材もほとんど売っていません。この木材はどちらにも取れます。

音については木材のランクがそのまま表れるわけではありません。余りにもやわな木材だと弦の力やちょっとした事故に耐えられずに壊れてしまいます。逆に言えば「弦楽器用」と言えるものであれば何でも音は問題ないという事です。
特に古いイタリアの楽器には上等では無い木材を使ったものがよくあります。当時は安物の楽器として作られていたものです。しかしそれらも音が悪いという事はありません。
それでもせっかく大変な労力をかけて楽器を作るなら、安い木を使うのはもったいないです。見た目の高級感を左右するため後で残念に思います。

木材も古い方が有利だとは言えますが、現代の楽器のような音が好みなら新しい木の方が良いという事になりかねません。新しすぎると狂いが生じて割れや剥がれの原因となります。

ポプラなどメイプル以外のものは強度は心配があります。音は良いかもしれません。

この前までは20℃にも達しない日々だったのに、ここ一週間は30℃以上の日が続いたので体調が厳しいです。

今日はこれくらいで。