ブラックボックスという考え方 | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

こんにちはガリッポです。

私は弦楽器について理解するには「ブラックボックス」という考え方があっていると思います。ブラックボックスについてはリンクを参照してください。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9C%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9
仕組みは分からないけども、使うことができるというものです。ユーザーにとっては使うことができればそれでいいわけです。

それを「仕組みを理解したい」と思っているなら残念ながら私のブログでは答えは期待できません。見るのはやめてください。むしろ、仕組みを理解したいという願望が誤った知識を広めて来た原因だと思います。このため音の仕組みを理解したいという願望を持った人には厳しくそれを止めるように求めます。それが嫌なら読むのは止めてください。世の中には何か研究している人がいるかもしれません。その人の意見を聞けば、その願望が満たされ喜びが得られるかもしれません。しかし、それによって間違った理解をするリスクがとても高いです。そのような楽しみはマニアにとって価値のあるコンテンツとなるかもしれません。私はそれを「知るエンターテインメント」と言っています。学問でも基礎から勉強するのはめんどくさいので素人の気を引く定番のネタってありますね。

そうではなく本当に弦楽器の音の仕組みを理解したいなら当ブログでは全く扱いませんし、私も理解はできていません。莫大な予算を投じて科学者を雇って研究所でも設立してください。F1のマシンを開発するようにあなたが毎年何十億円とつぎ込めば分かってくると思います。
ノーベル賞級の発見があっても宇宙のことは99・99%分からないままと同じように、一つの発見だけでは楽器の音について判断する根拠としては不十分なままでしょう。


弦楽器がブラックボックスであるという現実を受け止めることで弦楽器を使いこなすことに役立つでしょう。それが私のヴァイオリン技術というわけです。

私がブログで言えることは、これまで巷で言われてきたことは怪しい知識が多いということ。楽器の評判や値段も実力を表しているか怪しいという事。あてになるような知識は無いという現実を知るべきだということです。だから実際に弾いて自分で感じるしかないということです。

これだけでも目からウロコのレベルの情報だと思います。これを皆が知っていれば多くの被害を防ぐことができます。それ以上は私には提供できません。私はこの程度の無能で低能な人間です。

ブラックボックスという概念は「経験知」と考えることもきます。料理や食品の加工、発酵などもそうです。伝統的に様々な料理法や食品加工の方法があります。かつては化学でそれが解明されてはいませんでした。にもかかわらず人類はそのようなものを作ってきました。それが文化というものです。こんにゃくを作り出したのも化学ではありません。

これがオカルトや信仰とならないようにするためには「結果に対して厳しく評価する」ことが重要だと思います。

漢方薬でも、本当に病気が改善したかどうかを統計的に調べることはできるでしょう。しかし今ではワシントン条約に抵触し手に入りにくく、ものすごい高価だからというだけで、効果があると思い込むのは怪しいです。楽器も全く同じです。

料理ではおいしいとその人が感じるかどうかであり、弦楽器の音でも同じことです。

そこから先は各自が自由に取り組んで良いと思います。私は何も言いません。

薄い板の話も、現在では厚い板の楽器のほうが良いと信じられているとすれば、そんなことはどうでも良いと私は言ってるだけです。うちのお店では音だけで楽器を選んだ結果、薄い板のものが良く売れているということです。だから、そういうものが仕入れられると「これは良さそうだ」となるわけです。しかし音の評価は自由なのでそれとは違う印象を持つ人がいてもおかしくありません。日本人の好みも違うかもしれません。

ただはじめから知識で「薄い板のものはよくない」と信じられているとしてそれを否定する根拠を説明してきました。

厚い板のものも、薄い板のものも消費者が好みに応じて選ぶことができれば良いというわけです。もっと言うと厚みなどに興味を持たなくても、弾いて気に入ったものを選べばいいだけです。

つまり当ブログでは知らなくても良いということを教えているだけです。


左利き用の楽器というのはわずかに製造販売されています。実際にはほとんど見たことがありません。私が見たのは一度くらいです。
試してみたいという要望があり普通の1/2チェロに弦だけを左右逆に張ってみました。

左右逆に張っているので右に行くほど弦が太くなっています。ダ・ダリオのヘリコアです。

弦楽器は内部構造は左右非対称になっています。低音側にはバスバーが取り付けてあります。低音だからバスバーです。高音側には魂柱が入っています。弦だけを逆に張るとおかしなことになるでしょう。

さてどんな音がするでしょうか?

チェロ奏者の同僚が弾いてみると当然慣れないので弾きにくいです。左手で弓を持つことができません。そこで右手に弓をもって弾くと鏡の世界にいるようです。ちょっと考えないといけないようです。

低弦のC線から順番に音を出してみると意外にもしっかりした音が出ました。小型のチェロにしてはしっかりした低音が出ていました。
高音のA線ではとても強いウルフトーンが発生しました。普通A線では出ません。
しかし音自体は意外とまともでした。

弦楽器では低音が柔らかすぎて、高音が鋭すぎることがよくあります。それが魂柱とバスバーを反対に着ければ逆の特性になるのかもしれません。左右逆の方がむしろ理想的かもしれません。

ともかく全体としてはそんなにおかしな音ではありませんした。こんなことをほとんどだれも試したことは無いかもしれません。

この結果から考えることは、胴体は全体として一つの構造物になっていて一つの部品について考えてもしょうがないというくらいのことです。やはり弦楽器というものは大雑把にとらえないと見当違いな見方になってしまうのではないかと思います。

一つ一つの要素について考えることは意味が無く、全体として一つのシステムとなっているということです。地震や気象などの予想が難しいように楽器の音を予想することも難しいです。

このため、「弾いてみるしかない」という当たり前の答えになります。

「〇〇だから音が良い」と言われてきたことの多くがあてにならないと知った上で弦楽器に向き合うというのは、画期的な進歩だと思います。それが分かったら私のブログは卒業していただいて結構です。

音には理由は無いのです。マニアにとってはつまらないですがこれが現実です。



夏にゲストが来たり、同僚が休暇を取ったりしたので、これから夏休みをいただきます。今回も簡単な内容です。しかし、重要なことはシンプルなものです。