弦楽器とともに海外渡航する場合 | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

こんにちはガリッポです。
12月になりました、2022年も間もなく終わりです。

新型コロナウィルスが見つかって以来、海外への移動は著しく減少していました。当初は飛行機が飛ばなくなってキャンセルせざるを得ないということもありました。

島国である日本では他の国々に比べてもはるかに厳しい入国対策が行われてきました。

それが9月から「オミクロン株が支配的な国」に限定してワクチン3回以上接種を条件に大幅に緩和されました。オミクロン株の重症率の低さやすでに水際対策が手遅れということもあるでしょう。

それまでもPCR検査の陰性結果を提示するなど日本国籍を持つ人が入国ができないことはありませんでした。空港や自宅での待機、帰宅時公共交通機関を利用できないなど普通の休暇とは違っていました。PCR検査は日本側が認める書式でなくてはいけないため、よほどの大都市でない限り街中の検査所では難しかったです。これがEU同士であれば共通の書式で簡単だったかもしれませんが、日本はEUではありません。現実的には空港に前の日に来て検査を受けることが考えられました。しかし検査結果が出るのが24~48時間など曖昧でリスクが高いものでした。特に旅行者には厳しいですね。

それが11月の帰国では事前に手続きを済ませたスマートフォンの画面を見せるだけで入国ができました。必要なのはワクチンを3回接種したという証明で、スマホのアプリ上で紙の証明書を撮影し送付することで手続きが終わりました。パソコンでもできるはずです。EUのデジタル証明書は技術的な理由で送付できませんでした。偽造防止でしょう。

その後自宅待機などの隔離は必要ありませんでした。ピンクの紙を一枚もらい、感染対策に勤めるように書いてありました。紙を渡すだけが行政としての感染対策の仕事だと言えます。

スマホなどを使うと入国時に手続きがスムーズなだけで書面でも可能なはずです。


次にヨーロッパに戻ったときは、一切何もありませんでした。国によって違いはあるかもしれませんが、私はコロナに関する指示や係員などは何も見ませんでした。連絡先や滞在先も尋ねられることはなく、コロナ以前の入国と全く変わりません。

早い人では10月くらいには日本から観光客も来ていました。ヨーロッパに渡航する場合は各国の大使館などのホームページを見て確認してください。外国にある日本大使館のサイトでも現地の法令を日本語に翻訳して情報を提供しています。


このためヨーロッパに旅行するのは全く問題が無く、あるとすれば日本に帰ってくる場合で、ワクチン3回接種を証明しないと依然として制限があるということを知っておくべきです。
厚生労働省のサイトを参考にしてください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_24332.html


もう一つの問題はロシア・ウクライナの戦争です。西側の航空会社ではロシアの上空を通過することができなくなっています。日本に向けては南回りの航路、日本からは北回りの航路でした。

日本と西ヨーロッパの間を飛行するのは通常11~13時間くらいかかるはずです。ヨーロッパから日本に行く方が時間が短く、日本からヨーロッパに行く方が時間がかかります。私の場合には行きのほうが時間が短く帰りのほうが長くなります。日本からならその逆です。
うろ覚えですが、たしか偏西風やジェット気流が北半球の中緯度から高緯度をぐるっと回っていて追い風と逆風になるからだと思います。

ヨーロッパと日本の最短距離は地球が丸いためよく見る平面の地図とは違ってちょうどロシアを通過することになります。救命胴衣などの説明を受けますが、ほとんどをロシア上空を飛んでいますので意味がありません。

それでロシアを飛べないとなると心配になりました。航空会社からは事前に何の説明もありませんでした。

航空会社では11月から新しいダイヤになって便数が増えるということでさっそく11月1日の便を予約しました。公式サイトを見ると日によって値段が何倍も違うという状況でした。今までも多少の値段の差はあってもとんでもない差がありました。しかし安い日なら以前と変わらないくらいでした。9月に考えていたころはもっと条件は厳しかったです。

最寄りの空港から羽田空港に直通の便を選んだので最短時間で済みます。ヨーロッパは都市がたくさんあるのでハブ空港のような形で国内便(EU内は国内扱い)から乗り換えて利用することが多いです。
それがもうずいぶんなりますが羽田空港が拡張して便利になりました。品川に新幹線が停まるようになったことも相乗効果です。

羽田空港が手狭になったために「新東京国際空港」として成田空港が作られました。今でも日本最大の国際空港でしょう。しかし羽田の方が便利だと思います。日本旅行に訪れる外国人には東京に二つ空港があってくれぐれも「TOKYO-HANEDA」にするように教えています。


何でも新しいものにとってかわられる世の中で旧東京国際空港が地位を逆転するというのは面白いです。
今後も羽田空港が発展しすぎるのも困ったものです。空港というのは小さい方が迷わず乗る所までの距離が短く楽です。中部国際空港はもっと小さいですが、私の住んでいる所から直通便が無いことが悔やまれます。現在はコロナの影響で飛んでさえいません。

ヨーロッパで乗り換えが必要となると、時間もかかりますが、飛行機は遅れることがよくあるので、乗り換えで間に合わない可能性もあります。乗り換え時間に余裕を持たせると空港で長い時間待っていないといけません。戻って来た時に欠航になったこともあります。とくに雪の季節は何があるかわかりません。またヨーロッパの鉄道は日本よりも時間が不正確ですからこれもリスクです。

それなら日本国内で新幹線を使った方が確実だと思います。
ヨーロッパ内で乗り換えていたころは家から家まで24時間以上かかっていました。

飛行機が飛び始めると座席の前につけられたマルチメディアの機械でフライト情報を見ることができます。フライト情報では最短距離のロシア上空がルートとして示されていますが、飛行機はそれとは違う向きで、トルコの方から黒海のあたりを飛行していきました。その方がむしろ戦場に近いのではないかというルートでした。その後も中国から北朝鮮との国境ギリギリの韓国上空を飛んで兵庫県あたりから日本の陸上を通過し伊勢湾あたりから太平洋に抜け大きく旋回し房総半島内側に沿って羽田に着陸しました。通常11時間くらいのところが12時間くらいだったので最小限のロスに努めたルートなんでしょう。

それに対して逆向きは心配です。普通でも向かい風で13時間くらいかかりますから遠回りで大幅に時間がかかるのではないかと思っていました。

飛行機に乗り込んで着席するとアナウンスで「アラスカ上空を飛行し・・・」と流れました。かつて冷静時代にはアラスカのアンカレジで給油してヨーロッパに向かったと聞いたことがあります。当時はバブルで海外旅行ブームだったでしょうが、ロシア上空を飛べるようになって便利になったものでした。

またそれがアラスカと聞くとびっくりしましたが、今の飛行機は燃料は十分で着陸する必要はありません。とんだ遠回りになるかと思いましたが、アラスカを横断するとカナダの北極海の島々をかすめ、グリーンランドを通ってヨーロッパに入って行きました。つまり北アメリカ大陸の北極圏を飛行したわけです。飛行時間は14時間ほどでこちらも普段よりも1時間多くかかったくらいです。今回の休暇で北半球をぐるっと一周したわけです。北極圏にも強いジェット気流が流れていますから追い風です。

14時間はかなり長いですが、隣の席が空席でそれだけでも疲労感には大きいです。時期のチョイスが良かったのでしょう。

飛行機の座席というのはあらゆる長距離の乗り物の中でも最悪ではないかと思うものです。1時間もしないうちに体が痛くなってきます。
私は日本の中ではよく高速バスを利用します。飛行機に比べたら問題にならないほど楽だからです。

私は神経質なので基本的に乗り物では眠れません。枕が変わると眠れないたちで旅行はしんどい感じです。しかし1週間くらい海外旅行はテンションと勢いで乗り切ってしまうでしょう。私のように里帰りだと着いた翌日はダウンしているものです。でも今回はダウンするほどではありませんでした。でも地味に疲れているので一週間はおとなしくしています。飛行機の過ごし方はいろいろコツがあります。

作者の音も神経質さとも関係してくるように思います。メカニズムは分かりませんが人によって気になることが人によっては気にならないということです。それが作業や造形に影響するのではないかと思うのです。

楽器の輸送について


国外に楽器を持って行く場合にはいろいろ気を付けることがあるでしょう。これは航空会社によってルールが違います。私が以前利用したANAの場合には楽器を客室内に持ち込むことはできず、通常の預ける荷物とは別に預けなくてはいけませんでした。したがって梱包をしっかりしておく必要があります。
航空会社を選ぶのも楽器の扱いが重要な要素です。

通常の預け入れる荷物の扱いは雑で放り投げたりしますから、弦楽器を預けるのは怖いでしょう。
規定では客室内に持ち込める荷物のサイズが決まっていて、ヴァイオリンやビオラの場合には弓が長すぎるので既定のサイズを超えてしまいます。この場合本来なら追加料金が発生するかもしれません。私が利用している会社の規定では片道300ユーロほどかかるはずです。しかし、実際に料金を請求されたことはなくいつも黙認されていました。現地の空港では無人で搭乗手続きができるので楽器を持っているか調べられることもありません。
羽田空港では窓口の職員に長さを測られました。かつては「問い合わせます」とどこかに電話して「今回は例外的に室内に持ち込んで良いです、ただし早めに行って場所を確保してください」と言われることが多かったです。特例のように毎回してくれました。毎日同じ茶番をヨーロッパ向けの便でやっていることでしょう。
今回は長さを測っただけでした。開き直っている私に規定違反を指摘する抵抗もむなしいものでした。

ルールと実際が違うので事前に問い合わせても意味がないかもしれません。追加料金が発生したら支払うくらいの覚悟で臨めば大丈夫です。
ANAの場合には客室内に持ち込めないと思うので気を付けてください。

さすがにチェロなら追加料金が必要になるでしょう。二つ分の座席を取るというのは現実的ではありません。離着陸時に座席に物を置いてはいけないからです。
チェロの場合には航空会社に問い合わせるべきです。




弓について

大きな不安材料があるとすれば弓です。
https://www.asahi.com/articles/ASQ9V3WG3Q9JPLZU008.html
日本でも新聞で報道されたようですが、ブラジル政府が弓の材料となる木材の取り扱いを象牙並みに厳しくするというニュースが流れました。
これが現実になれば、弓の売買や所持が制限されます。登録されていない弓を売買したり所持することができないと言われました。
弓に使われるフェルナンブーコだけでなく、代わりに使われる木材もすべて対象なので木製の弓は違法となるわけです。

これは実質的にクラシック音楽を演奏すること自体が違法となる異様な事態です。弦楽器無しでは吹奏楽になってしまいます。

このような重大な事態になっていることが知られておらず、クラシック音楽の世界でも話題になっていませんでした。


弦楽器の弓については適用されずとりあえず今まで通りで良いそうです。一安心ですが、知らなかった人は何事もなかったというわけです。

私は出入国時にも弓を調べられることもありませんでした。麻薬などに比べたらそこまで係員も警戒していないことでしょう。

しかし抜き打ち検査などでトラブルになる可能性が無いとは言えません。高価な弓が心配ならカーボンの弓を持って行くということも考えられます。

ルールが変わる瞬間などにトラブルが起きます。ヨーロッパの楽団がアメリカの空港で足止めになったり、フランクフルトの空港で日本人演奏家の楽器持ち込みトラブルがニュースになったことがありました。このあたりもおそらく配慮されるようになったと思います。噂が独り歩きすることがありますので必要以上に怖がらないで情報収集につとめてください。
国によっては、材料の証明書を提示する必要があるかもしれません。

コロナの収束と新たな不安


音楽活動は今後も再開が進んでいくことでしょう。海外への渡航もすでに元の状態に戻っています。日本に帰る場合だけ注意が必要です。

ただし、物価高と円安があります。かなり割高に感じることでしょう。東京でも以前のイメージよりははるかにいろいろなものが高くなっていたように思います。それに対して地元や個人経営の業者は値段据置で頑張っているようでした。お客さんは当然一杯でした。繁盛しているように見えても忙しいだけで儲かっていないでしょう。それでもコロナの時に比べればお客さんも来るようになっただけましということでしょうか。

それに対して海外の観光客相手の商売ではもともとふっかけてきますから、とんでもないことになります。町のパン屋とかスーパーとかテイクアウトの売店など現地の人が多く利用する店も覗いたほうが良いかもしれません。

これからも持病があるなど高リスクの人には依然として脅威ではあると思います。誰もが一度は感染するくらいになると日本でも収束が見えてくることでしょう。

これからも随時変更があると思います。2022年12月現在ということでご理解ください。