Xsound Go 小型で豊かな音を出す技術? | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

こんにちはガリッポです。

帰国に向けて準備中です。
やるべきことが山ほどありすぎて果たしてどうなることやら。


私はどういうわけか、音が出るものに異常に興味があります。
なぜかは分かりません。

私が使っているパソコンなどはタブレット型でモバイル機器になります。内蔵スピーカーなどは最小限のサイズですから聞くに堪えません。本格的なオーディオのスピーカーもありますが、音楽を聴くわけでもなく音声などの音が必要なケースに簡単なスピーカーができないかと考えていました。ヘッドフォンでは邪魔くさいのです。

自分で作ろうかと調べると部品代で1万円以下ということはありえません。
音楽を聴くためのスピーカーはすでにあるのでちょっとした音を出すためにそこまで出す気にもなれません。作ったものを設置する場所もないです。

すでに出来上がっている小型のスピーカーが3000円位で売られているのでバカバカしいです。


このようなものです。
TribitというメーカーのXsound Goという製品です。

Bluetoothスピーカーというもので、パソコンやタブレット、スマートフォンなどと無線で接続でき、有線でも接続ができるものです。電源はバッテリーの充電式で防水になっていて風呂場でも使えるというものです。私は外に持って行くことは無いので防水も充電も必要がありませんが、キッチンなどに持って行くと意外と便利です。

20年前のソナスファベールのエレクタ・アマトールⅡと比べるとこんなに小さいです。値段は100倍くらい違いますから高級感も違うというものです。

このワイヤレススピーカーはアンプが内蔵されているアクティブスピーカーでもあるので別にアンプが必要ありません。

詳しくはリンクを見てください
https://www.tribit.jp/products-speakers-xsound-go
40mm口径のスピーカーユニットが左右二つ付いていて一応ステレオに対しています。しかし左右の間隔が近すぎるためほとんどステレオの意味がありません。中央にはパッシブラジエーターというオーバル型の振動版がつけられています。





これは技術トレンドとして世界中の多くの製品で採用されています。
パッシブラジエーターというのは動力を持たないスピーカーユニットで、コイルに電流を流して自分から振動する仕組みがありません。スピーカーキャビネットの空気圧の振動を受けて振動するようになっているものです。最近見るようになったのですが、私は80年代のカーステレオについていたのを覚えています。技術としてはアナログです。
なぜ今頃になって使われるようになったかと言えば、スピーカーのキャビネットを大きくしたのと同じような効果が得られるからです。つまり小型のスピーカーでは必要で、大型のスピーカーなら設計が難しく余計なものというわけです。

実は私の20年前のスピーカーにもパッシブラジエーターが使われています。スピーカーの背面に円形のパッシブラジエーターがついています。
パッシブラジエーターだけでもワイヤレススピーカーよりも大きいです。このスピーカーでも当時のオーディオの世界では小型と考えられていたのです。

そしてワイヤレススピーカーでも上級モデルになるほど大型化するので技術革新で大きなスピーカーが不要になったということはないでしょう。やはり大きな方が性能には有利であるということです。


内蔵されているアンプの出力は8W+8Wです。ネットなどを見るとオーディオ初心者がワット数が大きい方が音が良いかのような情報を流しています。基本的には電力の大きさですから音の質ではなく音の大きさに関係してくるものです。製品を比較して数字が大きいほど音が良いというのは素人です。

音の大きさについても、アンプだけでなくスピーカーの生み出す音の大きさが重要です。同じ電力からどれだけ空気の振動を生み出せるかということです。
スピーカー自体が大きな音を生み出せればアンプの出力は必要ありません。大型スピーカーなら1Wもあれば家庭で音楽を聴くには十分すぎます。大型スピーカーを持っているオーディオに詳しい人なら出力の8Wというワット数は十分すぎると考えるでしょう。私のアンプは10W+10Wでボリュームは9時の位置です。スピーカーはウーファー(低音用スピーカー部品)が18cm口径で88dB/W(8Ω)あります。これなら10Wでも十分すぎます。大型スピーカー全盛の時代には90dB/W以上あるのが当たり前で88でも弱い方でした。今の製品ソナスファベールLumina1では12cm口径で84dBしかありません。

それに対して超小型スピーカーでどれだけ音量が出るかというと話は違ってきます。

実際に音を出してみると高音、中音、低音のバランスが意外と取れていることに驚きます。これまでパソコンに内蔵されていたようなスピーカーではシャカシャカと耳障りな音が出ていたのでそれをイメージするとびっくりするほど音が良いということになります。それがたった3000円ほどですから驚いたものです。しかしそれでもコストが高くモバイル機器に内蔵するには大きく重すぎて電力を余計に必要とするので採用されません。

なぜこんなに小型のスピーカーでバランスがとれるかと言えば、おそらく電気的に高音を抑えて聞こえ無くしているからでしょう。普通はスピーカーは楽器と同じで大きいほど低音が出やすくなります。小さいほど低音が出にくくなります。バランスとして低音が不足するのでそれ以上に高音や中音を絞ってあげれば相対的に低音が強くなります。こうすると絶対的な音量が小さくなってしまいます。そこでアンプの出力が必要になるというわけです。


机の上に置けばバランスが取れていますが2mも離れて聞いてみるとバランスは崩れて低音がスカスカになります。ヘッドフォンも同じです。頭に装着していればバランスよく聞こえても頭から外してはなれて聞くとシャカシャカ言っているだけです。

このためかつて「ラジカセ」として使われていたように使用することは難しいでしょう。高級オーディオや小型スタジオモニターももう少し離れて聞くことを前提に設計されているはずです。やはりもう少し口径の大きなスピーカーが適していると思います。公共空間よりプラベートな使い方に適したものでしょう。

机の上に置いてオーケストラの曲を聴くとまるで机の上に鉄道模型のジオラマのようなミニチュアのオーケストラがあるように感じます。
このスピーカーは二つ買うと、それぞれを右用と左用にしてステレオ再生することができます。左右に離しておけばもう少しスケール感は増すかもしれません。しかし私は音楽を聴くときにはすでにスピーカーがあるのでその必要は感じません。むしろ一つを充電している間にもう一つを使用する運用に便利でしょう。

ヘッドフォンでは頭の中から音が聞こえてくるという違和感があるのに対して、ワイヤレススピーカーでは机の上から音が聞こえてくるという違和感があります。2m先にスピーカーを設置してもコンサートホールとは違いますが、遠近感がはっきりしなくなってそれほど違和感は感じません。さらに巨大なスピーカーを遠くに置くほど、実際のホールの感じには近くなると思います。80~90年代に「ハイエンドオーディオ」という概念が考えられるとそれまでの巨大なスピーカーは悪と考えられるようになってスリムなものになっていきました。でも楽器職人になって私はそのようなハイエンドの概念には嘘くささを感じます。大型スピーカーの欠点は値段が高いことと場所がいることと、一つ50㎏ともなると重すぎます。私もいつかそんなリスニングルームを持ちたいです。

私は自分のスピーカーが小型で「箱庭的な音」と思っていましたが、ワイヤレススピーカーでは机の上の模型の音です。



TribitのXsound Goとソナスファベールのエレクタ・アマトールⅡでスイッチを切り替えて聞き比べてみます。
ポピュラー音楽を鳴らしたとき、低音のリズムやベース音についてはほとんど変わらないと思うくらいです。むしろ低音の厚みはXsound Goのほうがあるくらいです。
それに対して中音域が厚いのがソナス・ファベールです。窮屈さが無く、ステレオで左右は1m50cmくらい離していますから音がスクリーンのように広がりより圧迫感がない音がします。弦楽器にはオールド楽器のような暖かみがあります。

Xsound Goは高音、中音、高音のバランスをとるところまではできても窮屈で息苦しい感じはします。音色も曇っていて暖かみはありません。2mも離れると低音もスカスカになります。直接壁などに触れていない限りズンズン響いて近所迷惑にもならないのではないかと思います。
しかし高い音は抑えらえているようで耳障りな感じはしません。窮屈で息苦しさはありますがはっきりと聞き取りやすく言っている内容を理解するには問題ないでしょう。スマホで撮影したYouTubeの動画なら性能的にぴったりです。

Xsound Goのためにスタンドを作ってみました。
角度と高さをつけることで「机の上感」は改善されたと思います。

値段が100倍以上違うことを考えると悪くないですし、実際に毎日で使用する時間が長いのはXsound Goの方でしょう。それが今の技術です。つまりIT機器と一緒に使いやすくなっています。一方ソナス・ファベールの方はCDを再生するのに使います。90年代の技術です。

電池が劣化した時点で製品は寿命を迎えることになります。
充電する製品は使用不可能になる時間があらかじめプログラムされているということです。このようなことを誰も指摘しません、少なくともネット上ではIT産業に甘い体質があります。

アンプやスピーカーなどは10~20年は平気だと思います。コンピュータの部分に危うさがあり、端子やスイッチなどもチープです。数年くらいの寿命を考えていることでしょう。20年前のスピーカーの方が今後も長く使えるでしょう。これがヴァイオリンになれば400年前のものでも使えていますから。

弦楽器の仕組み?


ここまでは、ITガジェットファンでも読んでもらえることででしょうが、当ブログは弦楽器が専門です。

面白いのは、パッシブラジエーターの働きです。
例えば裏板そのものがパッシブラジエーターかもしれません。
裏板が薄く作られていればそれ自体がパッシブラジエーターのような役割を果たしサイズを超えた豊かな音が出るというのはあり得る話です。実際にチェロで裏板が薄いとビリビリと振動しているのが感じられます。
特に小型のビオラを作る場合にはヒントになります。

パッシブラジエーターは特定の周波数で振動しやすくなっているようです。その設計がうまくいくと効果的になるというわけですから、裏板の音響特性がぴったりはまるということが重要だと考えられます。なぜかわからないけども音が良い楽器ができる理由は各部の組み合わせがぴったりはまったという説です。

小型スピーカーではやはりより多くの試作品を作っている大手メーカーが技術ではリードしているようです。しかしこのような安価な中国メーカーの製品もバカにできません。スピーカーの根本的な技術は何十年も前にわかっています。いかに小型でつかいやすいか、次元の違う低価格で実現するかということに投資した会社が下剋上的に一躍有名メーカーになっていきます。ブランド名に驕りのある老舗メーカーは太刀打ちできません。

弦楽器の場合は振動版とキャビネットが未分化で一つになっているので一つ一つの要素に分けて物事を考えるのが難しいです。しかしイメージとしてパッシブラジエーターのようなものはつかみやすいのではないかと思います。


また近くで聴く場合と、遠くで聴く場合の音の違いも面白いですね。
弦楽器でも近くでは音が強く感じられるのに、離れて低音の厚みが無くなるとカチャカチャと線の細い音に感じられるということもあるかもしれません。


板が薄くなると低音が増える代わりに中音が痩せます。
アコースティックの楽器ではアンプが無いので音が小さく感じられるでしょう。このため板が薄い方が店頭て鳴るとか音量があると私は考えていません。

しかし板が薄い楽器の方が全体的に柔軟性があり、楽器が一回り大きなことと同じような効果が得られるでしょう。耳元では板の厚い楽器も強さを感じさせます。ところが離れて聞けば子供用の楽器のような音です。

楽器全体に柔軟性があり窮屈さを感じさせないことが重要でしょう。この時板の厚さのほうがアーチよりも大きな影響があるのではないかと思います。柔軟性に優れているのはフラットなアーチです、しかし板が厚ければフラットなアーチでも遠鳴りしません。一方高いアーチでも板が薄ければフラットで板が薄いものに豊かさではかなわなくても十分遠くまで音が届くのではないかと思います。

高いアーチのものは耳元でも音がはっきりと聞こえます。フラットなアーチではっきり聞こえるものは音が鋭いもので離れて聞いている人には耳障りに感じられます。

私の個人的な考えです。
いずれにしてもこのようなものは何かを考える着眼点となるものです。