パーペチュアル・ヴァイオリン弦の新バージョン | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

こんにちはガリッポです。

夏休みを終えて仕事も再開しましたが、2度目のワクチン接種に行きました。ファイザー・ビオンテック製です。
一度目は何の副反応もありませんでしたが、2度目は24時間後くらいからだるさを感じるようになりました。腕が気になって寝つきが悪く寝不足なのかなと思っていたら、体温を測ってみると37度ありました。普段が36.3くらいですからちょっと高いです。発熱というほどのことはありませんが普通ではありません。念のため翌日は会社も休んで夜には37度を下回り次の朝には普段と全く同じになりました。

私は風邪も10年くらいひいていないので、熱が出たらどんな感じかもわかりません。遠い記憶でも風邪と違うのはせきやのどの痛み、鼻詰まりなど他の症状がなく熱だけがあることです。だるさも翌日には無くなりました。朝起きると腰痛がありました。こちらの方がひどいくらいでした。それは前日にチェロの仕事をしたせいか、寝すぎたせいなのか、その両方かもしれませんし、寒気などで筋肉が疲労したのかもしれません。
暑いのか寒いのかよくわからないような感じは熱のせいでしょう。

今では普通です。


職場に戻ると新製品の情報が来ていました。ピラストロ社のヴァイオリン弦でパーペチュアルのバージョン違いが出たようです。名前は『カデンツァ』というものです。
またか‥というわけですが、新バージョンが出るということは好評ではなかったようです。改良されていれば私にとっても興味がある所です。

パーペチュアルは私の印象ではとても強い音で暗く深みのある音だと思います。オールド楽器に張った場合、持ち主の方はとても満足していました。しかし、現代の楽器に張ってみると音が鋭く耳障りな音になってしまいました。音の出方も急で上級者でないと扱いにくい感じもします。もともとエヴァピラッチのようなものを使っている人なら違和感はないかもしれませんが、オブリガートやヴィオリーノから変えると扱いにくいかもしれません。
したがって販売するための楽器に張るには向きません。
そんな感じで可能性はあるけども、ユーザーや楽器を選ぶという印象がありました
チェロのパーペチュアルがとても良いだけに残念です。チェロの場合エヴァピラッチゴールドが明るくボリューム豊かな柔らかい音、パーペチュアルが締まって暗く力強い音という印象があります。したがってやかましい音のチェロにはエヴァピラッチゴールド、大人しい物にはパーペチュアルが良いと思います。または好みがはっきりしているのならチェロと弦で同じキャラクター同士で重ねるほうがより個性が発揮されます。


ヴァイオリン弦のカデンツァのチラシを見ると深みのある低音だと書いてあります。それは前のものでもそうでしたし、チェロ弦でもそうですのでパーペチュアルの目指すものでしょう。
さらに、「低い張力」と書いてありました。
やはり高い張力の弦を弾きにくいと感じる人がいます。そのため初心者用の弦は低めの張力になっています。ピラストロではヴィオリーノです。ソリスト用の弦は高めの張力になっているのが普通です。エヴァピラッチなどです。

メーカーはどのユーザーに的を絞るかが難しい所です。世界的な有名なヴァイオリン奏者が使っていると売れるので、そちらに合わせて開発していくのかもしれません。「身の程知らず」のユーザーが飛びつくというわけです。

いずれにしても強い張力、明るい音、輝かしい音、焦点の定まったはっきりした音をめざして各メーカーがこぞって開発競争をしているという所です。

しかしエヴァピラッチでは「音量が増した」というはっきりした感覚が得られたもののそれ以降は画期的な感じはありません。このためか最新弦を試すマニア以外大ヒットしたものもありません。

そもそもヴァイオリンのナイロン弦はそれ自体が悪いものではないので安いものでもひどく嫌な音がするわけではありません。中級品でも何ら問題ありません。これがチェロになるとスチール弦なので耳障りな音が出やすく、高級品にならないと柔らかい音は得にくいのです。荒い音のする安いチェロほど高い弦が必要になるという難しいものです。チェロで「無難な中級品」が望まれますが、メーカーには考えてもらいたいです。


あまり数字にこだわるのは頭で考えていることになるので私はお薦めしません。あくまで使用して感じるべきです。ただし、メーカーとしては設計思想というのがあるはずですから何らかの参考にはなるはずです。

ピラストロ社の主要な弦の張力を調べてみました。
E線はバージョン違いなどもありますのでADGの張力を合計してみました。

ヴィオリーノ・・・13.9kg
オブリガート・・・14.6kg
エヴァピラッチ・・15.3kg
同ゴールド・・・・15.0kg
パーペチュアル・・15.4kg
同カデンツァ・・・14.2kg

ヴィオリーノ、オブリガート、エヴァピアッチではイメージの通りに絃の張力が次第に強くなっています。パーペチュアルの扱いにくさも数字が最高になっていることと一致しています。さらにパーペチュアルにはスチールのA線が用意され15.6㎏になります。最高の張力を目指したのでしょう。

カデンツァはヴィオリーノとオブリガートの間ですからかなり低めに設定されています。したがって最高の張力のパーペチュアルに比べてやや弱くなっているというのではなく、ナイロン弦の中でも弱い方の弦ということになります。

こうなるとオブリガートの現代版としての使用が考えられます。音の性格が現代風に進化してよりクリアーで明確な音になっているのかもしれません。
張力が音にどんな違いをもたらすかは場合によります。
一般的に強い張力では明るく鋭い輝かしい音になるものです。一方で表板が押し付けられて響きが抑えられるので場合によっては明るさが抑えられます。

弱い張力ではその逆になりますが、フワッとした豊かな響きが増えるのでボリューム感が出たり明るい響きが増えることもあります。

一般論では張力が強い方が音量が出て、ソリスト向きということになります。しかし、弱い張力で楽器を豊かに鳴らせると音量を稼ぐこともあり得ます。このためいろいろな自論を持つユーザーがいるわけです。

一般的にスチール弦は張力が強く、ガット弦は弱いと考えられています。しかし具体的な製品を見ると必ずしもそうではないようです。張力の数字よりも素材の持っている固有の音が大きいと思います。スチールで弱い張力にしても金属特有の音があるというわけです。このため他の素材では数字で比較できません。メーカーが違うと測定法が同じかどうかわかりません。今回はピラストロの現代のナイロン弦に限って設計思想を考えてみるだけです。


パーペチュアルのカデンツァはまだ手元に来ていませんが興味はあります。
今回のようなバージョンが珍しいのは、普通はノーマルが先に出て、張力を強めた「ストロング」や「ソロ」バージョンが出るものです。そして値段もアップされるものです。

今回は張力の弱い新バージョンが出て値段も下がっています。行くところまで行ってしまった、あるいは流行が間違っていたということかもしれません。
オブリガートに近く、もう少し手ごたえがあるものなら多くの人に歓迎されるでしょう。


新製品の開発には苦労も感じられます。なかなか新たな定番となるものは出てきません。製品自体は悪いとは思いませんが、世間に広まるほどのインパクトがありません。

この前はトマスティクファンにとってはドミナントPROが興味深いという話でしたが、パーペチュアルのカデンツァはピラストロファンにとっては注目に値すると思います。

ウィーンやミュンヘンの方ではトマスティクのユーザーが多くて、うちではピラストロのユーザーが多いです。私の方ではピラストロについてより経験を伝えることができます。トマスティクに関しては日本のほうがユーザーが多いでしょう。

そのように中級品で好きなメーカーを見つけてからグレードアップするのは一つの方法かと思います。