ミルクールのヴァイオリン | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。

こんにちはガリッポです。

うちではミルクールの量産品もザクセンの量産品と別に変らないという扱いをしているので特別にミルクールの楽器を集めたりはしていません。お客さんは試奏して音の気に入った楽器を選ぶだけですが、量産品はどこの国のものでも量産品という認識でした。

普通は古い楽器の相場では量産品は考えません。ハンドメイドで作者名が知られていると相場で値段が決まるのです。量産品は誰が作ったかわからないし、手抜きのために品質が悪いのが当たり前です。

だから楽器の価値を見る時はまずそれが量産品なのかハンドメイドのものなのかを見分けるのが重要となります。これさえも一般の人には難しいものです。つまり楽器の良し悪しなどは一般の人にはわからないということです。だからウンチクを語るのはバカらしいのです。名前を伏せたら量産品かどうかも分からないそのレベルなのにどうして作者を「天才」かどうかわかるのでしょうか?

私たちでもグレーゾーンの楽器がありどちらかわからないものがよくあります。
職人の間でも意見が分かれることがあります。決して簡単なことではありません。ハンドメイドだと思っていて修理のために表板開けて初めて量産品だとわかることもあります。

うちの師匠などはそんな認識でいますからミルクールの量産品があってもザクセンのものと変わらないような値段で売ってしまいます。職人だから品質で楽器の格が分かってしまうので「フランス製」だとしてもただの安物だということが分かるからです。安上がりなものを前にして「これは見事な仕事です」なんて気持ちにはなりません。

日本での値段はそれよりもずっと高いもので場合によっては何倍もすることもあるでしょう。
うちが安すぎるので考えを改めないといけません。

19世紀のミルクールの量産ヴァイオリンの相場は50~120万円位と思っておけば良いでしょう。プレスのような本当に安上がりなものが50万円もするとなるとばからしくなります。相場としてはそんなものです。職人の感覚では高すぎるものです。

コロナの期間にお客さんの仕事が少なかったので修理されずに眠っていた様なミルクールの楽器を多く修理しましたし、先日も価値を見て欲しいと持ち込まれました。

一つ目はミルクールのビオラで、楽器をパッと見た瞬間はただの粗い仕事のひどい楽器です。しかしよく見ると形がフランスのものでオークションのカタログなどに出ている形をしています。フランスの楽器の本は一流の職人のものばかりなのでミルクールのものとは違います。オークションではやり取りがあります。品質はただの粗悪な楽器ですがミルクールのいくつもある形のうちの一つです。そうなると最低でも50万円くらいになりますから買うのはバカバカしい物でした。
もう一つはパッと見た瞬間にシュタイナー型のザクセンのものかと思うようなアーチで色も真っ黒なものでした。ラベルを見るとミルクールのメーカーなどが詳しく書いてありスクロールなどを見てもフランスのものだとわかりました。ぱっと見ではザクセンのものと変わらない楽器であるということです。一流のフランスの作者とは似ても似つかないものでした。
ザクセンでもシュタイナー型の量産品は特に安物で、本当のシュタイナーやオールド時代のシュタイナー型のものとは全く似ても似つかないものです。10万円も付けるのは難しいです。それと変わらないものです。

他にプレスの楽器もいくつかうちで修理しました。平らな板を曲げてアーチを作ってあるので伸びています。それが乾燥して縮んでくるので割れが出てくるのです。表板を開けるとグニヤグニャで割れている所に木片を張り付け補強するという物でした。無理やり修理してこんなんで大丈夫かなと思っても出来上がって弾いてみると結構いい音がしたりするものです。安物であることは間違いありませんが、音が悪いということはありません。

私もこの前からミルクールのものを修理していました。見た目は悪くないけども中身がひどいという量産楽器の典型でした。以前もちょっと紹介しました。

表板にチェロより厚い所がありました。
一流の楽器なら2.5mmくらいですから全く共通点がありません。リュポーやヴィヨームが気に入ったからと言って代わりに選んでも全く意味が無いということです。この前のドイツのヴァイデマンのほうがよほど一流のものに近いです。

この楽器の場合には修理するかどうか迷いました。すでに過去に修理されていて付属品を交換し弦を張れば演奏できる状態にすぐにできるからです。最低限の仕事で売りに出せるわけですから効率が良いですね。
これでも100年以上は経っていますから新品の量産品よりは音も良いかもしれません。そうなれば十分に競争力があります。

もう一つの考えとしては外見は良くて板が厚すぎるということは改造すれば理想的になるということです。さっきの値段の話で50~120万円とすれば、修理しなければ50万円に近い値段で修理すればずっと高い値段で売れるというわけです。これが中国のヴァイオリンを改造しても評価額は変わりません。

私のように特殊な器具で板の厚みを測る業者は珍しいです。
一般的に値段は外見で決めるので厚みを薄くする改造しても評価額は変わりません。中国の20万円のヴァイオリンを改造しても20万円ですからだれもやりません。
ザクセンの戦前のもので外見が立派なら40万円位にはなるかもしれません。ガラクタとしてただ同然で入手できるならやる価値はあると思います。しかし状態が悪く多くの修理が必要なものはやめた方が良いでしょう。ただ同然で買ったものを40万円で売るとボッタくりと思うかもしれませんが、修理の技術料がかかっています。お客さんの楽器の修理と違いいつ換金できるかわからないのでギリギリでは厳しいです。

今回のものは外見は良いので70~80万円くらいは付けられます、しかし中身がひどく音が悪ければその値段で競争力が無く売れません。売れなければ付属部品を交換した分だけ赤字です。
競争力のある価格帯となると過去の修理も汚いのでせいぜい40~50万円になってしまうのです。

このような量産品は上等なものに比べてそもそも品質が悪いので壊れやすく扱いも雑で状態が悪いものが多いです。さらに過去に行われた修理がひどいことが多いです。かつては本当に安い値段でしたから修理も安上がりに行われました。

このヴァイオリンも過去の修理がひどくて「修理済み」ではありますがリサイクルショップや総合楽器店で売るレベルのものです。職人が経営する専門店で「修理済みとして」売れるような状態ではありません。リサイクルショップやギター屋なら現状引き渡しで35万円、買った後で職人のところに持って行って修理してもらうというそんなところです。それでひどい楽器を買ってしまったことに気づくわけです。

修理されているのに私の基準からすると修理していないのと同じかそれ以下です。
職人によって修理のレベルが全く違います。ネットオークションなら修理済みと書いても詐欺にはなりませんが。

修理に必要な能力

前回はヴァイオリンを製造して生きていくために、修理は副業だという話をしました。仕事の量として新作楽器を作ることよりも修理の依頼のほうが多いからです。特にヨーロッパでは古い楽器が好まれ、また物置などから古い楽器が出てくることが多いので、知り合いに譲ったりすることも多いです。
新作楽器は名前の有名な特定の人に集中するのに対して修理で有名になることはそんなにありません。

プロの演奏者になれない人が教師になったりするように、新作で売れない人が修理人になっていくというわけです。

しかし修理というのはやってみるとそんなに甘いものではありません。「新作を作るには十分な腕が無いから修理をやる」というのは無理があります。

修理で必要な能力は正確性です。新作楽器なら「これが俺の作風だ!」と言い張れば何でも良いのですが、修理の場合には正確な加工が必要になります。腕は新作より正確でないといけません。損傷個所をくりぬいて新しい木材を埋め込む修理があります。接着面がぴったりでないといけません。より細かく精密な作業が必要で雑な人は修理には向いていません。

また失われた部分を新しい木材で復元します。つまりオリジナルと同じものを作れないといけないのです。
逆に言えば楽器の大半が損傷を受けても表板を作り直す、スクロールを作り直すなどのようなことができればどんな楽器でも直すことができるのです。しかし実際には修理代が高くなりますし、価値も下がってしまうので経済的な理由でできないことが多いです。ただ修理を極めようとすれば必要なことです。表板を新しくしたらニスも古びたようにしないとおかしいです。できるだけ元のものとそっくりでないといけません。新作を作るよりも難しいのです。

現実には新作を作るには腕が十分でないため修理の仕事をしている職人が多いです。そのように修理された楽器の修理をやり直すのは壊れてすぐのものよりも難しいです。

教会のフレスコ画を素人が修復してひどいことになったニュースがありましたね。現代の画家なら自分の画風だと言い張れば良いですが、修復では許されません。


表板を開けたが最後・・・


私はこのまま弦を張って終わりにするか、修理を始めるか大いに悩みました。開けてしまったら最後、何から何まで修理しないといけなくなるからです。開けたままでほったらかしにすれば全く売ることができません。


おそらく過去にネックの根元が大破したのでしょう。横板などにも損傷があります。ボタンも損傷していました。よく見ないとわからないほどでしたがパフリングの厚みギリギリまでくりぬいて新しく木材を入れます。

ただただ正確さだけが求められる仕事です。

上部のブロックごと大破したのでしょう。横板の一部が切り取られていましたが、あまりにも汚い修理だったのでやり直すことにしました。切れている部分を付け足すのです。
同時にブロックも交換します。
反対側も割れがありかつての修理では段差ができたまま接着されていました。

思ったよりもうまくいきました。正確な仕事だけです。木材を選ぶ時も量産楽器なのでそこまで神経を使いませんが違和感が無いものを選ぶと良いです。勤め先は古い会社なので古い材料の切れッぱしが倉庫に眠っています。新しい木では色が違い過ぎます。

ライニングも継ぎ足します。

おそらくネックの根元に加わった衝撃が裏板にまで達したようです。裏板の割れ傷も段差が付いた状態で接着されていました。センターの合わせ目も開いていたので付け直しました。横板の割れも裏側から木片で補強しています。

今度は下のブロック


下側も同様にブロック交換です。こちらも割れていて汚い修理がされていました。
横板のエンドピンの穴も埋めました。

このようなブロック交換の修理は意外と難しくて新作の時とは違い枠も何もないのに表板の形と一致しないといけません。ただ交換しただけでは表板の輪郭の形と合わなくなってしまいます。現物合わせで確認するのが難しいです。

作業の順序は前後しますが裏板の厚みも変えます。ハンドメイドの楽器の場合には作者のオリジナリティを尊重するために改造はしませんが、量産楽器なら可能です、量産楽器のほうが音が良くなる可能性があります。交換前のブロックは割れていて何かを張り付けていますが汚いもので。

中央はすでに薄かったので残して上と下の部分を削っています。全体的に3.5mmくらいでした。中央が3.5mmならよくある厚さです。それを除いて2.5㎜くらいになるようにしました。
交換前の下のブロックが見えます。

裏板の中央の厚さはストラディバリやフランスの一流の作者を見ていると4~5mmの間くらいですが、過去に作られたヴァイオリンでは3.5mmくらいのものはたくさんありますし強度が不足して変形するなんてことはありません。それで音量があって強い音がすることもあります。2.5mmくらいだとさすがに弱いと思います。変形したり音に強さが無かったりします。3.0mm程度だとグレーゾーンです。ダメとまでは言えません。薄くなるほどわずかな差がが大きく強度に影響します。


ラベルは見えにくくなっていますが「CHARLES JACQUOT」と書いてあるはずです。この作者は19世紀のフランスの一人前の職人で値段は最大500万円近くするものです。しかしどう見てもミルクールの量産品でこの作者の評価額はこの楽器には関係ありません。
本などで作者の楽器を調べてもストラディバリモデルならみな似ていますので量産品でも似ています。本を見ても意味がありません。
一流のフランスの職人の楽器はとても高いクオリティで作られていてこの楽器はそのクオリティが無いので本などを見なくても一瞬で量産品だとわかります。

ミルクールの量産品となるとこの作者の作風とは関係ないと考えた方が良いです。当時のミルクールでは同じ「メーカー名」を異なる製造者が使っていたりします。その作者が工場を経営し設計をして品質を管理していたとは考えない方が良いと思います。可能性が無いとは言えませんがずさんなものです。

そのような考え方は戦後のブーベンロイトの時代にならないと通用しないと思います。それまでは地場産業として家々で内職で部品が作られ、工場で組み立てられ集められて有力な職人の名前で売られただけです。有名な量産メーカーになるほど生産量や従業員も多く管理も行き届きません。

だからこの作者の作風や評価について語ることは全く意味がありません。我々としては「何かしら名前がついていると売りやすい」と考えているだけです。これが全く何もラベルがついていなかったり、ストラディバリウスと貼ってあるとガクッと値段が落ちます。

これを日本の楽器店ならウンチクをベラベラと喋るのですが、そんなのはどうでも良いです。楽器のクオリティと音が重要です。

ミルクールの楽器はどれも似たり寄ったりで、名前さえついていれば良いというそれくらいのものです。


それに対して営業マンがこの楽器を売ろうとする場合、誰々の弟子で・・・・と作者の素性を説明するでしょう。でもそれは500万円する自分の作品のことであって、この量産品とは全く関係がありません。そしてこの楽器がそれとは別の量産品であるということを言うでしょうか?

営業マンはこれが量産品であるとさえ言わないと思います。
フランスの一流品は100~200万円では買えませんが、それを知らない人は100万円もすれば高級品と思うでしょう。しかしただのひどい品質の量産品です。勝手に高級品だと勘違いしている人にわざわざ知らせることは無いですから。



要するに大事なのは作者名でも値段でもなく楽器の質と音です。ウンチクは聞き流せばいいです。

板を薄くしてバスバーを交換しました。板を薄くするときにバスバーが邪魔になるので古いものは削り落としました。
割れ傷は木片で補強しました。ぱっくり割れていますが魂柱のところには達していません。これが魂柱のところまで行くと修理が厄介ですので念入りに補強しました。駒の足の真下の補強が来るのは変な感じがしますが、こんなのは意外と影響が無いものです。深く考えない方が良いです。

厄介だったのが過去の修理でf字孔の外側の割れを直したものでした。段差が付いたまま接着し裏から板を張り付けていましたがそれもひどい物でした。私が完全にやりおしました。私が初めからやるならこんなやりにくい方法はしませんがやってみるときれいにできるものです。


コーナーの修理もやり直しました。すでに修理されていたのにやり直しです。全くプロのレベルではありませんでした。エッジもパフリングとの間に隙間がありひどい物でした。過去の修理でつけられた木材は木目が全く違うし、エッジの形も他の部分と合わないものでした。段差もあって一か所もまともに修理で着ているところがありませんでした。
木片をちょっとくっつけるくらいできそうなものですが、わざとずらしてくっつけているのではないかと言うほどです。

ペグの穴埋めには茶色のよくわからない木が使われています。柔らかいので穴埋めには向いていないでしょう。さらにペグボックスと段差がありましたので削りました。Aペグの穴のところには当て木がしてありましたが木目の向きが間違っていて材料も柔らかい木でした。柔らかい木では補強の意味がありませんのでやり直しました。ペグボックスと同じカエデにしました。
ニスの補修も下手くそで色もひどかったです。見るからに痛々しい物でした。

この当て木の形もやりにくいものですが、他の穴に干渉するので形を変えるわけにもいきません。そのまま付け替えました。

色が違うので新しい木を他の部分と同じにするのは難しいです。

私が修理すれば量産楽器でもこれくらいにはなります。

板の厚みを変える作業は割と簡単です。新作をやっている経験が必要で修理だけやっていると経験が不足します。

パーツができたら組み立て

それぞれのパーツの修理が終わると組み立てです。表板を付けてネックを取り付けます。この辺りはルーティーンの仕事です。
ニスの補修も大変な仕事です。新しく加工したところはすべて白くなっていますから。

見た目は悪くないでしょう。これで中がひどかったのが信じられないくらいです。エッジやコーナーなど新しく取り付けた部分も違和感なくなっていると思います。

コーナーの修理は数をこなしているのでルーティーンです。これはとても難しいものです。

新しく付け足した横板はこんな感じです。ここは使っているうちにニスが剥げたり汚れたりするところなのでこの程度で良いでしょう。継ぎ目は全く見えないほどになっていますのでつぎ足してあることは分からないでしょう。
こんなにうまくいくとは私も思いませんでした。
良い修理とはやってあることが気づかれないものです。

この楽器はアンティーク塗装ではなく自然と古くなったものです。しかし下地は緑色に着色されています。このため深みがあるように見えます。
一見してミルクールのものだとすぐにわかるものです。コーナーは細めでフランスの特徴ではありませんが全体の雰囲気でミルクールだとわかります。


アーチは平凡なフラットなものです。ストラドモデルでアーチが平ら、板が薄い、それが100年も経っていれば単純によく鳴ることでしょう。なにも難しいことは要りません。

スクロールはフランスの一流のものとは違いますが量産品としては綺麗な方だと思います。
この前のナポリのものと比べて見ましょう。

こちらが800万円のヴァイオリンのものです。もう、やめてあげましょう。

反対側です。

正面も量産品にしてはピシッとした印象がありますし、指板よりもペグボックス全体の幅が広いのもフランス的です。ドイツやチェコの量産品なら指板の幅とペグボックスの幅が一緒です。

フランスの一流の職人のものとは全然違います。ドイツのヴァイデマンのほうが似ていました。

パッと見て量産品としては綺麗な方だと思います。フランスの量産品もひどいものもありますし、プレスなのにものすごくきれいなスクロールのものがあります。ネックだけ取り外そうかと思うほどです。別々の人が作っていたので胴体とクオリティが合っていないこともあります。
スクロールは音には関係がありませんが私はきれいなものがついているとテンションが上がります。

気になる音は?


音の予測は難しいです。この前は柔らかい音のミルクールのものがあったのでどうなるかはわからないものです。板は薄くしたので低音側が強いバランスの暗い音になるはずです。

実際に弾いてみると予想通り暗い音で発音が良く、力を入れなくても勝手に音が出る感じがします。発音が良く鳴るということです。
音はやや尖ったものです。すごく耳障りというほどでは無いですが明らかに鋭い傾向の音です、これは好みの問題ですごく柔らかい音が良いという人には合っていませんが力強さを優先する人には好まれるかもしれません。
この前のデラ・コルテの時にも暗くてよく鳴る鋭い音と言っていましたが、これもその系統です。その時にそのような音はミルクールのものにもあると言っていました。まさにそれです。
デラ・コルテは800万円、これは80万円くらいのものでしょう。それで音が似ています。全く同じということはありません。全く同じ音のヴァイオリンは無いですから。
感じから言ってガン&ベルナーデルにも近いと思います。300万円以上しますからこれがいかにコストパフォーマンスが良いかというわけです。

おさらいすると音は暗くて鋭めの力強い音です。これはうちでは学生さんなどによく売れるタイプの音です。フランスのものはもちろんドイツのモダン楽器で150~200万円くらいのものにあります。それに比べて80万円位なら割安です。当然それは量産楽器だからです。しかし実力はよくできたモダン楽器に近いものがあります。音大の教授もフランスの楽器を使っている人が多いのでそれに近いものなら使い勝手も似ています。200万円くらいのモダン楽器が買えないならこれでもレッスンを受けられるでしょう。

新作楽器にとっては厳しすぎる強敵です。特にフランス風に作ったら勝ち目がありません。
でも音の鋭さに特徴があり好き嫌いは分かれます。
私の作るものはとても柔らかい音がしますから全く違う方向です。音というのは好みが大きいのです。

量産楽器で80万円というのは高すぎると考えるのが普通です。ハンドメイドの楽器も視野に入ってくる値段です。しかしこの楽器は音については十分に競争力があると思います。見た目も並の職人くらいは十分にあります。ハンドメイドの楽器は作者ごとに癖が強く改造するわけにもいきません。このクラスで同じような音のものを探すのは難しいでしょう。

ミルクールだからというよりも私が修理・改造したことが重要です。同じようなものを探しても売っているとは限りません。

この楽器では過去に多くの個所の修理が行われていましたがたった一か所も合格レベルの場所が無くすべてやり直すか手直しが必要でした。一つも合格レベルの仕事をしなかったのはある意味凄いです。それくらい雑な職人はいます。修理は新作よりも正確で丁寧な仕事が必要です。デラ・コルテが修理をしたら同じようなひどいことになったでしょう。実際にイタリアの修理のレベルが低いらしくイタリア人に修理を教えていたこともあります。


いかにもミルクールの量産品という感じのものですから何のステータスもありません。量産品に100万円以上出すのは職人としては考えられません。東京で100~200万円位で売られていると普通の人は高級品と思ってしまうでしょう。しかし本当のフランスの名品はそんな値段では買えません。ただの量産品です。今回のものも板の厚みはひどいものでした、改造したから何とかなったようなものです。