ニス塗の様子と付属パーツ類を用意します。
特に付属品はモダンとは異なるものが多くあります。
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こんにちは、ガリッポです。
1月3日にスーパーに買い物に行ったらクリスマス用のお菓子などが安くなっていました。それでも贈答用は元が高いのでそんなに安くないなと思っていると普通のお菓子がすごく安くなっていました。見ると賞味期限が2018年1月1日なのです。処分せずに売ってるところがおもしろいなと思って買ってきました。今のところからだには何の不調も起きていません。
私が10年前に作ったガリアーノのコピーのヴァイオリンを夏にメンテナンスをしてまた点検に来ていました。
https://ameblo.jp/idealtone/entry-12307185092.html
駒の位置や傾きを正して、アジャスターのネジを戻し、ニスのかけたところを簡単に補修しておしまいでした。
こんもりとした高いアーチなのですが驚くほど自由に板が振動するようになっていました。
古い楽器なら高いアーチでもよく響くものがありますがその感じが10年でも出て来るんだと思いました。
アーチの高さなんて何でも良いということが改めてわかりました。
ストラディバリやデルジェズでも高いアーチのものがあってそれらもちゃんと名器として使われているのも納得です。アーチの高さなんて些細な事なんですね。
私は古いものに興味があるということもあってバロック楽器についてもよく研究しています。
古いものに興味を持ったのも思い返してみると、普段の暮らしの中でいろいろなものを見たり聞いたりしていくわけですが、あるものが好きだったり嫌いだったり、美しく感じたり汚く感じたり、カッコイイと思ったりダサいと思ったり…そのようなことは毎日のように話題に上り、行動の原動力になっています。ところが行き当たりばったりで人気があるから良いというのじゃなくて、根源的なものはなんだろうと思うと過去に目を向けていくことになるんです。
一見似たような作品や製品でも何かが違うということがあります。
そこに美意識や精神のようなものがこもっているものと、なんとなく形を似せただけのものがあるんじゃないかと考えます。そのような根源に違いはあるのでしょうか?ただの幻想でしょうか?
過去を見ていくとたしかに今の価値観の源流が見つかってくるわけですが、そのうちそんなことはどうでもよくなって、今とは全く別の世界に引きこまれていきました。そういうわけですから今のものよりも優れているとか劣っているとかそういうことではなくて知らない豊かな世界があったことに興味がわいてくるのです。
資本主義の社会体制の国で暮らしていると次から次へと新しいものが出てきて生活がどんどん変わっていきます。生まれながらにして「新しい=良い」という価値観が刷り込まれていきます。何も考えずに育ってくれば自然と持っている考え方です。古いものには価値が無く全く興味が無いのが普通でしょう。そうやって次から次へと新しいものに買い替えていくわけですが、私は「これが好き」と思うからには将来すぐに嫌いになるようなものは選びたくないです。新しいということにしか価値が無いのであればその魅力は時間とともになくなっていきます。そうなることが初めからわかっていれば好きものにはなりえないです。わたしはハイテク機器には申し訳ないですけども愛情は全くありません。どれでも良いから安くて使えれば良いとしか思いませんし、古くなっても動く限り最新のものが欲しいとも思いません。すぐに新しさは無くなってしまうからです。先進工業国なんてことを言いますがもはや工業製品は作らなくなってきました。かつては丈夫で長持ちするしっかりした製品を作っていましたが年々そのようなものが手に入らなくなってきました。コスト削減のために見た目だけ未来風にした安ものには子供だましの幼稚さを感じます。
資本主義が無かったころの文化にはもっと控えめの美しさ、つまり大人っぽさがあると思います。クラシック音楽なんかはまさにそうです。
私はマイルス・デイビスがどうだとか言われても全然わかりませんが、アルカンジェロ・コレッリを聞けばテケテケテケテケというだけのメロディーも無いような音楽の背後にある何かを感じます。
美術では飛び抜けて上手い人の作品が素晴らしいのは当たり前なのですが、はっきり言って絵が下手な人でも気持ちで描いてある作品があります。絵とは不思議なもので写真と違ってその人の目に写っているもの、頭の中のものがプリントアウトして出てくるので興味があることとないことでやる気に明らかにムラがあるのです。気持ちが伝わりやすいです。
弦楽器で下手なんだけど気持ちで作っているようなものがあるかと言うと、長年調べてきましたが、まずそのようなことを感じるものは無いですね。
気持ちが全くこもっていないものはたくさんあります。
汚いだけのアンティーク塗装の楽器なんてのはまさにそうです。
丁寧に作ってあるけどバランスが悪いというのはあります。
造形センスやバランス感覚が無いのです。
古い時代のものを見て来ると後の時代の人たちの作るものに「蛇足」を感じることがよくあります。何か良いとされる特徴があるときそれをさらに強調していったりするのもやりすぎだと思います。最初のものはちょっとそれが見え隠れするだけだったのに後の時代の人は要素がそればっかりになっているのです。弦楽器でもヴァイオリン製作コンクール向けのクリーンすぎる作風なんてのは蛇足のように思います。
私が特に嫌いなのは自分の正しさを主張する楽器です。楽器を見ていると「こういう理屈にしたがって完璧に作ってあるから私は立派な職人だ」という声が聞こえてくるのです。それとか、この辺を行っておけば「通っぽい」なというところを突いてくる人も好きではないですね。
自分が立派であることよりも美しさに魅了されて我を忘れているようなそういう人の作るものが好きです。
それでもしっかり作ってあれば商品としては立派な品物ですから悪い方ではありません。
もっとひどいものはいっぱいあります。
そんなことで現代の弦楽器職人が何か工夫しても「蛇足」になってしまいます。
それがすごく難しいところです。
モダン以降の楽器製作というのはストラドモデルというお手本が決まっているので何をやっても蛇足にしかなりません。かといって水準に達していなければ粗雑な品物となるのです。
オールド楽器を見ていると本当に面白いものです。今の我々には絶対に思いつかないような楽器なのです。
もし今を最高の時代と考えるのならいくら歴史を勉強しても過去は今の元を作った事にのみ価値があるというねじまがった見方しかできません。そこには今とは違う世界がありその後失われてしまった豊かな文化が存在していたと考えると学ぶことがあります。
古楽演奏を専門にする人たちがどんな考えなのかは各自あるとは思いますが、ロマン派の大作曲家のルーツだということで評価するならバロックの世界から何も得るものは無いと思います。
バロック楽器は単に優れているとか劣っているとかそういうことではなくて知らない音楽の世界を知るための道具だと思います。そうやって見て来るとモダン楽器にも歴史があって今のものと戦前では弦が違います。名器として人気のあった楽器のタイプも違います。演奏スタイルに関しては私の言うことではありませんね。
そこには知りたいという強い欲求があると思います。
ニスです
ニスに関してはいろいろとグダグダ言ってきましたが、「陰影をつける」という簡易的なアンティーク塗装で色合いだけでも古い楽器のようにしようというものでした。明るい黄色やオレンジ色、鮮やかな赤ではあまりにも新品のようなのでやめました。注文主と相談した結果です。真っ黒にしても今一つなので多少汚れている様子を入れて落ち着いた感じにしたいと思います。このため、オリジナルの赤茶色のニス、下地の黄金色のニス、汚れのこげ茶色のニスの三色を最低でも必要とします。そのため普通にフルバーニッシュで塗るよりも単純に考えても3倍の作業時間がかかります。ざっと計算しても「ちょっと古びた」に40万円も高くなります。実際にはもっと手間暇は増えますのでそれでは効きません。お金のことを考えていたらチェロなんて作れません。
3色使わずに一色だけでこれをやると本当にひどいものになります。
ニスの剥げ落ちたところは強い黄色になってしまい黄金色とは程遠い毒々しいものになります。
色が濃いところも真っ赤です。このような状態には50年経っても100年経ってもなりません。ヘタクソなアンティーク塗装以外ではこのようになることはありません。
それならフルバーニッシュで塗ったほうがましです。
どうしても3色使わないといけないとなると1色の3倍以上の手間がかかるのです。
それでもちょっと古びた簡単なアンティーク塗装です。
それに対して量産メーカーはわざとらしいアンティーク塗装を施しています。
すぐにそれが量産品だとわかります。
わざとらしくなるくらいなら施してあるかわからないくらい自然なアンティーク塗装の方が良いです。40万円もかけてやってあることが分からないというのが上手い仕事なのです。
「控えめの美しさ」は長年使っていくには良いと思います。神経を使って時間をかけて仕上げてあるのですぐに飽きてしまわないと思います。これがオーバーなものは瞬間的には強く訴えるのでパラパラとページをめくっていくマンガには適していますが愛用品には向かないと思います。
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ニスは瓶に入ったものを買ってくるわけではありません。自分で作ります。
今回は強めの色で固めのものを配合しました。
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2色作って一つは顔料をさらに加えて汚れを再現し3色とします。
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加熱して樹脂や染料を溶かした後こします。
オイルニスなので天ぷら油をこすみたいなものです。
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角は少し丸くしましょう。これも簡易的なアンティーク塗装の一貫です。このような手法は100年くらい前に流行ったのでそれをアンティーク風と知らずに作っている人が多くいます。現代ではごく普通とも言えます。なぜ知らないかといえば歴史を学んでいない人が普通だからです。
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全体はこんな感じ。すでにカエデの部分は着色がしてあり色が染み込まないように目止めをしてあります。色のついたニスを直接気に塗ると染み込んで染みになってしまいます。あらかじめ無色のものを染み込ませておくことでそれ以上染み込まなくなるのです。
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エッジはその後、新しく削ったので真っ白になっています。ここを灰色っぽいくらいにきつく染めます。使い込んだ楽器では摩耗して汚れが刷り込まれているからです。特にチェロは脚で挟んだりしてエッジが摩耗し汚れが入っていきます。
今は黒く見えますがニスが塗られていくと自然な色に見えます。
エッジの部分の色を出すのはすごく難しいのです。
これも自然なので出来上がってみると黒く染めたことには誰も気づかないでしょう。もし染めていなければ真っ白なエッジとなり大変に見苦しいものです。そういう楽器はよくありますけど。
エッジまでニスを厚く塗っても剥げてくると真っ白なところが出てくるのです。
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ニスの塗り始めです。当然ながら色がついてきます。
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均一に塗るのではなく濃い所と薄いところを塗り分けていきます。今回初めてやってみましたがこれが後で大変手間がかかることになります。
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1週間でこの程度です。まだまだ黄色です。
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わざとらしくない程度に年輪の縦の木目に汚れを入れて強調しています。
さらに一週間・・・
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ちなみに土曜日も日曜日も塗っています。その分平日午前中までしか働いていない日がありました。会社というシステムは楽器製作には合いません。
少しは色が濃くなりましたが半月でこれだけです。
そのまた1週間後・・・
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だいぶできてきました。
結局1か月以上かかっています。5週間くらいです。
1色なら2週間くらいで行けるのですが。
続きは完成してからの画像で紹介します。
付属品
指板を取り付けます。
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指板に合わせてテールピースも作ります。
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古いチェロの指板をリサイクルします。
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カエデで縁取りをします。
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縁は額縁のように斜めに合わせるときれいです。
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後で裏側をくりぬきます。
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こんな感じです。
続いてペグ
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バロック用のペグを作っているメーカーは少なく今回はテンペルのものを改造して使います。右がテンペルのものですが、気に入らないので改造したのが左です。
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磨き上げるとこんな感じになりました。バロックらしい形になったと思います。
駒です。
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左がフランス型のモダン駒で右がバロック駒です。中央はモダン駒の構造でデザインだけがバロック風になっているものです。今回は本当のバロックチェロなので一番右のものを使います。モダンチェロにガット弦を張ってバロックとして使うなら真ん中のものが良いでしょう。
バロックの駒は足が短いので構造が硬くなっています。硬い駒は明るく高音の刺激的な荒々しい音が出やすくなります。したがって耳障りな音のチェロにつけると酷いことになります。
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最終的にはこんな風になりました。見慣れないのでよくわかりません。
昔はいろいろな形があったので何が正解ということもありません。
あとは変わっているのはエンドピンです。
昔はシャフトがありませんでした。
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これを付けます。これもなかなか売っていないのでエンドピンのメーカーに特注です。
これだけ見るとヴァイオリンやビオラのものにも見えます。
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隣にヴァイオリンのエンドピンを置いてみるとこんなに巨大です。
上下のナットには本人の希望で
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このような素材を使います。本来ならもちろん象牙なのですが、これはプラスチック製の模造品です。しかしながら模造品の中でも高価なもので象牙によく似せてあります。
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色が白いです。
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モダンのものよりははるかに小さいものです。パフリングが残っているのもモダンとは違うところです。
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高さも表板のエッジと同じ高さしかありません。テールピースの構造が違うのでこれで行けます。
次回は完成の様子です
ペグやテールピースなどの付属品は作っているメーカーが少なく入手は難しいです。現代のものでも実用上は使えますが見た目の雰囲気の問題です。あとはガット弦ですが、これは使っていくうちにいろいろ試して自分で好みのものを見つけてもらいます。とりあえずのものを張っておくだけです。
ディティールに至るまで「本物のバロックチェロ」となるようにモダンの要素は無くしていくことです。珍しい感じがすると思います。これが正解というのは決まっていなくて王様や貴族の所有であれば豪華な装飾が施され、庶民や音楽家は質素なものを使ったはずです。今回は特に機能性も重視しました。バロックチェロのスペシャリストを目指す音大生のためのチェロですからゆくゆくはバロック楽団に所属するかもしれません。ステージ上にも立つわけですし、演奏会に来る人もマニアがいるかもしれません。嘘くさいものは格好悪いです。
あとは衣装です。
バッハやヴィヴァルディみたいにかつらをかぶったり…はしないのかもしれません。
バロックの時代には服装も真黒な燕尾服のモダンの時代とは違います。舞台も演劇のセットのような舞台装置になっていたようです。現代は質素なものです。
演奏会も貴族の結婚式など式典の時に催されたようです。結婚式の出し物ということですね。
祭りなんかもあったりしたそうです。ベネチアなんて年の半分がお祭りだったそうです。
バロックの時代の音楽の主役はあくまで歌ものです。
オペラやオラトリオのバックを担当するのがチェロ奏者の仕事でした。
器楽曲は合間やプライベート空間で演奏されるような脇役でしかありませんでした。
オペラのような演劇の要素はよりドラマチックな作曲技法を生み出すきっかけになったでしょう。
次回は完成の姿と音についてレポートします。