記録的な熱波がヨーロッパを襲っています。
各地で気温の記録を更新していますが、それ以上に厳しいのは長く続いていることです。これまでは暑い日があってもせいぜい4~5日もすれば交互に涼しい日がやってくるものでした。体験した事のない暑さです。
私のアパートは断熱性が高いため外が暑くても1~2日は涼しいままですが、徐々に建物が熱を持ってきて涼しい日が来ても暑いままです。それでも交互に来れば室温は30℃は超えませんでした。
こちらの暑さに対する対策は日本の50年は遅れているでしょう。
私の町でも38度を超えましたが、気温が高くなればなるほど川辺で日光浴に来る人が増えます。未だに日光に当たるほど健康に良いと信じられていて、熱中症や紫外線の危険が周知されていないようです。
暑さそのもので死者が出るというよりは35度を超えるといつも以上に人々が遊びに出かけ水難事故が多発するという具合です。もちろんお酒を飲んで水に入るのですから危険極まりないです。つまり暑くなると遊びすぎて亡くなってしまうのです。
エアコンなどは街中にもなく、去年くらいからようやくバスなどが冷房付きになったくらいです。とにかく冬の寒さへの対策が重視され冬でもTシャツで過ごせることが豊かさの象徴となっています。
このため暖炉やストーブには何百万円もかけるのに、その時が来るまで暑さのことは忘れています。さらに夏はもっと熱い南の国にバカンスに行くくらいです。

私は毎年暑さ対策を考えています、去年はかき氷機を買いましたがこれも西洋には無いものです。アマゾンでは中国製のものがあります。アイスクリームを買うより経済的かと思いましたが意外にもシロップが異常に高く、安い人工のイチゴ味のものはとても酸味が強かったです。日本の果物は酸味が少ないので日本で生まれ育つと西洋の果物はすっぱすぎますが、人工調味料のシロップでもそれを再現していたのでした。
とはいえこの猛暑では助かります。
今年の投資はサーキュレーターです。
サーキュレーターも日本では有名でしょう。日本での使い方はエアコンの効果を高め節電することでしょうが、うちにはエアコンがありません。その代わり夜には20℃以下になるので窓を開けて外の風を強制的に送り込むのです。冷たい暴風の中にいるようです。
これによって意外にもよく眠ることができ、思ったより元気に働いています。
これまでは外の騒音を避けるため耳栓をして窓を開けるだけか普通の扇風機を使っていましたが、風のない日や風向きが違うと冷気が部屋の中央まで届かずほとんど焼け石に水という状況でした。
店にはチープな扇風機が売られているだけでサーキュレーターはこちらでは全く知られておらず、その効果を同僚に話してもちんぷんかんぷんのようでした。最強にしても耳栓があるので風の音もうるさくありません。
ネットで5月のうちに買っていたので良かったです、現在は軒並み売り切れになっています。
Vornado 5303DCというものです。国によって電圧など仕様が違いますが共通のモデルです。他のサーキュレーターを知らないので性能などは分かりませんが、これより大きな羽の扇風機よりもはるかに強い風が出ます。
サーキュレーターは近所のお店にもないだけでなくネットでもその名称が知られておらず扇風機と混同されていて検索も困難です。それで老舗のメーカーのものにしました。問題なく機能しています。
それでも昼間の暑さはどうにもなりません。家の中が31℃になっていますが、外が35℃を超えているので夜の10時くらいまでは窓を開けると逆効果です。にもかかわらず窓を開けている家をたくさん見かけます。私も日本で子供の頃はエアコンがなく夏はいつでも窓を開けていたものでした。未だにその時代のレベルです。
暑さと楽器の問題ですが、人が生きられるくらいの温度ならそれほど暑さは問題になりません。ただし車の中に放置してニスがベトベトになりケースに張り付いてしまうという事故は時々ありますので、お子さんや愛犬と同様くれぐれも熱い車内に放置しないようにしてください。
汗などはニスに跡が付きますので拭き取るようにしてください。
湿度が上がることでペグがきつくなることがあります。ペグはテーパー状になっているので奥に押し込むときつくなり、外に引けば緩くなるとそんな説明も初心者には必要です。近頃はアジャスターでしか調弦をしたことがないという人が多くなっています。

壊れたヴァイオリンが持ち込まれました。ボタンが割れています。
たいしたことないように見えるかもしれません。

ボタンが割れてパフリングのところが開いています。

横を見ると塗装とずれています。

裏板を開けてみると、上部のブロックごと割れていました。意外と大変な修理です。
今回は保険に入っていたので安心です。ブロックを交換し、ボタンの方も裏側から木材を埋め込んで補強し、ネックを入れ直す修理になります。
製造時に斜めに入っているネックも真っ直ぐになりネックの下がりも直り、壊れる前よりも弾きやすく音も元気になることでしょう。これが保険に入っていないと単に接着して終わりという事になります。
中古品などはこの修理をしてあるかないかは大きな差になります。
多くの場合演奏者は壊れても、使えるように直してくれれば十分だと考え応急処置で終わりにします。遺族などが売りに来ると高額な修理代を支払わないと売り物にならないという事態に直面します。
故人が自慢していた楽器は、売ってお金になるどころか、お金をかけないと売りに出すことさえできないのです。
売れるか売れないかわからないものに遺族は何十万円も払うわけがありません。我々も売りに出される中古品がいくらでもあるのに、わざわざ修理に手間がかかるものを買い取ったりしません。
そのようなことで修理されていない楽器を買ってしまうと後で大変です。ここが壊れている楽器はよくあります、我々でさえ気付かずに買い取ってしまうミスがよくあります。
この部分は弦楽器の構造上の欠陥でもありますが、アマティの時代からそのままです。
それで保険に入っていると安心というわけですが、弦楽器については日本の方が50年遅れているという所でしょうか。保険といっても高価な名器だけではなくこれはマルクノイキルヒェンの量産品です。
これが次の仕事です。
コントラバスの修理は前回はここまででした。

写真の中央に穴が開いていて向こうの光が差し込んでいます。
過去には何度も何度も裏板と下のブロックがはがれて、接着しなおしたようです。その時古いにかわを除去せずそのまま上から貼り付ける応急処置をしました。そして木釘で固定していましたがまた開いていました。
コントラバスの下のブロックにはエンドピンが差し込まれますが、コントラバスのすべての重さと、5弦の張力がかかる所です。何度も剥がれて応急処置が繰り返されてきました。

表板側も異なる時代に木釘が7~8本打たれています。接着が不完全で木釘で止めていたのです。
またサドルの所も傷ついています。
週明けはどうやって直すか途方に暮れていたところからスタートでした。
まず一日かけて古いにかわを水やお湯で溶かして除去したのちに裏板とブロックを接着しなおしました。

それでも一番良いのは裏板を開けて接着面を加工しなおすことや、ブロックを交換することですが、修理が大掛かりになりすぎます。これでもだいぶましになりました。

裏板とブロックの間の隙間が無くなりました。もう一度さっきの写真です。

裏板とブロックの間に隙間があります、これではコントラバスの重さと張力を支えることができません。
穴の方は・・・

穴の周囲を削って新しい木材を接着できる面を作りました。そこに木材をピッタリ合うようにして接着です。
たいして難しい作業には見えないかもしれませんがコントラバスの場合厳しいのは体勢です。前かがみの無理な姿勢で腰が痛くなったりします。大工さんなら梁の上でノミを金づちで叩ていますがそんな感じで違うレベルの精密加工です。

この上から途切れていたライニングを取り付けます。

これで補強されました。
裏板の接着面も強化されます。
木材には加工できる繊維の向きというのがあって、ノミの柄がぶつかって入らなかったり、利き手じゃない方の手を使わないといけなかったりしました。
三度修理前の写真を

ライニングは欠けていて接着面は壊れていました。
裏板を開けられない状況ではベストな修理でしょう。

短いライニングを接着するだけでこれだけのクランプが必要でした。横板が高いので特大サイズです。
これ一つは1万円以上はしますから7つで7万円は軽くします。このようなコントラバスの修理は10年に一回も無いかもしれません、儲からないわけです。

表板側もサドルの下が傷ついていました、ここも埋め直します。
古い楽器の修理で多いのは黒檀を埋め込んであるケースです。

今回はメイプルにしました。オリジナルと同じ向きにスプルースを埋め込むのは接着の難易度が高く強度に問題があります。
メイプルであれば後で外から見た時に横板のライニングと同化します。
これでサドルの下に一枚メイプルが敷かれたことになります。これが音に影響するでしょうか?
サドル自体の材質も音に影響があるかもしれません。
しかしサドルは力がかかるので硬い黒檀でないと耐久性がありません。柔らかい木や軽い木にするとテールガットが食い込んでしまいます。楽器ごとに形を加工しないといけないのでカーボンなどは無理です。したがって音のために別の素材にするというのは考えにくいです。
じゃあその下に敷くものを変えれば音が変わるかもしれません。
今回のような加工ではそんなに簡単にあれこれ試すようなことはできません。
もし交換が可能なようにカンタンに着けたら接着が不完全であることが音に影響するかもしれません。
それに対してこのような修理をせず傷ついてガタガタのブロックにサドルを無理やり取り付けると強い張力でいつ外れてしまうかわかりません。これまでのようにまた古いにかわの上から接着して応急処置を繰り返すだけです。
これで表板がつけられるか試してみるわけですがまだ欠けているところがありました。

ネックの根元の横板とライニングが欠けています。左右両方です。地味ですがこれが欠けていると表板と隙間ができます。
来週はもう一度ひび割れや剥がれがないかチェックして表板を取り付けたいと思います。表板を付けるには事前に、接着剤をつけない状態で組み立ててみて完全であるか確かめる必要があります。これに何日もかかるかもしれません、それがコントラバスの修理最大の難関です。
多くのコントラバスの場合にはギターのように表板が横板よりもはみ出しているオーバーハングがありません。このためピッタリに横板を合わせないといけません。過去の修理でもあってない所をパテで埋めてごまかしていましたから理論上無理です。
接着に使うにかわについて改めて説明しましょう。
にかわというのは聞いた事はあっても実際に見たことがある人は多くないでしょう。現代の木工では使わずホームセンターにも売っていません。

乾燥した粒状になったものを購入します。原料はおそらく豚の皮の所だと思います。日本では魚などが古くから用いられてきました。いずれにしても動物性のもので温めると液体になり冷えると固まるものです。煮凝りと同じでグミキャンディとも共通しています。

これを水に浸して乾物のように戻します。
湯せんすると溶けて液体になります。熱くし過ぎるとたんぱく質が壊れてしまいます。

温かいうちは液体で冷えると固まりますから、温かいうちに塗って固定しなければいけません、そのため早業が求められます。
木材を削る仕事はゆっくり少しずつ慎重に作業することができますが、接着は一瞬の一発勝負です、ここで位置がずれてしまうとせっかくの努力が水の泡です。ですからとても緊張する作業です。
私も接着の途中の写真をこれまで一つも上げていません、それは作業中に中断してカメラを手に取ることができないからです。撮影されながらも気が散って「それどころじゃない」と頭に来ます。見学や撮影は構いませんが接着中だけはやめてほしいです。
それくらい難しい作業です。
このため準備が肝心です、にかわをつけていない状態で何度も作業のシミュレーションをしベストな方法を探します。この予行演習がにかわづけのすべてを決めます。それでも本番は練習とは全く違う事態に直面することが多いです。濡れると木材が変形するからです。
そうはいっても私は木工用ボンドよりもにかわを好みます。木工用ボンドは粘性が高くクランプで締めつけるとグニュッとずれるからです。接着面が合っていれば温度でサラサラになるにかわなら吸盤のように引っ付きます。
接着は一瞬でも準備に何時間もかかるというわけです、コントラバスなら何日もかかるかもしれません。表板を横板に合わせるためにエッジに木材を足したり、指板の下に板を入れて角度を調整したりすることもありました。これは表板の輪郭と横板を合わせるとネックの角度が動くのです、5弦のバスで駒が低くなりすぎると弓が表板の縁にぶつかって演奏ができません。このため表板を付けるだけなのに指板を外してネックに木材を足したことがあります。サイズがヴァイオリンの比ではありません。今回はそうならないことを願っています・・・。
弦楽器が一般の木工と大きく違う所はこの接着にあります。
普通の木工は木材をはめ込んで抜けなければ良いというくらいです。それに対して弦楽器では接着面と接着面の間に隙間が少しもあってはいけません。加工のクオリティが全く違うのです。
現代の接着剤は、人工樹脂が含まれていて隙間をそれで埋めます。ゴムやプラスチックのようなもので隙間を埋めることができますが、にかわでは隙間があるとくっつきません。にかわは分厚くなると乾燥して縮み割れてしまいます。古いにかわの層の上ににかわをつけると簡単に取れてしまうのです。
量産品には木工用ボンドが使われていますが、ゴムのクッション材が木材と木材の接合面の隙間に入っているという事です。振動にとってどうなんでしょうね?
指板や横板がちょっと剥がれたくらいなら隙間ににかわを流し込んでくっつけ直します。しかし完全に剥がれた場合にはそれだとまたすぐに取れてしまいます。指板なら指板とネックの両方の接着面を削り直さなければいけません。これによって駒の高さが低くなってしまうと角度を上げなければいけないのでくっつけるだけでは済まないのです。
安上がりな修理というのは剥がれたところをただそのままくっつけるだけですが、事態を軽く見てそれで持ち主は修理されたと思っています。
安い楽器では簡単に楽器の値段を超えてしまいます。真面目にきちんと修理する業者がボッタクリと思われかねません。応急処置で高い代金を取るのがボッタクリです。
さっきのこれです。

これを接着するのにどうしたかと言うと

これだけの大ごとです。
しかししっかり接着されていないとサドルとともに強い弦の力で外れてしまいます。
接着はにかわが冷えて固まるまでの間動かないように固定しないといけません。糊で貼るように置いただけではいけません。皆さんはボンドなどでくっつけたのにまた取れてしまった経験がおありでしょうか?接着というのは固まるまでしっかり固定しないといけません。特に粘性の高い木工用ボンドではボンドの厚みが無くなるように押し付けないといけません、そうすれば木材よりも丈夫になり木材の方が裂けてしまいます。
にかわは室温にもよりますが1時間もすれば冷えて動かなくはなります。その間ずっと手で持っているのは不可能です。手で持つと力が一定ではなく方向もグラグラしてしまいます。接着する前に固定法を考えなくてはいけません。
2時間もすれば外れないくらいにはなりますが、水分が無くなるという意味で固まるのはずっと先です。木材に水分が吸収されて行きます。にかわの水分が吸われ木材が乾くことによって木材の収縮が起きクランプが緩みます。このため鋼鉄が軽くしなるくらい締め付ける必要があります。
古い楽器の修理では割れた部分の接着でしっかり固定してないことが多く隙間が黒い線になっています。ただ貼り付けただけかひもでぐるぐる巻きにしたくらいでしょう。
ちゃんと固定すれば見えないくらいになります。今回のコントラバスでもそうでした。弦楽器は曲線が多いのでそれも難しいのです。接着が不完全で不安なので巨大すぎる補強を行っていました。これが雑な修理です。
コントラバスの製造や修理は、仕事の水準がヴァイオリン職人ではなく、一般の木工職人のレベルであることが多くあります。ブロックのところは過去の修理で木製の釘で止めただけという固定法になっていました。一般の木工ではおかしくはありません。
趣味でDIYをやろうと思いましたが根柢の考え方があまりにも違い過ぎるので断念した経緯があります。
とはいえ過去の修理を見ると弦楽器職人にも大きく2種類の人がいることが分かってきました。粗雑な人と丁寧な人です。これを系統として分けたいと思います。粗雑系、丁寧系とでも言いましょうか?
量産品やイタリアの職人には粗雑系が多いという事ですが、日本を含めどこの国人も粗雑な職人の方が多くいます、イタリアの粗雑な職人だけが特別という事はありません。
他の木工職人がどうか知りませんが音楽家のプロを断念して手先が不器用な人も多いものですが、同じ音楽家の共感を得ることができます。昔は向き不向きに関係なく家業を継いだものです。
名工と言われていたとしても粗雑系の職人というわけです。粗雑系の音と丁寧系で音の方向性の違いもあるでしょうね。
同じように粗雑な職人の作ったヴァイオリンがイタリア人なら1000万円で他の国の人なら50万円にもなりません。つまり200万円以上する楽器で粗雑に作られているのがイタリアのものだけという事になるので、オークションのカタログに載る粗雑な楽器はすべてイタリア製となります。粗雑な楽器は個性的にも見えますがイタリア以外の粗雑な楽器は安すぎてオークションには出ないというだけです。
もちろんイタリアにも他の国と同じように丁寧系の職人がいますので、丁寧なのが邪道などという哲学や思想の違いはなく一定の割合で粗雑な人と丁寧な人がいるというだけです。フランスやドイツでは丁寧な職人が選抜され多くの粗雑な人は量産工場に勤めていましたが、イタリアでは個人で作って安値でイギリスやアメリカの業者に売っていました、それを消費者に高く売るわけです。そんな商売を「世界的な評価」というのですから笑ってしまいます。
特に有名なイタリアのモダンの作者は木工職人から転職しアマチュアのヴァイオリン職人に教わった人なので、過去のコントラバスの修理のように丁寧系の職人とは全く作風が違います。量産品でも上級品に偽造ラベルが貼られると丁寧すぎるのでニセモノと分かります。
粗雑な仕事と丁寧な仕事とどちらが良いでしょうか?
ビジネスをやっている人なら粗雑な人材の方が優れていると考えるでしょう。人間の世界では多数決で粗雑な人の方が主流なのです。
お金を払う側にとってどうなのかは個人の自由です。
終わりの見えない暑さでしたが幸い週明けから気温が下がりそうです。30℃では涼しいとは言えませんが・・・

















































































































































