ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。
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ヴァイオリン、ビオラ、チェロなど弦楽器の良し悪しを見分けるには、値段とメーカー名を伏せて試奏し、最も気に入ったものを選ぶのが最良の方法です。
しかしながら、よほどの自信家でもない限り不安になってしまいますよね?

そのため知識を集めるわけですが、我々弦楽器業界は数百年に渡って楽器を高く売りつけるため、怪しげなウンチクを広めてきてしまいました。

弦楽器の製作に人生をかけたものとして皆さんはもちろん、自分を騙すことにも納得がいきません。
そこで、クラシックの本場ヨーロッパで働いている技術者の視点で弦楽器を解明していきたいと思います。

とはいえ、あくまで一人の専門家、一人の製作者としての「哲学」ですから信じるかどうかは記事をよく読んでご自身で判断してください。


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こんにちはガリッポです。

昔NHKの取材でジオ・バッタ・モラッシが「ヴァイオリンは手作りでなければいけません・・」と語っていた記憶があります。逆に言えば手作りなら十分良いものだということで、量産品に比べて自分は優れたものを作っていると自負しているようでした。それを勝手に消費者があらゆる楽器の中で優れたものだと勘違いしたようです。

モラッシのものでも無名な作者のものでも手作りであれば等しく良いものであるという事ですね。実際に音について経験することは全くその通りで、よく鳴る楽器、自分の好みの音の楽器がどこの誰の作ったものに存在するかはわかりません。無名な作者のものでも音が悪いという事は確実ではなく弾いてみないことには邪険にできませんし、有名な作者でも音の良さは確実ではありません。
長い経験をされたモラッシ氏の言うことが理解できるまでになるには多くの経験と柔軟な思考が必要です。

イタリアの場合には手作りであれば何でも良いというのは一つの特徴と言えるでしょう。これはそれを買い取っていたヨーロッパ大陸の外の業者が楽器自体に興味がなく「イタリア製の手作り」なら何でも良かったからでしょう。安く買って高く売れる方が良いですから。その状況下で生計を立てていたイタリアの職人にとって手作りであることが大事だというのは経済的な話です。しかし今では職人の数が多くなりすぎて輸出できる人はごく一部でしかありません。

フランスやドイツの場合には量産品に対してクオリティの差をつけることで差別化を行いました。手作りの楽器でも腕の良い職人とそうでない職人の差も生まれ地元で愛用されました。
工業技術の発達した現代では機械の性能のように腕の良い職人は「正確に加工されているので音が良い」と説明します。大量生産品や並の職人では精度が出ないからというわけです。加工精度が高いのでストラディバリよりも優れていると豪語する人もいます。

実際に多くの楽器を見てくると不正確に作られているものに音が良いものがよくありますし、正確に作られているのに音が芳しくないものもよくあります。これも関係ないですね。

特に日本人は細かいことにこだわりやすく「0.1mmが音を決める」と思い込んでいる職人も多いでしょう。消費者の方も訳が分からなくて不安な時に自然に思いつくことで、ちょうどよくそんな職人が自信満々に語れば信じてしまいます。私も初心者の頃はわずかなミスで酷い音になるんじゃないかと不安でした。

しかし実際はわずかに寸法を変えても音にはっきりした違いは現れません。はっきり違いが無いので音が良いと思い込むこともできます。

俯瞰して物事を大局でとらえることができる人は基本的に少ないでしょう。それが必要なのは王様とか武将など支配者の家系だけです。庶民は自分の役割の中で物を考えれば良いからです。細かい決めごとで最善を尽くしていると思っています。職人などはその極みです。

同じ人が全く同じ寸法で作っても音は微妙に違うものができます。しかしながらたくさんの楽器の中では同じような傾向になります。腕の良い職人ならば注文して作ってもらってもそんなに変な音のものはできません。

一方意図的に変な音の楽器を作れと言われてもそれも難しいです。
実際には些細なことで音が激変するというよりは、なにをやっても大して変わらないものができるというそんなものです。

したがって意図的に違った音のものを作るには、0.1mmどころか天と地がひっくり返るくらいのものを作ってようやくまあちょっと違うなというくらいなのです。それに比べると過去に作られた古い楽器の音は様々です。


つまり正確に作られているからハンドメイドの楽器の音が良いというよりは、量産品があまりにもひどいという事です。そこそこであれば特別腕が良くない職人が作っても可能性はあるというわけです。量産メーカーでもグレードの高い製品はありますが値段が高ければまず売れません。そのため極限まで手抜きして作られます。

したがって嘘や迷信なのは、「腕の良い職人にのみ音が良い楽器が作れる」ということですね。音が良い楽器を必要としているのなら職人の腕前や知名度に関係なく、やたらに弾いて探すしかないというのが実情です。実際にヨーロッパの方ではそんな楽器の探し方が一般的だと思います。値段や作者名を伏せて楽器を選ぶのが正しいと考えるのが主流です。値段や産地、名前に左右されないようにすることが大事だと考えています。日本人がやっていることの逆です。これは合理的な発想で分かりやすいですね。



それに対して理解が難しいのは根底にあるヨーロッパの階級社会です。
日本の場合には役職や年功によって厳しい上下関係があります。上の者に対して無礼な態度は許されません。
西洋に来るとそれがなくて驚きます。上司とも対等に議論するので、これが合理主義なのかと思うわけです。福沢諭吉なども西洋に渡って驚いたことでしょう。

しかしそれ以上長く住んでみると、日本以上に身分の差がある世界である印象を受けます。病院で治療を受けようとしても公的健康保険では何か月も待たされるのに、民間健康保険に入っている人は即日手厚い医療が受けられます。公的保険の加入者では治療を受けることができずに死んでしまいます。日本はそこまでひどくないでしょう。

特に特徴的なのはバカンスです。
日本人は海外旅行する人は少ないですが、こちらではだれもが毎年外国に旅行に行っています。どこに行ってどう過ごしたかを話すことで身分を確認しあっているようです。みなお金持ちの自慢話を興味津々で聞いています。それが私には不思議です。日本人なら自慢話をする人は嫌われます。

お金持ちの自慢話を聞かないのは無礼なのでしょうね。
昨今の日本では炎上するような特権階級も当たり前のように受け入れられています。企業経営者の報酬も日本とはけた違いです、バッハ会長とかカルロス・ゴーン氏なども西洋なら問題にもされないという事です。

そのような社会なので持っている品物で地位を表しているようです。
考古学で遺跡から豪華な宝飾品と人骨が出て来れば王様の墓で、権威を示すためだと説明されます。

私は前のものが壊れたので前回の帰国のためにスーツケースを新調しました。サムソナイトのC-LITEというもので探した中では一番軽量なものです。当然高価です、日本の公式サイトでは80,300円となっています。私が実際に買ったのは近所のデパートでネットの最安値よりもはるかに安い5万円位で買いました。スーツケースなんて安いものは1万円もしませんから立派なものです。工具を持って帰国するので重さは重要です。他に安くて軽いものもありますが列車や自家用車での旅行用で飛行機に預けるには不安です。

それに対して有名な高級ブランドのものはもっと高くてずっと重いです。お金持ちは大変ですよ。それ以上高いものでも機能的に優れたものにはなりません。むしろ重量が重いほど高級品というイメージがあります。華奢な老婦人が高級店に行って「まあ素敵!」と重さも調べずに買うわけです。革で作られたものまであります。楽器も同様で音もろくに試さずに買います。
旅行こそ身分の違いを見せつけるチャンスなので重要なのです。


西洋の人が高いものを自慢するときにそれは身分を表すためであって、機能的に優れているというわけではないという事です。パーティでは特に重要な要素で貴族社会の時代からそうです。技術系出身の日本企業は高級ブランド品を作るのは苦手なのです。
そのような社会に受け入れられるために弦楽器もランクがあります。しかし実用的な意味で値段に見合っているわけではありません。
かつては男性は皆スーツを着ていました。スーツにはテイラー職人が採寸して作るものと工場の量産品、細かい生地のランクの違いや着用シーンの違いが周知されていました。日本のように言う事を聞かないので、高いスーツを見せつける必要があります。
今でもお偉いさんの着ているスーツはランクの高いもので、弦楽器にも同様のランクがあるということです。有名ブランドの舶来品や地元の職人の上等なものというわけです。地元に職人がいないイギリスやアメリカでは物の良し悪しが分からなかったという事です。

音楽家の世界でも自分が優位に立つために無意識的に行われていることでしょう。


このため読者の方にもいろいろな方がいるかもしれませんが、何よりも音楽に熱心であったり楽器に関心が強い人たちだとすると業界の伝統的な値段や評価はあてにならないというわけです。うちのお客さんでは服装などは何十年も新しいものも買わず音楽に関することにだけ出費を惜しまないという熱心な音楽一家は一件だけです。西洋ではそういう人は少ないです。

①楽器の道具としての機能性を最重要視
とにかくやたらに弾き比べをして理由もなく音が良いものを選ぶしかありません。はるかに安価なものも候補に加えると良いでしょう。実際プロの演奏家には作者不明の楽器を使っている人がいます。ネックが持ちにくかったり機能的に問題があったら修理して改造する必要があります。

②尊敬すべき職人が作ったものを所有したい
とはいえやっつけ仕事ではなく職人がその生涯をささげ丹精を込めて作られたものを欲しいと思う人もいるでしょう。これも知名度や値段ではありません。腕の良い職人がさらに尊敬する職人です。職人に見せて意見を聞くのが良いと思います。


逆に言うと値段はこれらとは一致していないという事です。
高価な楽器でも音が悪かったり、下手な職人がやっつけ仕事で手抜きで作った楽器かもしれません。
弦楽器の商売の世界では値段が高いか安いかだけが語られてきました。値段が高い楽器を手にして「これは良いものです」と専門家がしかめっ面でうなっていると一般の人には説得力があるわけですが、良いのは値段だけかもしれません。値段が高い楽器の個性は良い個性で、値段が安い楽器の個性は悪い個性というのはおかしいです。

そうではなくて楽器自体にどんな違いがあって、または違いがなくて音にどんな違いがあるのかないのか興味を持って楽器を見ていきたいと思っています。それが私にとっては面白い世界です。
自分が作る楽器も自分が欲しいものをつくっています。手放すのが寂しいほどです。


もし加工精度の高さが手作りの良さなら、工作機械の性能が上がるとその職人の楽器には価値がなくなるという事を意味します。果たしてそれだけなのでしょうか?


このヴァイオリンから。四角いモデルで大きなf字孔がついています。

どちらかといったらガルネリモデルなんですかね?

メーカー名が書いてあります。J.A.バッダー&Coでミッテンヴァルトの会社組織です。製作年は1944年とあります、戦時中です。
ミッテンヴァルトでは地場産業として村中で分業して部品を作り組み立てていました。冬の農閑期の仕事とも考えられます。
この楽器もノイナー・ホルンシュタイナー社のものとそっくりです。同じ人が卸していた可能性もあります。

分かりやすい特徴は、横板のロワーバウツが一続きになっていることです。それ自体はアマティやシュタイナーの頃から行われた手法ですが、近代の量産品の他の産地では珍しいです。今はこんなに長い材料を入手するのが難しいです。

アーチはフラットで近代的な楽器製作、つまりフランスの影響を受けています。ルドビヒ・ノイナーがヴィヨームの弟子でフランス式のスタイルを教えたからです。今でもミッテンヴァルトにはヴァイオリン製作学校があり、そこで学んだドイツのマイスターの楽器にはフランスの影響が残っています。
当のフランスの方で忘れられているのにです。
日本人が学んだヨーゼフ・カントゥーシャは、それとはだいぶ違う外観をしていています。東京にはある意味ミッテンヴァルトや現代のドイツらしくない外観スタイルが伝わったわけです。つまりフランスのスタイルは従来の劣ったもので改良したと考えていたことになります。結果は理屈ではなく音で試さなくてはいけません。

ネックの入れ方や角度もフランスの19世紀の感じです。

スクロールにもミッテンヴァルトの特徴があります。しかし材料はチープです。裏板も同様で、戦時中という事も関係あるのでしょうか。

量産品ということもあり板は厚めに作られています。20世紀の量産品で薄い板のものは珍しいです。機械化が進むまでは安いものほど板が厚いというそんな傾向があります。

このような非常にチープなマルクノイキルヒェンのものでは板が厚すぎてもはや売り物になりませんし、練習用にもならないとレンタル用にも使えません。

ただし安い楽器では失敗して部分的に極端に薄いという事はあります。これは製造上の欠陥です。それに対して全体的に薄く作るのは神経を使う仕事です。

音は鋭く強い音です。少なくとも耳元では板が厚めだから鳴らないという事はありません。
強い音の楽器が好まれるわけですから悪くないですね。
ただしG線で上ずったような音になることがあります。私が下手だからかなと思っていたら、プロの人や先生が弾いても同じようになって、弓の加減に注意をして弾き直しています。時々そんな楽器があってミルクールのものでもそんな楽器がありました。

音が強いことを良しとするのならハンドメイドの新作楽器ではこれにかなわないかもしれません。
何でもないものでも1944年製という事です。

よく言われてきたのは量産品は分業で複数の人が手掛けているので作者の意図がないために音が悪いというのです。
それに対して私は極端な粗悪品でなくそこそこのものになっていて、古ければ十分音が良い可能性はあると感じています。作者の意図はあっても無くても音にはそれなりのキャラクターがあり好きな人には良い音です。
むしろ作者がすべて意図して音を作るのは現実的な話とは思えません。思った通りの音の楽器が作れるなら良いですね。

つまりそのような理屈は嘘であると考えています。

このようなものをも持っていることで社会的なステータスは高まらない事は言えると思います。

木材の質も見た目の問題で音には関係がないと思います。

ノイナー・ホルンシュタイナーであれば量産メーカーとしては有名で高いものは200万円にもなります。どんなチープなものでも名前が有名なので50万円位はすると考えて良いでしょう。それに比べるとバッダーは知られておらずだいぶ安くなるでしょうね。量産品の普通の値段となるでしょう。同じ下請けの人たちが作っても商業というのはそんなものです。


修理前のニスはこんな感じです。材質はラッカーですが細かなひび割れを起こしています。これは耐用年数を過ぎてしまったようです。それに対してマルクノイキルヒェンやミッテンバルトでも戦前のニスは何ともなっていません。楽器以外でも工業製品では戦後のものにはラッカーがボロボロになっていることがよくあります。戦後の方がラッカーの質が落ちているのです。

ものの耐用年数はどんどん短くなってきているようです。

磨いてもひび割れが残っています。
ヴィヨーム工房のヴァイオリンではここまでではないものの一部に小さな穴がたくさん開いていました、それを一筆一筆埋めたのでした。この楽器では多すぎますし、安価な楽器なので修理費用も出せません。

ラッカーが乾燥してひび割れたものは寿命を迎えています。日本ではシンナーと呼ばれているラッカーの薄め液で何度も濡らせば割れが埋まる可能性はあります。しかしいずれ同じことがまた発生することでしょう。

しかし最初の写真のようにだいぶきれいになって持ち主にも感謝されました。

次はこちら

ラベルなどは無くメーカー名は分かりません。

裏板が左右で違う木材が使われているのが珍しいです。
見るからにチープなものです。
エッジの丸みからチェコのボヘミアのように見えますが、ニスがちょっと新しい感じがします。
当然ラッカーで人工染料の色です。

ボヘミアのものとは言えなくなってきました。

スクロールにはヒントがあります。

渦巻には独特の雰囲気があります。

これは機械で作られたものです。かつては渦巻だけを専門に作る職人がいました。それが技術の進歩によって機械で作られるようになりました。機械の性能も向上してきましたので時代が分かるというわけです。
つまり機械で作られるようになったころはまだ東西冷戦が続いていて、当時のチェコスロバキアでは技術は進んでいなかったと思われます。そうなると西ドイツ製ではないかと思われます。
戦前ボヘミアにいたドイツ人が終戦後西ドイツに移住してきたので作風にその名残があってもおかしくありません。

西ドイツでは安価な楽器が生産されていました。ソビエト連邦が崩壊し冷戦が終結すると、旧共産国で安価な弦楽器が西側にも輸出されるようになりました。現在は中国が最大の生産国です。一時日本でもチェコの楽器が輸入されていました。

ブーベンロイトのカール・ヘフナーは日本にも輸出していました。近年経営破綻しGEWA社に買収されたようです。賃金の上昇とともに価格競争力を失っていきます、製造業にとっては喜べないことです。通貨が高くなり賃金が上がるという事は中国製品に囲まれて暮らすという事です。

アンティーク塗装がかなりわざとらしく極端ですね、マルクノイキルヒェンのものとは違います。

ネックは極端に斜めになっています。これで良しとしてしまったのがすごいです。

ちなみにさっきのミッテンヴァルトのバッダー社のものは

逆向きです。
量産品とはこんなものです。

駒の左右の高さやネックの持った感じにも影響することでしょう。
無理やり完成させてあるという具合です。

最新の量産品です。

かなりの部分が機械で作れるようになっています。生産国は中国でしょう。
それも言わずに載せたら高価な楽器と見分けがつかないかもしれません。

機械では難しかったf字孔も並の職人よりもきれいです。コーナーも均一でパフリングにミスもありません。

裏板の材質はチープですが、作風自体は現代のクレモナの感じです。

スクロールの機械も進歩したものです。

アーチはいくらか膨らみがありミルクールやフランスの影響は薄くなっています。


もはやハンドメイドのものと何も変わらないようです。
これで20~25万円位でしょうかね。

次はもっとチープなものです。

こちらはいかにもという感じですが、卸値は数万円のものです。
昨今では楽器を買う人が少なくなりレンタルする人が多くなってきました。これもレンタル用に購入したものです。

f字孔は癖があります、手作りのような個性があります。個性などというのはお手本通りにキレイに作れなければみな出てくるものです。

それでもヴァイオリン用の木材を買うよりも安いですから、我々職人には価格面で絶対に太刀打ちできません。

これでも昔のものとは全然違います。

これ以上機械が進化していくともはやハンドメイドの楽器にメリットは無いようにも思えます。
いずれきちんときれいに作られているのが機械製の量産品で、不揃いで歪みだらけなのが手作りの味という事になってしまいます。実際にこれらよりも下手くそな職人はたくさんいます。1000万円するイタリアの楽器を売る業者なら機械で作られたものは完璧すぎて人間味が無いと都合の良いウンチクが語られるようになることでしょう。そうなるとイタリア以外にもいくらでも人間味のある楽器がありますが?素人が作ればすべて人間味にあふれたものができます。

ニスはおそらくラッカーではなくアクリルのようなものだと思います。アクリルと言っていますが、私に石油化学の専門知識はありません。それでも広く言えば合成ゴムやプラスチックのようなものです。
1900年頃でドイツで作られた量産楽器にはラッカーが使われていて、ハンドメイドの高級品にはオイルニスが使われていました。ラッカーは硬く丈夫なもので、この時代のドイツのオイルニスはとても柔らかいものが主流でした。同様のニスはイギリスの楽器でもあり当時の流行だったと考えられます。
こんな事からラッカーは硬いので振動が妨げられ音が悪く、ニスは柔らかい方が音が良いというウンチクが広まってきました。実際にはそこまではっきりと断言できません。
新しい楽器に柔らかいニスを塗ってもそんなに音は良くないし、硬いニスでも音が良い楽器があります。

そんなウンチクが知られているのに対して、現代の人工樹脂では自由に硬さを変えることが可能でしょう。この楽器でも柔らかいニスになっていますし、ケースの跡がついてしまうような問題も起きることがあります。
こうなるともはや量産楽器に何の欠点も無いように思えます。


さて音についてはどうでしょうか?
新品の低級品の方は音も出るし、当然抑える位置によって音の高さが変えられるのでヴァイオリンとしてちゃんと機能します。私が指板を削り直しました、電動サンダーで仕上げてあるのでしょう、カンナで削らないとデコボコができてしまいます。
魂柱はあっていないので新しいものに変え、ペグの軸を削り直し、駒は足を合わせ直して高さと上のカーブを整えました。オンラインショップで買うとそうはいきません。

音は好みの問題としか言えません。
マルクノイキルヒェンの戦前のものでは練習用にも難しいことでしょう。

わたしには木箱やボール紙のような無機質な音に感じます。
もう一台同じ製品のヴァイオリンがあり、そちらにはダダリオのザイエックスを張ってみました。そちらの方が明るく豊かに響いて悪くないです。(もう一方はラーセンの安価なオーロラです)
それに比べると上級品の方が響きが豊かに思いますが、どっちの音が良いと感じるかは人によるかなと思います。
悪くはない感じはしますが、何かが足りない感じもします。私にはプラスチックという素材の持っている音はマイルドで柔らかいので嫌な音ではないかもしれませんが、モノトーンで無機質に感じられます。ニスや接着剤に人工樹脂が多用されていればそんな音になるかもしれません。しかしそれとて、事前に知っているからそう思うだけで、目隠しして音だけ聞かされたら私はどの楽器の音か当てる自信が全くありません。

西ドイツの量産品はずっと楽器がこなれていて軽く音が響きます、同時に耳障りな音も混ざっています。ミッテンバルトのものとも似ています。

私が習っていた時に使っていた90年代のチェコの量産品とも音が似ています。音は響きやすいので広い場所で弾くと気持ちいいかもしれません。
前に出て来た800万円以上するペッラカーニのヴァイオリンとも音が似ています。
https://ameblo.jp/idealtone/entry-12944063463.html
西ドイツの量産品も、チェコの量産品も、イタリアのモダンヴァイオリンも品質が同じくらいなら音も似ていてもおかしくありません。

一方でハンドメイドの楽器には明らかにクオリティの高いものがあります。これは個人的な好みの話でしかありませんが、もっとしっとりと上質でキメの細かい音があると思います。ただ音が出るだけじゃなくて澄んでいてすっきりとぬけが良く純粋な感じがします。急激ではなくじわじわと音が立ち上がり、何でもかんでも音が出れば良いというのではなく出るべき音と出てはいけない音が選別されているものです。


そのような方向性では未だに機械で作られた量産品は追いついていないように思います。しかしそれも個人の感じ方のレベルで客観的に評価する方法がありません。

ぺラッカーニのように800万円しても量産品と変わらないような印象受けることもありますから、ハンドメイドだから自動的に音が良いという事ではないでしょう。音は強さで評価する人が大半なら、量産品の方が強く感じられることは少なくありません。人々の音の好みも年々質よりも量になっていくのがトレンドです。私が一生懸命作っても音は大人しいです。
したがって個人の好みの問題としか言えません。見分けがつかないとペッラカーニも800万円だと聞かされれば「これが名器の音か!」と思う人もいるでしょう。

量産品と上品すぎる音のハンドメイドの間くらいがちょうど良いとなれば、ちょっと下手なくらいの職人や古い上等な量産品あたりが音楽に専念して特別なこだわりのの無い多数の人には受けるのではないかと思います。
実際に現代の楽器を買って私たちが見て「下手だなあ」と思うような職人のもので力強い音が出てるものです。
新作で強い音がするのは量産品にも近い凡人の作という事です。
だから才能や心構えなどは関係なくどこの誰にでも音が良い楽器ができる可能性があるのです。
そんな作者がメディアなどで有名になれば新作が500万円とかそれ以上で売られている人もいるでしょう。それを買うのも自由です。

そのようなものはイタリアの作者や新作楽器なら高価ですが、ただの中古品なら50~100万円位のゾーンなのでいくらでもあるという感じです。今は為替の問題で100万円を超えてしまいますけども。

量産品でもやはり古いものの方が鳴りが良く、新しいものはべっとり接着剤でコーティングされているような感じです。

量産品でもそれぞれ音がバラバラで、「量産品の音」と定めることはできないと思います。

何と弾き比べるかで印象が大きく変わってしまいます。基準となる絶対的な楽器があればいいのですが…。表題に応えるどころか音をどう評価するかそれさえも確立していないというのが現状でしょう。

手作りでなければできない楽器、音を追求していくことが私のライフワークです。

こんにちはガリッポです。



モクソンバイスを作ってきました。
https://ameblo.jp/idealtone/entry-12959081527.html

モクソンバイスは英語でMoxon Viceと書きます。
モクソンバイスは二つのスクリューがついた万力です。長い間忘れられていたもので近年にアメリカの木工家によって復元され海外の木工マニアの間で話題になりました。その後専用の金属部品キットが発売されマニアの間で流行しました。

市販されているのはこういうものです。
https://benchcrafted.com/products/moxon?variant=42644167557296

日本では木工の伝統があるために誰もそのような話題に関心は無いでしょう。

ヴァイオリン職人がみなこのような話題に通じているかと言うとそうではなく、むしろ何も知りません。他に誰も知らないのですから私が自分で作るしかありません。

ここまでできたところで部品のハンドルが中国から届くのを待っていました。以前注文して届いたのは間違ったものでした。

正しいハンドルが来ました。
ハンドルの直径が63mmとかなり小型になっています。先ほどのリンクのモクソンバイスの部品では5インチ(127mm)あります。大きさによって回転速度や操作性に違いがあるでしょう。
ヴァイオリン製作用では扱う材料が小さいので精密機器を調整するような操作感で良いです。
大型化すると重くなり、強度も必要になり、金属部品も木材部品も重厚でさらに重くなって大げさなものになってしまいます。一般の木工用の道具はヴァイオリン製作には粗すぎるのです。ホームセンターに行っても買えるものはほとんどありません。


仕組みは極めて単純ですが、無駄がないほど優れた設計と言えるでしょう。
ベンチドッグを安定させるために穴の所は厚みを増しています。それと同時に集成材の板の補強となっています。
通常のモクソンバイスではネジのシャフトが手前に突き出る形になっています。モクソンバイス用に市販されているネジのキットはみなそうです。
作業や通行の邪魔になります、作業場で引っかかったりすると危険ですらあります、そこでシャフトが奥に収まる形にしました。

モクソンバイスの最大の特徴は普通の万力と違いテーパーのついたものを挟むことができることです。

しかしただネジを付けただけではこんなにはなりません。
そこで考えたのが…

楕円形の穴をあけて金属のパイプを埋め込んでいます。分かってしまえばとても簡単な方法ですが、考えるのには苦労しました。
ただ単に穴が大きいだけだと左右だけでなく上下にも傾きが出てしまいます。ベンチドックを使ってワークベンチとして使うのは向いていません。

海外の製作法を見ても単に穴を大きめにする方法とルーターで運動場のトラックのような横に長い穴をあける方法が出ていました。木材に穴をあけただけだとだんだん穴が大きくなってしまうでしょう。そこで金属のパイプを埋め込みました。ベアリングのようなものが最高ですが仕組みが複雑になりますし、精密に組むとおそらく機構として機能しないと思います。
これは昔のもので「遊び」があることでなんとなく成立するものです。

出来上がってみると縦方向にはぐらつきがなくテーパーを付けることができます。


苦労したのは平面出しです。ブナの集成材がこんなに狂っているとは思いませんでした。
普通DIYで木工をすればホームセンターで木材を買って組み立てて終わりでしょうけども、全く板が平らではありませんでした。
集成材は木目の向きが様々でブナはとても硬い木材なのでカンナをかけることはできないと思っていました。
しかしよく調整されたカンナがあればそれも可能でした。このような西洋のカンナは日本のカンナよりももともと硬い木材を削るために切削角度が高くなっています。これは45度です。
さらにチップブレーカーというものがあります。文明開化以降日本のカンナにも裏金として採用されました。不正の資金のことではありません。

改良型のチップブレーカーを刃先に近づけると潰しながら削るような感じで表面を仕上げることができました。すぐに切れ味が落ちてしまうので30分も使ったら刃がガタガタです。
硬い木で角度も高いのでとても力が要ります。日本の場合にはスギやヒノキのような柔らかい木を軽い力でスーッと削れるようにカンナは進化してきました。西洋のものは力任せですが、現代の集成材には合っているようです。一般の知識としては集成材にカンナがけは不可能と理解しておけばいいでしょう。木工職人の腕というのは手先の感覚だけでなく道具を理解することです。鉄製のカンナは重いものですが、できるだけ軽い古い時代のものを修理して使っています。写真のものも1950年代のものです。最新のハイエンド製品はメカニズムはしっかりして分厚く重厚に作られていますが実用的ではないと思います。重いカンナはイギリスのヴィクトリア時代の木工道具に見られます。カンナが6~7㎏あったら持ち上げるだけで大変です。今でもロールスロイスなどの内装部品を作るのにつかわれているはずです。


しかし問題は木材が新しいこともあって、平面出しをして翌日に見るともう平らではなくなっているのです。
何回かやり直してちょっと安定して来たでしょうか?何年かしてからやり直す必要がありそうです。

この携帯型ワークベンチでは木材を固定してカンナをかける台にすることができます。木材が初めから板になっていれば、カンナは一方向なのでストッパーさえあれば材料を固定する必要はありません。
しかしヴァイオリンに使う木材は製材されて板にはなっていません。不規則な形なので安定しないのです。特にスプルースで理想的な材料は製材所のノコギリで切ってあるものではなく割ってあるものです。繊維の向きに従って割れるからです。
木材は不規則に割れるため材料に無駄が多くなります。何倍もの材料の厚みが必要になります。
弓でも割ってある材料とのこぎりで切ってある材料ではグレードが違います。特に強度や弾力が重要な弓では高級品は割った材料を使っています。

板にカンナをかけるとき板がたわんでしまうと正確に加工できません。分厚い角材であれば理論通りカンナを調整すれば正確に加工できます。つまりカンナを端から端まで通すだけで自動的に平面になります。しかし板がたわんでしまうとそうはいきません。そのため重要なのです。
私のように調整されたカンナを持っている人も稀でしょうからその必要も多くの職人にはわからないわけです。家具などの一般的な木工ではその必要もありません。

一つ仕事の精度を上げると問題点がはっきりしてくるのです。私の融通が利かない所です。

カンナをかけた後は油を塗って仕上げました。こんなのは汚れても味になるので構わないのですが、亜麻仁油を塗っておけば汚れも染みになりにくいです。カンナが機能すればサンドペーパーも必要ありません。西洋の伝統的な木工技術ではスクレーパーで仕上げることもできます。

現代の木工なら電動サンダーで行くところでしょうけども・・・。カンナで仕上げるときれいな上に面が真っ直ぐです。

もう一つの工夫点はストッパーをつけることで万力を開閉するときに手前の板が一緒についてくることです。

ストッパーの厚みがあると万力が締まらないのでくぼみに収まるようになっています。

一般的なモクソンバイスでは締め付ける時にはネジで抑えられますが、開ける時には板が一緒についてこないので手動で戻す必要があります。これは面倒です。
ただしストッパーに遊びが無いと万力のテーパーができません。

ストッパーはシャフトの終わりにもついているので最大限に開けると止まるようになっています。
とても簡単なことですけども部品の寸法が大事です。
このネジは一般的な規格ではないので市販のナットなどは使えません。

滑り止めとともにガタツキを抑える脚をどうするかなど細かい悩みは尽きません。

これでとりあえず出来上がりました。
遊びをどれくらい取るかも重要で調整は難しいです。

ストッパーの遊びが大きいほうが万力に大きなテーパーを付けられます。しかし万力を開閉するときに空回りしてすぐに板がついてきません。
少し多めにハンドルを回してから締め付けないといけませんが、ハンドルがスムーズなので全く負担に感じません。

二つのハンドルを両手で同時に回すのは生きて来てやったことのない運動なのでちょっと練習が必要です。左右のハンドルを逆に回す必要もありますが人間の体の仕組みなのかそっちの方がやりやすいです。

しかしスムーズに動いてくるくる回しているだけでも楽しいです。

最大の特徴はヴァイオリンやビオラの材料に最適化したサイズになっていることです。
ベンチドックも高さを微調整できるので板の厚さに合わせられます。

直径の小さなハンドルにしたことでこのような使い方もできます。

こんなに不規則な板では3点で固定できます。

縦方向にも固定ができますが、メイプルの縦方向にカンナをかけると杢が逆目になって割れてしまい普通は無理です。私のカンナは今回の集成材と同様、調整が普通ではないので縦にカンナをかけられ作業効率は段違いです。

本来のモクソンバイスの使い方はこんなことです。のこぎりで切り抜くときに使えるでしょうか?
ハンドルをできるだけ外側につけているのもこのためです。

最も気になるのはアーチや厚みを粗削りするときに使えるかどうかです。固定する方法はすでにあるので絶対に必要というわけではありませんが、しっかり固定できればより安全なので力いっぱい作業もできるものです。
下に不要な木枠を挟んで敷くとノミの柄がぶつからずに作業できそうです。
当然ヴァイオリンやビオラは上部の方が狭いですからテーパーがつけられるモクソンバイスならサイズの違う楽器でも融通が利くことでしょう。
この穴の位置を決めるのに悩みましたがばっちりです。

モクソンバイス自体は昔のもので、近年に復元されたものですが、ヴァイオリン職人用に最適化したのは私のアイデアとなります。
こういうものがあったらいいなと長年思い続けて、木工用ワークベンチ部品を調べるも巨大すぎてしっくりこないものでした。
思いがけず中国製の3Dプリンター用の部品をアマゾンで見つけました。実際にはもう一つ太いものを専門ショップで買いました。

アイデアが頭に浮かんでそれを実際に形にしました。試作品などは作らずいきなり完成品を作ったので失敗は許されないものでした。
楽器を作るには木工家としてのスキルが必要です。音楽家とは全く違う興味関心ですが、これが面白くないと職人は3か月と続きません。

職人がする仕事を知るのは「名工」などを考えるには必要なことです。


実際に楽器作りに使ってみて答え合わせです。余計な機能を省いてもっとシンプルなもので仕事ができればそれでも良いですね。

私は楽しくてしょうがないですが木工の魅力が分かってもらえたでしょうか?

うっかり失敗したほうが記事としては面白いかもしれませんけどもそんな余裕はありません。しいて言えばネジが突き出ていない代わりにハンドルにノブがついていてそれが邪魔です。これは取り外すことができます。そのあたりも運用面でテストです。

新しく買った2本のベンチドックのバネがとても硬いので最初は苦労しました。そのうち馴染むことでしょう。
このベンチドッグは小型のため商品名ではベンチパピーと書いてあります。パピーは仔犬のことです。

左がワークベンチのもので右がペンチパピーです。
こんにちはガリッポです。

この前はフランスの19世紀のヴァイオリンの話でした。戦後のフランスのヴァイオリンを見ることがありました。残念ながら正面の写真を撮る時間がありませんでした。

作者はR&Mミランの60年代のものです。
ニスは軽いアンティーク塗装で作風は現代のクレモナの楽器のようでした。もはやフランスの19世紀の面影はありませんでした。

この楽器でもすでに表板のニスは磨くだけでは光沢が得られない状態になっていました。


ニスの剥がれた場所を記録したこんな写真しかありません。

ミラン兄弟はイギリスで働いていたこともあり、その時代の最先端の流行を知っていたことでしょう。イタリアの楽器が飛ぶように売れる姿も見ていたのかもしれません。
ガルネリモデルであってもデルジェスに忠実なコピーではありませんでした。ラベルを見なければフランスの楽器とは全く分からないものでした。

フランスの19世紀の楽器製作では量産品と一流の職人の間にはっきりとしたクオリティの差があります。それに対してイタリアの楽器製作は手作りで作ってあればなんでもOKという感じです。そんな感じなのでフランスのラベルがあってもミルクールの量産品かと思いました。

兄弟の息子と甥にあたるベルナルド・ミランの鑑定書があり確かに兄弟のものであるようです。兄弟のブランドになっているし従業員も含めて工房的な製品だろうと思います。クレモナの楽器を買って売っていたとしても驚きません。

戦後ではもはや19世紀のフランスの楽器は時代遅れと考えられていたのかもしれません。エッジやアーチの仕上げにフランスの楽器独特の雰囲が感じられません。こうやって優れた楽器製作の伝統は失われて行きます。

みな新しい流行が好きで、失われた価値に気付く変わった人は私だけでしょうか?

もっと言うと、19世紀は国力でもフランスの時代でした。代わってイギリスが台頭することとイギリスの弦楽器の考え方が世界を支配したことと一致します。現在ではさらにアメリカです。イギリスやアメリカの価値観が楽器の値段に強く反映されているように思います。つまり楽器の評価とは消費者であるイギリス人やアメリカ人が名前を知っているかという事です。


またまたオールド楽器です。

雰囲気がいかにもオールドですね。
f字孔の角は欠けています。

こんなのも修理で直すことはできますが。

近代のヴァイオリンに比べると幅が狭く小型のオールド楽器の感じがします。

アーチのふくらみもあります。いかにもオールド楽器です。
色も黄金色ですね。

ラベルはついておらず鑑定書もありません。

私はパッと見た瞬間に分かりますが、これはマルクノイキルヒェンのものです。丸みのあるもので比較的きれいなものです。

値段は状態が完璧であれば作者不明という事もあって1万ユーロを付けるのは難しいかなと思います。8000とかそれくらいでしょう、しかしこの楽器では修理に多額の費用が必要です。
この楽器は親から譲り受けたものだそうで、魂柱はあってないし駒も欠けていて古くなっています。ペグはローズウッドで過去に間違ったテーパーで削り直してあり最悪です。f字孔やコーナーに欠けがあります。
売るわけじゃないのでせめて実用上重要な部品くらいは交換してもらいたいものですが、今回は掃除するだけです。私のする掃除は単なる掃除のレベルではありませんが‥。

10万円かけても新しいヴァイオリンをその値段で買うよりもずっと格が上です。
アーチの作り方にはマルクノイキルヒェンやドイツの特徴があります。その中でも自然な丸みになっています。


状態は完ぺきとは言えませんが音を試してみるといかにもオールド楽器らしい音がします。独特の枯れた乾いた音で高音も嫌な音がしません。ツボにはまると楽器全体が共鳴して複雑な音色になります。
すごく暗い音ではなくオールドの中ではやや明るめです。いわゆるソリスト用ではないでしょうが、イタリアのアマティ型の多くのものも同様です。イタリアのものでももっと暗い音のものがあります。
日本でのわずかな品ぞろえの少ない経験からオールド楽器でイタリアのものは明るい音、ドイツのものは暗い音と印象を持った人もいたかもしれません。しかし結論付けるのは早急です。


もう一つオールドヴァイオリンです。

カール・フリードリヒ・プレッチナーのラベルが貼られています。しかし真贋はわかりません。いずれにしてもマルクノイキルヒェンのオールド楽器であることは間違いありません。ちなみにプレッチナー家のものでも最大で12,000ユーロですから新作楽器よりも安いです。別の作者のものでも値段は変わりません。
時代は古く1750年よりも前かもしれません。

裏板の木材は上等なものが使われています。珍しいですね。
アーチの癖はさっきのものよりもずっと強く平面の写真でも溝が彫られているのが分かるほどです。

形もシュタイナーに似せようという気は感じられません。イタリアの作者以上に個性があります。枠を使わない製法とも言われるので形は自由です。
イタリアの作者は個性があるから値段が高いという理屈は成立しません。

それでもこの前のクロッツラベルの近代の量産品とは違います。
同じ産地でもこちらは20世紀のものです。

スクロールは明らかにオリジナルではありません。渦巻き職人のものを取り付けたようです。

横板も一枚新しいものになっています。ニスの感じがヘッドと同じです。

アーチは溝が大きくはっきりした台地状になっています。

同じ作業手順で作ってもフリーハンドの要素が多いのでかなり個体差が生じます。
オールド楽器のアーチも近代のものも、作業手順があってその影響を受けてしまいます。古い時代ほど機械などは使われていませんから。
その時代に最も効率の良いと考えられていた方法でアーチは作られていて、作る人によってばらつきが生じます。

ストラディバリもデルジェスもアマティやピエトロ・グァルネリなどと共通の手順で作られていて、そこに癖が加わったくらいのことでしょう。初めからフラットな楽器を作るために最適化した近代の楽器とは手順が違います。
ブッフシュテッターやガイゼンホフのようなストラディバリの影響を受けたドイツ語圏の作者でも同様です。

その時代に効率が良いと考えられていた方法で作られた楽器が結果として今「オールドらしい音」になっているのではないかと考えています。それくらい作業には手間暇がかかるのが弦楽器の製造です。

音を良くするためにそうしたのではなく、それしか作り方を知らなかったのです。同様に現代の職人は現代の方法しか知りません。

アマティでも作業手順に縛られるため造形的にも自由にはなっていませんでした。これが現代の工業デザイナーとは違いますし、近代の造形センスに優れた職人の楽器とも違います。どうしてそうなったのか、何に縛られているか考えるのが私には面白いです。

このヴァイオリンの音を試してみると、弓と触れる感触は鋭敏で当たりの反応の良さと強さは感じます。しかし楽器が底から鳴る感じではなく表面的な音に思えます。さっきのものの方が好感触です。
オールドだから何でもかんでも音が良いのではなく、個体差も大きいものです。
後の方の楽器では抑え込まれすぎています。響かないために暗い音に聞こえます。同じ産地でも様々です。

こんな経験から最初の楽器のようなものを見た時には作者名や値段に関わらず「お!良さそう」と思います。当然私の楽器製作にも生かされています。

本人が思っているよりも良いヴァイオリンで小型のアマティ型の楽器に近いものです。

こんな掘り出し物も値段が安ければ誰にも気付かれないままです。


私は弦楽器業界では音について真剣に考えてこなかったのだと思います。商売人の論理と職人の論理がありますが、どちらも現実を真剣に捉えようという気はないようです。

専門家でもそうなので知識を学ぶのではなく、自分の耳で音を聞いてください。
こんにちはガリッポです。

楽器の高騰により時代が変わってきています。才能ある音楽家は楽器を自分で買うのではなく借りることが多くなってきました。
若いプロの音楽家の持ってきたチェロは汚れやエッジの痛みがひどい状態でした。自分の大事な商売道具なら常に手入れを欠かさないのがプロでしょう。しかしそのチェロは財団から借りていて修理の代金は財団が出すのか、就職したオーケストラが出すのか、それとも本人が出すのでしょうか?
財団にしてみれば、貸してあげているのだから使用で生じた費用くらいは自分で払えと考えるでしょう。オーケストラにしても、就職前に生じた費用です。最小限の少なすぎる見積りでも本人は自腹では高すぎると傷んだ楽器をそのまま使い続けています。

自分の楽器ではないという事で扱いも雑になっているようです。新たな問題です。財団はお金、音楽家は音にしか興味がないのでしょう。




さて以前出て来たJ.B.ヴィヨームの廉価版サンタチェチェリアです。廉価版でも1000万円以上にもなります。

汚れがひどいです。

持ち主が思っているよりも状態は深刻です。ちょうど自動車を洗車すれば良いと思っていたところ、塗装工場送りになるレベルです。

弦楽器以外の普通の塗装の耐用年数はせいぜい数十年でしょう。自動車でも表面のクリアー塗装の層が失われると磨いても光沢は出ません。これをやり直すには数十万円かかるそうです。

このヴァイオリンでは作られてから170年経っていますから、磨くだけで良いというわけにはいきません。
汚れたから掃除すれば良いというそんなレベルではありません。

もはやオリジナルのニスは磨いても滑らかな表面にすることはできません。フランスのニスはたいていそうですが、こうなると上からクリアーの塗装を施す必要があります。
この時汚れている上からクリアーニスを塗れば汚れを封じ込めることになります。

汚れを除去しなければいけませんがニスの方も風化しています。ゴシゴシ擦ればニスもボロボロと剥げ落ちてしまいます。

また演奏で手や体が触れる所はニスがはがれて皮脂などの汚れが付着します。過去にニスが失われて木の地肌まで汚れが染み込んでいるともう取り去ることはできません。

過去に補修で塗られたニスで汚れを封じ込められまばらに残っている状態です。

裏板は一件綺麗に見えます。どこが汚れと一体化したニスかわからないです。汚れを取ればニスも無くなります。

したがって汚れを取ってニスが剥げている所の補修をし表面に透明なニスを塗れば良いというわけです。

分厚く透明ニスを塗るメリットはオリジナルのニスがこれ以上剥離することを防ぎ、今後もメンテナンスを簡単にします。新品の楽器と同じように掃除して磨くだけで済みます。

デメリットはいかにもペンキ塗りたてみたいな感じになり作品に手を加えることになって音にも違いが生じます。
出来上がってみたら「何をしてくれたんだ!」と怒るかもしれません。大仕事となり費用も高くなります。

極薄くニスを塗れば見た目には光沢が生じますが、毎回同じ処置が必要になります。

この楽器でも過去に透明なニスが塗られていたようです。それが所々剥げ落ちていたり掃除することで失われたりしました。

つまり自動車を洗車すれば良いという持ち主は思っているのに対して、古い絵画の修復ほどの作業が必要なのです。

特にこの楽器で難しいのはオリジナルのニスが多く残っていることです。これがオールド楽器ならほとんどオリジナルのニスが残っておらず300年の汚れで真っ黒で過去に修理のニスが塗りたくってあります。分厚く塗っても変わりません。

一方現代の楽器でニスが健全な状態なら掃除して磨くだけで済みます。ですから歴史的な高価な楽器では全く違うメンテナンスが必要だという事は理解しなくてはいけません。


補修が終わりました。クリアー塗装は最小限です。

f字孔の辺りにははっきりと汚れがあります。もはやとることはできません。
駒の付近はニスの剥離があり細かい穴が無数にあったため、一つ一つの穴をフランスの楽器専用に作った赤いニスで埋めていきました。

きれいに見える楽器ですがそれでもかなり汚れがついています。新作楽器でニスが剥げたように塗るものとは全く違います。このような古さを人工的に再現するのはとても難しく成功例をを見たことはありません。
アンティーク塗装のほとんどは時代設定が滅茶苦茶です。

逆に言えばこの楽器も170年経ってこう見えるのであって新品の頃は現代の平凡な楽器のようだったと思われます。

どこまできれいに仕上げるかは問題ですが、ニスが剥げたところに新しくニスを塗るとピカピカになります、それ以外のところは光沢が少なくばらつきが出ます。それでも仕事はしたので代金を請求するのが職人としては標準的な仕事です。
全部ピカピカにしようとすると大変です。

ほとんどモーターショーに展示する車両のレベルです。
どこまでやるべきなのかが難しいですね。私のような人は常識が分からなくてどこまでもやってしまいます。商売としては全く成立しません。山奥にでもこもって「お金なんていくらかかってもいい」という顧客だけを相手にしなければやっていけません。

ヘッド部も以前はこうだったのが

赤く塗ったわけではないのでカメラの反応の仕方が変わったのです。
渦巻の中心を見てください、すべて手垢です。

特徴を見てみるといかにもフランスという感じです。その中でもストラディバリに忠実にというよりは丸みが綺麗になっています。リュポーなどの前の世代とも違います。
イタリアのモダン楽器でもストラディバリに忠実ではないので「個性がある」と呼ばれるならこれも個性があります。

縁が黒く塗ってあるのはもともとストラディバリがそうだったからです。

正面もフランスらしいカチッとした仕事です。こちらもストラディバリの特徴を追求したものではないですね。

いかにもフランスという感じです。

渦巻の彫り方には特別フランスの特徴は感じません。

アーチは当然ながら平らなものです。


平らなアーチでもちゃんと立体的に形が作られています。アーチの雰囲気もフランスの楽器を見分けるポイントですし、フランス以外の楽器でもどの程度フランスの影響を受けているかが分かります。

手が触れる部分はニスがはがれやすい所です。木まで汚れが染み込んでいます。

オールド楽器とは印象が異なり近代の楽器であることが明かです。

板の厚みは実物や資料に出ているヴィヨームのようにリュポーなど以来の典型的な板の厚みではなくやや厚めになっています。1849年の時点で厚めの板のものが作られていたというのが興味深いです。

オブリガートを張ってみると調弦のためにはじいても鈍い感じでパーンと鳴る感じではありません。
弓で弾いてみると板の厚みとも一致する明るめの音で柔らかさがあり刺激的な鋭い音はありません。高音も柔らかく別のヴィヨームとは正反対ですし、私のフランスの楽器のイメージとも違います。そもそもフランスの音なんて無いんでしょう。いわゆるビオラのような音という低音に寄ったものではありません。

翌日再び試すと元気よく強く感じられました。柔らかさは後退しましたが依然として上品な音です。パーンと飛び抜けて鳴る感じではありませんがうまい人が弾けば機能するだろうなという感じです。明るい音で20世紀のもののようですが底の深さがあるようです。新作楽器のような鳴らなさではもちろんなく、刺激的な音でないにもかかわらず音は出やすくなっています。

音に極端に偏ったバランスや個性は無くとても優等生的な楽器だと思います。以前出て来たフランツ・ガイゼンホフとは全然音が違います。ずっと色気と深みがありました。ガイゼンホフもストラディバリを模して作られた初期のモダン楽器とも言えるものですが、音ははるかにオールドっぽいです。こちらのヴィヨームは現代のものに近いです。
値段ではニコラス・ヴィヨーム作と同等と考えられます。ガイゼンホフよりもやや高いですがどちらも1000万円ちょっとといったところです。
近い値段の二つの楽器ですが音は全然違います。金額の数字で音は表せません。
ガイゼンホフには悪魔的なヴァイオリンの魅力が感じられます、ヴィヨームは整った普通の音です。
時代はガイゼンホフの方が40年くらい古いものですが、このヴィヨームが40年後にそんな音になるとは思えません。ガイゼンホフが40年前に現代的な音ではなかったことでしょう。

やはりオールドとモダンでは見た目にも作風に違いがあり、それは音にも表れて来るようです。40年は作風の変化の差でしょう。国よりも時代の変化の方が大きいと思います。

オーストリアとフランスのモダン楽器の開発競争ではフランスが勝ってその後のすべてのヴァイオリンの起源となりました。しかしこの2台を比べる限りでは勝敗は無く好みの問題でしかありません。途絶えた流派の方が珍しいのは言うまでもありません。

こんにちはガリッポです。


ラーセンの新しいチェロ弦の情報です。まだ詳しいことはよくわかりませんが、代理店からの宣伝で耐久性も改善しているようです。

お値段はこちらの定価が460ユーロでイルカノーネの432ユーロを超えます。

いろいろな楽器の仕事に取り掛かったところですがなにしろ音が出るのはいつも最後の段階です。

これ以上何も伝えることがありません。


音の不思議な話です。
演奏はおろか音楽をゆっくり聴く時間さえありません。作業しながら音楽をかけていても初めしか聞いていません。気が付くと終わっています。

音楽を聴くメディアの環境が様々に変化してきましたが、私はCDを買って聞くことをしています。CDは音源の種類が多く若い頃には入手できなかったものでもネットで購入ができます。
配信に比べるとデータの圧縮がありません。
配信で試聴し希望のCDを探して購入しディスクをプレイヤーにセットして聞くという一連の行為によって音楽を大事に思うことができます。昔はお小遣いで買ったCDを何度も何度も聞いたものです。

それでも不満点があって私のオーディオシステムから出る音がゴリゴリと硬質でカシャカシャと耳障りなところです。とても心が休まるものではありません。

様々な工夫によってだいぶましにはなってきました。CDによっては全く不満がありませんが、CDによってはひどく耳障りで不自然です。

これは録音の問題でもあります。録音する人や機材によって音が全然違うというわけです。録音スタジオのモニタースピーカーで調整した音を聞いて音を決めているのでしょうけども、こうもCDによってバラバラだと困ります。

基本的にオーディオ機器は録音された内容をより忠実に再生できることを高性能と言うでしょう。こうなると、変わった音で録音されたものはより変わった音に聞こえるのが優れたオーディオ製品という事になってしまいます。このため高級オーディオほど音に不満が生じ、チープなものの方が気にならなくて済むわけです。

クラシックなら同じ曲を多くの演奏家が録音しているのでいくつも買って好きな音のものを聞けば良く、自分にとっての「名盤」というわけです。
しかしマイナーな作品になるとそうも行きません。そのCDが世界で唯一の録音だったりします。

特にひどいのは古楽専門レーベルです。古楽器による録音は1990年頃から増えていきます。私は目の前でバロック楽器の音を聞くこともありますし、由緒ある古い教会や建物で聞いたこともあります。これがCDで聞くものと全く違うのです。
一つは古楽器は音が小さく、マイクで収録するのが難しいからというのが理由かもしれません。マイクから遠ざかると雑音が多くなるため、マイクを近づけると歴史的な建物の優雅な響きが記録されません。
チェンバロの音でも実際には軽やかに響くのに対して録音ではガチャガチャと金属的な音になっています。

ところが同じ古楽専門レーベルでモダン楽器の演奏を録音したCDでも同じような音になっています。
こうなると耳で聞いて敢えてそのような音にしていることになります。
録音エンジニアと私の耳では全く違うように聞こえているわけです。音とはこのようなものです。人によって聞こえ方が全然違うのです。


一つには「古楽器による演奏」を実感できるように通常のレーベルとは音を変えたという事も考えられます。普通なら古楽のCDは販売数もわずかですから、商業的にも功績をあげた(私の耳には変な音)の録音技術者が出世して、師弟関係のように尊敬されたのでしょうか。職人の世界がこのような感じですからそこから想像したまでで、実際は分かりません。

この時かつてのバロック音楽のイメージを一新し、ヴィヴァルディの四季ではかつてのイ・ムジチのような優雅で上品なものから、イル・ジャルディーノ・アルモニコのように激しくダイナミックなものに変わったのです。日本語ならビバルディと表記していたころとヴィヴァルディになった時代の違いです。

音も硬質でゴリゴリとした金属のような音ですが、実際にはそんな音ではありません。
確かに裸のガット弦は金属巻やナイロン弦に比べると刺激的な音が多く含まれています、しかし古い教会などの後ろの席で聞けばそんなことはありませんし、バロック楽器でも上等なものはモダン仕様の楽器とバランスが変わりません。

特に難しいのは楽器の数が多くなった時でオーケストラの合奏のケースです。ソロ演奏であれば一つの楽器に集中して楽器の持っている様々な音を豊かな情報量で記録できますがオーケストラとなると、一つ一つの楽器は細い線のような音になります。高音であれば耳に突き刺さります。

このような問題にオーディオ業界は無関心でしょう、人々が聞く音楽ジャンルは様々で、ポップミュージックが現在では主流になっているからです。
このようなジャンルではノリが良く躍動感が求められます。つまりオーディオ製品は躍動的なほど優れているという事になり、古楽の録音では「too much(過剰)」になってしまいます。

また他の製品と比べて相対的に高音質という概念も、よりくっきりはっきり聞こえるほうが優れていることになります。実際の音に近いのではなく、他の機器よりも優れた音というものです。

ヴァイオリンのオールドの名器であれば、ホール全体に音が響き渡り、音がどこから聞こえて来るかもわからなくなります。一方チープなものは細い音ではるかかなたのステージ上から聞こえます。
これがオーディオになるとチープな楽器のような音の方が高音質となってしまうのです。当然オーディオマニアがヴァイオリンの名器の音なんて知りませんから。

実際にホールで聞けばそれぞれの楽器の音はぐちゃぐちゃに混ざり溶けあって分厚いハーモニーとなります。それに対してオーディオ的には一つ一つ音が肉を失い骨だけになってバラバラに聞こえるのをS/N比が良いとか高解像度とか定位が良いと言って評価します。

そもそも多くのマニアは自分の理想とする音などは無く高いものを買ったり、理屈を信じて変化した音を「良い音」と評価するようです。

このためオーディオマニアの間で評判の機材やグッズ、音質改善の手法はあてにならないのです。
一方市場ではJBLやタンノイと言った名門ブランドの「名器」を音を聞かずに買う人が多くいます。ビンテージ市場も値上がりしていますが、粗大ごみのステレオのような音がするかもしれません。

このようなオーディオの用語は録音の世界でも使われます。今ではコンピュータを使って作曲者が自分で録音することもできます。どこの世界にもいる理解してないのに知識をひけらかす人に気をつけましょう。

ヴァイオリンなど弦楽器の方がオーディオ界よりも人口が少なく音についての記述や専門用語などの共通理解や情報が不足していますが、音というのがどういうものなのかいくらかわかったでしょうか?


ノイズという言葉があります。
ノイズとは日本語にすると騒音のことです。騒音ですから、やかましいとか不快に感じるものがノイズです。例えば小鳥のさえずりが心地良いと思う人にとってはノイズではありませんが不快に思う人にとってはノイズです。
電車の音も普通は騒音ですが、鉄道マニアが喜んで聞いていますし、昔はオーディオマニアが機関車の音を録音したものです。

ヴァイオリンなら不要と思う音がノイズになります。これだと人によって違いますね。音量がある安い楽器の音はノイズで、自分がひいきにしている楽器の音はノイズが少ないので優れいてると都合の良いように解釈できます。しかし楽器である以上音程とは関係ない音をノイズと考えるのが妥当でしょう。

録音であれば、音楽の音以外の音がノイズとなります。マイクの性能上余計な音がどうしても入ってしまうのです。それを減らすためにはマイクを楽器に接近させる必要があります、そうなるとホールや教会で聞く音とは違ってしまうのです。

FMラジオやカセットテープではあからさまにシーとかザーといった雑音が聞こえました。
それがデジタルになるとあからさまには聞こえなくなりました。それでノイズの問題は無くなったのでしょうか?

それに対して録音された音波の波形に乱れが起きればそれがノイズだというわけです。様々な要因によって未だにノイズたっぷりの音楽を聴いているのが現実です。


そのノイズは再生機器から生じるのではなくそもそもオーディオ機器に送られてくる電力に起因しているという考えがあります。家庭にもたらされる交流電流は50や60Hzの波でプラスとマイナスが入れ替わるものです。この波形に乱れが生じているとノイズが発生しているという事になります。
このようなノイズは精密機器や測定機器の誤作動や誤差を生み出すものと考えられています。

いよいよ普通の思考では理解できない世界になってきました。もし電気の専門教育を受けた人ならそんなことがオーディオの音に影響するわけがないと考えるかもしれません。こんなことはオカルトであるという意見もあります。

試しにやってみることができます。
オーディオで音楽を再生中に家じゅうの他の電気製品のコンセントを抜いてみることです。これによって音が良くなったと感じられたのならそれがノイズの発生源です。
私がやってみたところ最も効果が大きかったのはインターネットのモデムとw-lanルーターが一体になったもののコンセントを抜いた時です。意外にも冷蔵庫は違いが判りませんでした。

ルーターやパソコンを接続しているコンセントは、同じ部屋でもオーディオとは別の壁についているコンセントから取っています。同じコンセントから取ればさらに影響が強いでしょう。

したがってオーディオ以外の電気製品のコンセントを抜けば音が良くなるというわけです、しかしそれでは生活が不便です。

そこでこんな製品があります。

これはアメリカのGreen Waveというメーカーの電源ノイズフィルターというもので、空いたコンセントに刺すとノイズを除去できるというのです。
日本では正式には発売されていませんが個人輸入して使っている人がいます。これはヨーロッパ仕様で電圧が違います。

Youtubeでも市販の測定器を使ってこの製品の効果を試した動画があります。数値が激減しているのが分かります。何かしら効果があるようですが、疑いだすと測定器の方も疑わしくなってきます。

実際にパソコンやモデムルーターのつながっている壁のコンセントに差し込んでみました。

残響音の方に大きな影響を感じました。響きがクリアーになり、録音の内容をより忠実に再現しているように感じられました。音量がわずかに小さく感じ躍動感がややおとなしくなり古楽レーベルのひどく耳障りな金属音がマイルドにもなりました。

録音内容を忠実に再生するという事は高音質ではありますが、ヘンテコな録音ではよりヘンテコに聞こえます。
躍動感は私の機器の場合にはありすぎたので問題ありません。耳障りな音がマイルドになったのは私にとって素晴らしい成果です。
したがって抱えていた問題によっては音が悪くなったと感じる人もいるでしょう。

もしこれが電源ノイズ削減による効果だとしたら、人やCDによってはノイズがあった方が望ましく、無い方が望ましいことも起き得てしまいます。

しかしオーディオマニアという人たちはノイズを悪だと信じている宗教なので客観的に受け止めることは難しいでしょう。自分にとって都合の良いような解釈をしてしまいます。

ただし、私にとっては電源ノイズが耳障りな音の原因だという仮説を着想しました。これは面白い視点です。弦楽器でも何かのヒントです。つまり音波の波形の乱れがおきること、音楽とは関係の無い音が原因ではないかと考えられます。逆に言うとヴァイオリン職人はこんなこともわかっていませんから、自由自在に柔らかい音や鋭い音の楽器を作り分けることができないという事です。


ちなみにこの製品はオーディオ用に作られているわけではありません。他に家庭で必要性が生じることは無いでしょう。性能の優れた機器だとしても売る相手がいません。
そこで目をつけられたのが何か電磁波を嫌う思想の人たちです。頭にアルミホイルを巻くような人たちのことで、実際に電磁波を遮断する帽子などが販売されています。そのようなところでこの機器も販売されているようです。
これを使っていますが健康状態が良くなったことは確認できません。
そのようなオカルトめいた業者によって販売されているので怪しげな製品という印象を受けます。



さらに別のものも試してみました。
これも同じように空いたコンセントに刺すものですが、こちらはifiオーディオというイギリスのメーカーのiPurifier ACというもので現在ではサイレントパワーというブランドで販売されています。
もともとはDACやヘッドフォンアンプなど同社製品のアクセサリーグッズとして販売されていたものを広く一般に販売するためでしょう。
ヨーロッパでは電圧は同じでも国によってプラグの形が異なります。イギリスではヨーロッパ大陸のプラグにアダプターを付けて使用します。このためこれはメーカー本国向けの製品となります。

日本でも2017年に発売され評判になった後、異常な高温に発熱するとか、測定しても数値が減らないまたは悪化すると動画が拡散されました。
一方でメーカーは測定法の問題を指摘したり、より専門的な機関によっては効果が計測されたとの情報もあります。

どちらが正しいのかわかりません。

メーカー(代理店)側の説明については次のリンクを参照してください。
https://ifi-audio.jp/acc/ipurifier_ac.html
読んでも私はさっぱり意味がわかりません。もし言ってることが理にかなってるとしても、それが本当なのか嘘なのかもわかりません。全部信じていたら財産を失ってしまいます。

自作の電源ボックスに装着してみました。オーディオ機器は右から真空管プリアンプ、真空管パワーアンプ、CDプレーヤーの順でこちらの電源ケーブルも電線とプラグを買って作った自作です。電線はスープラというスウェーデンのメーカーです。
プラグや電源ボックスのコンセントは中国製のもので日本製品のコピー商品です。日本製品はこちらでは高すぎますし、日本製のキッチリカッチリした音よりもアバウトな音を期待して中国製にしました。それでも完成品のケーブルや電源タップを買うよりもプラグやコンセントのグレードが高くなります。市販品はアルミニウムの筐体になっていますが、自作ボックスはシナの無垢材を使っています。
緑色のランプが二つ付いています。一つはコンセントの向きが間違っているとオレンジに点灯します。その場合は半回転させてコンセントに差し込みます。もう一つはアースが接続されているかどうかです。ヨーロッパのコンセントはアースが来ていますので緑色です。電圧が220Ⅴ以上あるので標準装備です。緑のランプがついている時に正常に作動しているとのことです。

発熱はわずかに暖かくなっているくらいで、携帯電話の充電器以下です。

音についてはつけてすぐはゴリゴリと金属的な音がしました。翌日には感じなくなり2週間くらいすると劇的に音が柔らかくなったように感じました。
アコースティックの楽器やスピーカーでは使い込むことで音が良くなるという事は理解できますが、電気機器でも同様のことが起きるとされています。原因はわかりません。

効果を早めるために、音楽を聴かない時間は冷蔵庫の差し込まれているコンセントに取り付けていました。

今、付けたり外したりしてテストすると、外しても音がひどく悪いという事はありません。Green Waveが効いていることもあります。
しかしiPurifier ACを装着してよくよく聞き続けていると、余韻(残響)が長くそれでいてクリアーです。まさにコンサートホールのような音の響き方です。空気は暖かくリラックスしてウトウトと居眠りさえできます。私のスピーカーは躍動感がありすぎて実際にコンサートに行くと退屈な演奏にがっかりしたものでした。

金属的な音は豊かな響きの奥に隠れ一つの音の要素になっています。音のアタックと残響のタイミングがうまく合うようになりました。これも不思議です。

ゴリゴリした金属音は減少し古楽レーベルの録音でも音楽に専念できるようになりました。
古いスチール弦じゃないかと思うような古楽器によるタルティーニのヴァイオリンコンチェルトも音楽を楽しめるようになりました。大変美しい曲なので今度はコンチェルトの全曲を買おうかと思います。

この製品では本当にノイズが除去されているのかはわかりません。オーディオ用に作られているものの多くは同様でユーザーの測定結果には効果が表れずオカルトと考える人もいます。

一方で聴感で音をチューニングしてあると考えられます。センスの問題もありますが、私にとってはピッタリのものでした。
真逆の好みや悩みを抱えている人がいてもおかしくありません、人によって評価は正反対になるかもしれません。

それでも音声信号ではないのでサラウンドやエフェクターのように音を人工的に加工することはできるとは思えません。なぜかわからないけども「結果としての音」という事になるでしょう。

感性が合うメーカーはお気に入りとなります。評判で決まるわけではありません。
自作電源タップやケーブルとの組み合わせでより完成されたとも言えます。そのほか環境によって効果には差があると思われます。

ちなみに他のオーディオ機器のコンセントを刺す順番を変えると音が変わります。パワーアンプを一番右側にすると最もダイナミックで荒々しい音になります。一番左にすると穏やかになりますが完全に金属的な音が無くなるわけではないので真ん中にしています。

そもそもがDACやヘッドフォンアンプ用に作られているので大きな電力のアンプやスピーカーで聞くのは用途が違うかもしれません。

音楽ジャンルやCDによっては必要がないのでスイッチを付けようかと思っています。

このような効果はオーディオ機器だけでなく録音機器でも同様のようです、録音したときも電源由来のノイズも一緒に記録されてしまうそうです。
デジタルでもそうなの?ってなると理屈では理解できませんね。
録音機器やPAや楽器用の音響機器、電子楽器用など楽器業界でもノイズフィルター内臓の電源タップがあります。

音というのはこんなもので理屈なんてものははるかに超えています。初心者のマニアはマニュアルを経典のように信じ信仰を持ってしまいます。


弦楽器に関するグッズはこれらに比べるとはるかに市場規模が小さく投資額も少ないものです、研究設備すらなく「カーボン製は軽いから音が良い」くらいのレベルです。
高度になればなるほどケースバイケースとなることでしょう。


ちなみにこのようなオーディオのグッズは日本の方が盛んで音にこだわりが強くヨーロッパではそれほどではありません。ヨーロッパの人は見た目に高級感があると良いものを買ったと満足する人が多いようで、音について細かく分析するような人は少ないようです。気にすればするほど気になりますから。
同じようなことがヨーロッパの弦楽器職人やユーザーの考え方として理解してもらいたいものです。

こんなに難しい世界のなので「音響工学に通じている職人が作っているから音が良い」なんて考えるのは単純すぎます。肩書によるイメージだけの話です。音は実際に耳で聞いてみないとわかりません。



その後二つのノイズフィルターの併用是非を比較してみました。
iPurifier ACのみを付ける場合とつけない場合で試すとつけたほうが上記のように望ましい結果が得られます。
iPurifier ACとGreenwaveの両方つけるとiPurifier ACのみに比べると響きが少なく引き締まってタイトな音になりました。これがCDによって合う場合と合わない場合があります。
そこでスイッチを取り付けてCDによって切り替えられるようにしようと思います。

こうなるとノイズがあるかないかではなく、単になぜかわからないが音が変わりケースによって合う合わないということになります。

もはやノイズ云々の理屈は関係ありません。

録音の良いCDであればiPurifier ACのみの使用で最もコンサートホールのような豊かな響きが得られます。この場合測定機による結果の悪かったiPurifier ACが機能し、良い測定結果が得られたGreenwaveが劣ることになります。

これが音というものです。


スイッチ付きのコンセントアダプターを付けました。自作コンセントには99.99%銅に金メッキを施した一つ4000円ほどのものを使っているのにこのアダプターは数百円のものです。LEDもついて悪影響が心配されましたがむしろ好ましいソフトフォーカスで低音の量感も増しました。もしかしたら数百円の謎合金のコンセントの方が音が良いかもしれません。

さらに併用することを前提にスピーカーの位置を調整しました。左右の間隔を近づけると広がり感は無くなるものの音に厚みが出ます。電源対策の結果その方がバランスが良く中低音の厚くなり暖かみもあります。13cm間隔を狭め後ろの壁から2cm離すとバランスがよくなったようです。対策の前はそれをやってもひどく耳障りな高音が目立っていました。

スイッチの切り替えで簡単にテストができますがもともと音が良い録音ではノイズフィルターは変化も薄く必要性も感じません。
こんにちはガリッポです。

1800年に近づくとストラディバリが理想のヴァイオリンであるという考えが広まりストラディバリモデルの製作法がマニュアル化していきました。
同じマニュアルに従って作っているので輪郭の形だけを変えたガルネリモデルでも音に違いがありません。

一方同じ寸法で作っても作者によってなぜかわからない音の違いがあります。このためどちらのモデルで作ってもその人の音になります。


19世紀以降他にはアマティやマジーニのモデルで作られました。これも寸法に差がなければ音の特徴は分からないでしょう。

さらにミルクールやマルクノイキルヒェンの量産品ではシュタイナーモデルも作られました。

マルクノイキルヒェンの戦前のカタログ上ではベルゴンツィ、ルジェリ、シュヴァイツァーなど様々な名前があります。現在でもそれらの偽造ラベルが貼られたものを見ることがあります。
これらになるともはや普通の量産品にラベルを貼っただけで形なども全く関係ありません。これらは工場ですでにラベルを貼って作られたものです。

他に多いのは、販売者が様々な意図で偽造ラベルを貼ったものです。

どのモデルでもオリジナルのものとはかけ離れており音の特徴などを期待することはできません。

唯一独特なのはシュタイナーモデルです。量産品のみ独特のシュタイナーモデルの製品が作られました。
ストラディバリやシュタイナーの名前の付いた古い楽器が倉庫から出てくるいつものパターンです。

イタリアの楽器よりはるかに割安だとしてもシュタイナーでももちろん高価です。一方でマイナーなドイツのオールド楽器には安いものがあることを紹介してきました。とはいえ新作楽器と同じくらいの値段です。

シュタイナーモデルの量産品で楽しむことはできないでしょうか?ギターであれば数十万円のものを何台も所有するコレクターはいます。

これはヨーゼフ・クロッツのラベルがついたヴァイオリンです。

シュタイナーモデルと同じように作られた量産品でラベルはクロッツの名前を貼ったものです。
姿かたちにはクロッツの特徴は感じられません。幅の狭い細いモデルです。

ニスはラッカーで人工的なアンティーク塗装があるのですぐにマルクノイキルヒェンの近代のものだと分かります。我々にはドイツのオールド楽器とは全く似ても似つかないものです。

ネック部分だけを専門に作る職人がいましたが、特にクロッツ用に作ったのではなくオールドの特徴のないただのスクロールです。

シュタイナー型の量産品の最大の特徴はアーチです。表板を見ると台地のように頂上が平らになっています。

指板がぶつかりそうです。

これはストラドモデルの量産品と共通の製法で作られています。このため本当のオールド楽器とは全く違うアーチになっています。

アーチの作り方を模式図で示すとマルクノイキルヒェンの量産品は上のようです。板を左右接ぎ合わせ輪郭を切り抜き、上を平らにしてアーチの高さを出します。次に周辺を薄くしてエッジの厚みを出します。間をつなぐと今回のようなアーチの出来上がりです。
一方ヴィドハルムのアーチではおそらく下のようになっていると思われます。まずこんもりと膨らみを作った後で周辺の厚みを出して溝を彫ります。

マルクノイキルヒェンの量産品では同じ方法でストラドモデルも作っているはずです。

点線のようにより多く削るだけの違いです。どれくらい削るかは感覚によるものでばらつきがあります。攻め切れてないものや行き過ぎているものがあります。これは立体造形感覚によるものなので、個人の職人でも才能が現れます。イタリアの有名な作者でも攻め切れていない(才能が無い)人がいます、チェロでは手抜きも見られます。見てわかるかどうかも才能に依存しますから、専門家でも違いに気付かない人が多いでしょう。才能があるのは少数派の意見なので値段などに反映されるわけがありません。

オールドの時代の作り方を研究しているわけもありませんし、モデルによって違う製法をするはずもありません。

一方逆に考えるとストラディバリはアマティなどと同じ作り方でアーチを作っていることでしょう。デルジェスもフィリウス・アンドレアなどと同じ作り方でしょう。ストラディバリは近代のストラディバリモデルの作り方をしていないというわけです。

ともかくこのように単に攻めていないアーチになっているだけでオールドのドイツのアーチとは全く別物です。

このヴァイオリンは物置から出て来たガラクタとして社長が購入しましたが、表板の魂柱の所に割れ傷があることに気付かず高すぎる値段で買ってしまったものです。修理代を差し引くと価値はほぼなしですから。
買ってしまったものはしょうがないので修理することに。

量産品なのでエッジ付近に削り残しがあります。写真はそれを私がノミで削ったところです。中央も板が厚すぎます。魂柱パッチの修理をするならその前に板を削ってしまいます。


この部分が削り残しです。
本当のオールド楽器では外側の溝が深く彫られているのに対して、マルクノイキルヒェンの量産品では溝が浅いので余計に厚くなります。

一方ここは削りすぎています。
横板との接着面が無くなっています。
周辺に削り残しができるのはこうなることを恐れているからです。
厚みを出す作業の初めの段階ではザクザクと削っていき最後には精密な加工が必要となりますが手作業でコストを下げるためには急いで作る必要がありました。

センターの合わせ目がちゃんとついていないので補強しました。魂柱パッチを取り付けバスバーも新しくしました。割れもいくつかありました。外から見える割れ傷はダミーのイミテーションです。

指板も交換が必要だったので取り外すとついでに裏板も薄くしました。板の厚みはオールドのドイツのスタイルをイメージしました。

完璧に量産の欠陥か所を直しました。
ネックを仕上げ直し、ニスの補修、ペグ、駒、魂柱、テールピース、弦を交換し完璧な状態です。

これでドイツのオールド楽器のような音になるでしょうか?

出来上がって弾いてみると・・・
うーん、なんだかイメージと違います。
窮屈でスケールが小さく3/4のヴァイオリンのようです。音は好みの問題なので悪いとは言えません。音ははっきりして分かりやすいものなので好きな人がいるかもしれません。

二日後に再び弾いてみるとやはりスケールの小さいこじんまりした感じの鳴り方です。音自体は板を薄くした効果か低音に深みもありツボにはまればボワッと鳴り出します。高音は柔らかく量産品や現代の楽器では珍しいものです。

やはりオールドの名器とは違うようです、私としては最善を尽くしたと言えるでしょう。


こんにちはガリッポです。


私の所ではガソリンの値段がさらに上がっています。今では1Lが400円を軽く超えています(ハイオクに相当)。レギュラーに相当するものでも400円ほどです。ユーロ高で輸入価格は円安の日本より安いはずですが・・・。政府は何の対策もしないのです、いかに日本は国民や消費者の顔色を窺っているかという事です。ますますモノの値段がわけがわからなくなってきました。


さてプロのヴァイオリン奏者になるためにはどれくらいの値段の楽器を買うべきでしょうか?

先日プロのオーケストラ奏者の楽器のメンテナンスをしました。見た感じで100年くらい前のものでラベルにはアントニウス・ストラディバリウスと書かれていました。おそらくマルクノイキルヒェンの上級品でしょう。値段はブログを始めた当初なら日本よりずっと高い消費税を入れても60万円といったところでした。現在の為替とインフレの状況を考えると最大100万円程度と考えられます。誰が作ったかもわかりません。

上等な木材を使用し軽いアンティーク塗装が施されています。ニスも安価なラッカーではなく上等なものが使われていて、作りも20世紀の教科書通りの「ストラディバリモデル」です。したがって板は厚めです。

弾いてみると明るく反応が良く音が出やすい感じがします。高音にも鋭さはありません。

このようなごく普通の楽器をプロの演奏者が使い込むことで音が良くなるという事です。鋭い音がしないという事はもともとは大人しい地味な音の楽器だったろうと考えられます。100年経ったそれを弾きこんだというわけです。音の性格は個体差のようなもので、グレードが高いので刺激的な音が少ないというわけでもなく産地とも関係がありません。

これが弦楽器の真実です。
質問の答えとしては60~100万円で十分という事です。
プロと言っても業務は様々ですから、職種によって求められる音も違うかもしれません。しかし世界中から求職者が集まってくるのでそのオーケストラに入るのは簡単なことではありません。

同じ時代のイタリアのものなら値段はその10倍はするでしょう。しかし職人が見ると作りに違いはないし音にも違いがなくてもおかしくありません。マルクノイキルヒェンの100万円のものとイタリアの1000万円のもので私はモノとして同格だと考えていますが、私の考えは生ぬるく現実に楽器を目の前にするとイタリアの楽器の音がはるかにひどいことがよくあります。
楽器店の営業マンの語ることは工業技術としてのモノそのものとしてではなく商業上の「物語」です。

普通の楽器を手抜きなく作った時点で職人としてすべきことは十分に果たしています。後は趣味趣向の問題になるだけです。私がこだわっているようなこともプロの演奏者は全く気にしてないものです。

弦楽器はこのようなものなので楽器に夢中になるのはバカげているというわけです。

同じくらいのグレードのチェロだと2万ユーロはします。現在なら360万円にもなります。最近話に出て来た若いプロのチェロ奏者もそれくらいのものを使っています。ヴァイオリンに比べて割高なのは、作られた数がずっと少ない上にこの価格帯のものが初心者用以上を求める学生などにもっとも求められているからです。それで完全に満足しているという事でもないでしょうが少なくともプロになることはできるレベルです。チェロでは個体差で好きな音のものを選べるほど店頭にありません。


現実に目を覚ます価値のある話でした。これ以上の話は蛇足でしかありません。



これでおしまいというわけにもいかないので、再びピラストロ社の新製品エヴァ・ピラッツィ・ネオのヴァイオリン弦を試してみました。2010年に私が作ったヴァイオリンです。

同社のオブリガートに比べると一段階音量が増す感じがします。それでいて荒々しい音は無く音色も明るくなくニュートラルだと思います


無理やり音を作ろうという感じではなく大人っぽい真っ当なものに思えます。楽器との相性に特別難しい感じもしません。バランスよくきれいな音で音量もあるというそんな感じですかね。
裸のガット弦に金属を巻いて音量と音の滑らかさを増して高級ガット弦になりました。さらに音量と滑らかさを増して同じ方向性でさらに進化したというわけです。


最近の話はこんなところです。
イースターで連休でした。
毎日モクソンバイスを作る作業をしていました。

こんなものを作るのでもなかなか考えることが多く難しいものです。一般的には低学歴の人がつくことが多いですが職人もバカではできません。

肝となるメカニズムです。
通常モクソンバイスはネジのシャフトの先端が手前に突き出る形になって邪魔なので先端が奥に収納される形にしました。

これもナットの軸がずれていると、シャフトのネジが回らなくなってしまいます。取り付ける部分部分で正確な加工や基準面に対して垂直を出す必要があります。ヴァイオリン職人であればたやすいことですが・・・。

目論見通り厚みにテーパーのついた木材でもはさむことができます。

表側はこんな感じです。

ベンチドッグを入れる穴をあける位置を決めます。

これだけの穴をあけるのも結構大変な作業です。この木材がブナというとても硬い木材だからです。木ネジを打つにしても下穴が十分開いてないとネジが入っていきません。
まっすぐに穴をあけたつもりでも木に負けて斜めに穴が開いてしまうのです。
貫通するときに反対側が割れてしまうのでそれも対策が必要でした。
ドリルの長さも足りません。再び分解して穴の深さを増す必要もありました。

縦でも横でも使えるようになっています。ちょうど形を切り出す前のヴァイオリンやビオラの板の大きさになっているのがポイントです。
ポータブルワークベンチというものは市販されていますが、微妙に大きさが合わないのです。
それらには万力のハンドルが真ん中に一つだけついています。それだと同じ厚みや幅の板しかはさむことができません。ヴァイオリンに使うものは木の上の方が狭くなっていることが多いです。また、木目の線を縦にまっすぐに持って行くと上か下の幅が狭くなります。

ハンドルが真ん中に一つあるとそれのシャフトのネジで真ん中に縦に長い物を挟むことができません。それがモクソンバイスのそもそもの必要性です。

かなりのテーパーがつけられるのでネックや指板にも対応できます。

何より緊張するのは失敗すると取り返しがつかないことです。1点ものですからこれを試作品と割り切って失敗するわけにはいきません。

だいぶ形が出来上がってきましたがちょっとした問題も発生しました。
万力として使用するためにハンドルが必要です。アマゾンで発注していたら間違った部品が届きました。中国からの直送です。こんなところが中国クオリティです。品物がだいたい似ていればちょっとくらい違ってもいいだろうという感じです。しかし部品というのは適合しないものはゴミでしかありません。
中国の洗礼を受けました。

懲りずにハンドルの部品を注文したので半月後には結果が出ます。今度も間違った部品が届くかもしれません。

祝日にも仕事をしているのは頭がおかしいのですがこんなのは連休でもないとできません。

これが完成すれば楽器作りもより楽しくなることでしょう。
まだ細かい問題がありますし、細かい作業も残っています。
いずれにしてもハンドルが来ないことには完成できないので焦っても仕方がありません。

こんな事で一日があっという間にすぎてしまいました。
家で動画などを見て過ごすよりはずっと有意義だったと思います。

イースター恒例の餃子も作りました。イースターに餃子を食べる習慣は私くらいでしょうが、普段はなかなか時間がありません。
こんにちはガリッポです。

2024年の11月にA・ガリアーノのヴァイオリンの修理を終えた事を紹介しました。
https://ameblo.jp/idealtone/entry-12876219091.html
あれから一年と数か月が立ちました。

メンテナンスをすることになりました。
楽器には大きな損傷や異常はなくニスをクリーニングし簡単な補修を行いました。
自分で弾いてみてもかなり音は変わったように感じました。
ダイレクトで乾いた感じで振動がはっきり感じられ音になって跳ね返ってくる感じです。高いアーチらしく思います。
高音は相変わらず柔らかいです。
持ち主のコンサートマスターが弾いてもだいぶ音が変わっています。修理前は柔らかいふにゃふにゃの音だったのが元気よく乾いた音がします。修理直後はウェットな感じでした。
修理前の印象はとても柔らかい音の楽器であり、今は強さがあります。違う性格になりました。それにしても一年の弾きこみの効果がすごいです。

状態の悪いオールド楽器と比べればこれが明るい音と言えるでしょう。そのことと新品の楽器の明るさは同じことではありません。新品でも鳴らなければ明るい音にはなりません。

こうなると、店頭に眠っているものを試奏して自分の好みの楽器を選ぶというのとは違います。
縁があってその楽器を手に入れた後で、ビリつきが発生し国外での演奏活動などに不安があったため修理をしましたが、今では音もかなり変わってきました。
また試奏して楽器を選ぶ時には、今使っているものと近い楽器ほど弾きやすいのは当然です。したがって楽器を選ぶというのは運命のようなものなのかもしれません。

私が何か意図を持って楽器を作っても弾く人は全く違う観点で感じ取り、結果として出てくる音について傾向を語ることも難しいです。

弦楽器では全く同じ音を維持することも不可能です。
音は何かをすれば必ず変わりますが、それを良いか悪いかは主観の問題です。音が変わらない方が珍しいですが、良いとか悪いとか結論付けるのは難しいです。


Moxon Viseというものを作っています。

ブナの集成材を使います。手動のノコギリでも十分正確に切れます。

DIYの初心者ではこうはいかないでしょう。
モクソンバイスの部品は市販されています。例えば
https://www.leevalley.com/en-ca/shop/tools/workshop/workbenches/vises/70360-benchcrafted-moxon-vise-hardware
今なら日本円にしたら4万円にもなります。このようなメーカーのものは海外のハイエンド木工マニアという趣味の世界です。手動工具にこだわり電動工具を多用する普通の木工とは違います。原始生活のキャンプみたいな趣味です。このように作られたものを売って職業にするには相当裕福な顧客が必要です。ヴァイオリン職人と同じで修理の仕事の方が多いかもしれません。

主にはかつてイギリスのビクトリア時代などに植民地から銘木を運んできて豪華な家具や内装を作っていました。その時の木工技術がベースにあるように思います。

このような道具は日本では全く知られていませんが、西洋のヴァイオリン職人の間でも知られていません。普通ヴァイオリン職人はヴァイオリン職人の世界しか知らないからです。

このようなパーツはとても頑丈なものですが弦楽器では作るものが小さいので大きすぎます。

そこで

何かの部品を流用するわけです。
これは3DプリンターやCNC工作機械に使うものです。と言いながら私は何に使うものか何もわかっていません。
しかし今の時代にはこのようなものがネットで売っています。知らない分野の部品を探すのは難しいですが、かつてはホームセンターに売っているものでしか物を作れませんでした。
このような中国製の部品が手ごろな値段で市販されているので自作派にはうれしいわけです。ちゃんとしたものなら業者間でしか取引はありません。

それでも普通の規格のネジの倍はします。せっかく作るならカッコいい方が良いです。

スピンドルの直径は10mmです。
30万円のワークベンチに使われているものと比べると細いですが、ステンレススチールのネジの棒が10mmもあれば人力ではびくともしません。

このネジのスピンドルには回転でナットが動く速さが3種類あります。遅く動くものほど緻密で微妙な締め付け具合を調整できるのに対し、作業性は悪くなります。
ナットも専用のネジが切ってあるわけです。
一般のネジの規格とは違うため専用のものが必要になります。

モクソンバイスでは厚みが一定ではない木材を挟むことができます。
しかしあまりにも正確に作るとそのような動きをしません。
スピンドルに対して板の穴を大きくしておけば遊びができて融通が利くというわけです。
しかし機構として完成されてはいません。あくまで遊びで何とかなるというものです、昔のものですから。

そこでいろいろな方法を考えました。

このような真鍮の部品を作りました。パイプを切って万力で押しつぶしたものです。

実験用に余った木材で作ったものです。これを穴に埋め込みます。

これで左右に遊びができました。上下方向には遊びはありません。
今回はベンチドックを使いポータブルワークベンチにするためです。

ベンチドッグとはワークベンチとその万力に取り付けて板を固定するものです。かつては四角いもので先端がかぎ状に曲がっていました。犬の顔のようにも見えますが由来は分かりません。
30万円の重量級ワークベンチについてるのが左のもので今回使用するのは右のものです。

こんな仕組みを考えるのにああでもないこうでももないと部品を探したりスケッチを描いて何週間もかかりました。
一番いい解決法はシンプルなものです。
ベアリングを付けたらどうだとかそうなると横方向には弱いとかいろいろ問題が出てきます。

木材に直接ネジがふれていると摩耗して穴がどんどん大きくなってしまう事でしょう。金属同士でも摩耗はしますが木材よりはマシでしょう。グリースをたっぷり塗りましょう。

おおむねこんな感じですね。

ポータブルのための軽量化と強度の妥協点も難しい所です。作りもシンプルなほど優れた設計と言えるでしょう。

なんとかイースターの休日で形にしたいと思います。

ヴァイオリン製作は先生や師匠から一つ一つの工程を教わるのに対して、このようなものを作るのは全く手順が決まっていません。寸法も実際に作りながらこんなものかと決めていきます。

果たして本当にうまくいくのでしょうかね?
すごくおもしろがっているかと言うと実用的なものなのでそこまでではありませんが、こんな部品を見つけたときにアイデアを閃いて調べ始めたのに作らなかったらその時間がもったいないです。

嫌いだったらやらないことでしょう。
こんにちはガリッポです。

音についての考え方の話です。
チェロのエンドピンにはいくつかの素材があります。バロックの時代にはエンドピンの支柱は無く、近現代になってもかつては黒檀などの木材で作られていました(取り外し式)。
現在ではステンレスのスチールのものが主流です。
それに対してカーボンのものがあります。
カーボンの方が高価なのでカーボンに変えると音が良くなるのでしょうか?

ここでよく言われるのが軽いほど音が良いという理屈です。カーボンは軽い素材なので重いスチールよりも音が良いと考える人がいます。この説明は具体的にどんな音なのか何もないのです。

同じメーカーのもので直径も同じ8mmで棒だけ付け替えることができます。

実際にプロの演奏者がスチールとカーボンを付け替えて試奏しました。
すぐにスチールの方が良いと言いました。
おかしいですね、理屈では軽いカーボンの方が音が良いはずです。

私が離れて聞いているとスチールの後にカーボンに変えると、透明感があり柔らかい感じがしました。
それが弾いている本人には反応の鈍さに感じたようです。

物体は素材ごとに特徴的な音があります。値段が高い素材だから音が良いわけでもないし、軽いから音が良いというわけでもありません。
スチールのシャフトを持ってしならせてみるとほとんど微動だにしませんが気のせい程度にはしなる感じがします。カーボンの方ははっきりと弾力があるようです。

エンドピンの構造的な弱さは力の集中する根元にあります。スチールでもグラグラしますが、よりしっかりチェロを支えることができたために反応が良く感じられるという事もあり得ます。素材の持っている音の特徴も金属ですから反応よく感じられるのも想像できます。金属の棒は叩けばキーンと音がよく響きます。手すりなどでは遠くまで伝わります。重いから響かないという事はありません。反応が良く感じられたとしてもおかしくありません。

その後別の弓を使ってチェロを弾き始めました。今度は甲乙つけがたい感じになりどちらが良いか迷っているようでした。子供の時からの常連のお客さんなので両方持ち帰って試してもらうことにしました。

音というのはこのくらい紙一重のことです。現実は理屈のように簡単ではありません。

そんな感じで高価なグッズが出ると「軽いから音が良い」と説明する職人が多くいます。直ちに軽いから音が良いと言うのではなく検証が必要です。生産する工場は素材ごとに違いますから工場の人たちは言われた仕様の製品を作るだけです。カーボンの棒を頼まれたら棒を作るだけで、楽器のことなどは何も知りません。理屈で考える職人が多く「軽いほど音が良い」という理屈が広まっているため、カーボン製のエンドピンなら高く売れるだろうと考えた業者が発注し製品化したというわけです。

聞いていてスチールの方が明るい音だと思いましたが、日本で困ることは高いものは何でもかんでも「明るい音」と説明することです。

今回のケースでは簡単に比較ができる稀なケースです。
別のメーカーのエンドピンとなると取り付けるのに時間がかかります、チェロ側の穴の直径を変えないと取り付けができず、また再び前のものに戻すこともできません。
したがってチューンナップや楽器の製造法では検証が不可能かコストがかかりすぎることが多いです。

アクセサリーパーツや職人が言う音が良い製作方法などを聞くと具体的にどんな音なのか説明がありません。これではユーザーの希望に合わせることができません。現状の音とユーザーの好みによっては正反対になるかもしれません。ただ音が良いと言うだけでさっぱりわかりません。具体性がないので本当か嘘かもわかりません。

世の中の人の多くの人には私のような発想がないようです。
他人が自分とは違う感じ方をするという事が理解できないようですし、音について強いか弱いかしか考えられないようです。

希望する音が人によって違えば誰にでも共通する音の良さなんてものは無いはずです。楽器の音もバラバラですから、求められる変化は真逆になるかもしれません。


さらに多くの人は値段が高いか安いかに惑わされます。
自分の求める音などは無く、「値段の高い楽器から出る音が良い音」くらいに考える人が多くいます。一人の職人が作る楽器の本数は少ないので彼らの間で取引ではクレイジーな値段になります。

特に日本の場合には「明るい音」という謎のワードがあります。
私の所では明るい音や暗い音は単に音についての形容でどちらが優れているという事ではありません、あくまで好みで好きな音を選べばよいというだけです。しかし「明るい音と暗い音のどちらが良いですか?」と聞けば暗い音が良いと答える人が多いです。
暗い音では味わい、深み、コク、暖かみというそんな魅力がありますが、音が強くまたは軽く出ることが何より重要ならそのような要素はどうでもよく気にもしない人もいるでしょう。

日本で音が良いという事が明るい音だと誰にとっても当然のことだと決まっているのなら明るいか暗いかで楽器を評価すれば音の格付けができるでしょう。その基準で真剣に取り組んでいる職人が明るい音を生み出すために技術を進歩させるかもしれません。
しかしそれは日本国内だけのものにすぎず、私の所で話せば「極東の奇妙な趣味趣向」と一蹴されるだけで全く通用しません。日本でもそう思わない人がいるはずです。

さらに実際には音の明るさについてもあいまいです。
安価な楽器でも明るい音のものはいくらでもあります。むしろ高価なオールド楽器では暗い音がします。しかし現実に買いに来る客層が違いますから単に売りたい楽器の音を「ほら明るい音でしょ」とごり押ししているだけです。

つまり音の明るさについてもちゃんと評価していません。
もし「音の明るさ=音の良さ」で評価していたら安価な量産品が上位に来てしまいますからね。一つ嘘をつくことによって幾重にも嘘をつかなければならなくなり、率直に感想が言えない業界になってしまいました。「大人の事情」というやつです。

音の明るさは板の厚みによって説明ができます。明るい音の楽器を製造するために余計なコストや特殊なノウハウは必要なく安価な楽器で明るい音のものがあります。在庫費用が少ない新しい木材ほどそのような傾向になると思います。
新作で暗い音の楽器を作るのは難しいです。つまり安く大量に仕入れやすいものを「明るい音でしょ?」と言って売ってきたのです。



このように誰にとっても共通の明確な基準がないので音の良さを厳格に評価することはできません。


ちなみ安価なチェロにはチープなエンドピンがついていて、古くなるとビリつきが発生することがあります。製品の品質の問題で主に棒の方じゃなくてチェロに固定する部品の方です。
チェロ側の穴もだんだん摩耗してきます。穴を綺麗に開け直してもう一つ部品の軸の太いものに交換します。穴が大きくなりすぎると埋め直さないといけません。
鉛筆のように丸くなった先端を削って尖らせることも可能です。



ヴァイオリンではアジャスターの素材にスチール製とチタン製があります。チタン製のものはものすごく高価です。軽い方が音が良いという考えが広まっているために軽い金属であるチタンのものが作られています。

私の所ではチタン製で品質や機能性の良いものが流通していないのでお勧めできるものがありません。
スチールではウィットナーのものは常に弦のボールエンドがうまく収まります。

ウィットナー社は西ドイツの時代から高品質な製品を低価格で製造してきました。そのような会社は経営難に陥ってしまうのがその後の世界の変化です。近年は急激に値段が上がってGEWAが買収したとの話です。昔のカタログを見ると今の一つの小売り値段がかつての1ダースの仕入れ値です。昔はダース単位で仕入れていました。

私もチタン製のものを試したことがありますが音は確かに違いがあります。しかし良いか悪いかは各自の判断でしかありません。素材の音がそのままという感じです。
合金なので物によって違うでしょうがチタンはスチールに比べて強度がずっと低いです。チタンの方が響きが多く音が周囲に広がり繊細で柔らかい感じがします。それを聞くと良いように思うかもしれませんが軽金属の冷たさも感じます。
スチールの方がしっかりして引き締まり透明感があるように感じました。人それぞれどんな印象を受けるでしょうね?












こんにちはガリッポです。

ガソリンスタンドの表示を見ると1Lの値段が2ユーロを超えています、380円以上です。便乗値上げがえげつないですね。

モクソンバイスの製作も始まっていますが、設計に変更が生じました。
開発というのはそんなものですね、良いものを作るためにはそれもつきものです。

ブナの角材が4本ありました。数も数えられなくなったのではなく下の2本はくっつけてあります。

つなぎ目も見えないですね、これがヴァイオリン職人の技術です。接着には昔ながらのにかわを使っています。木工用ボンドだと粘性があってクランプで締め付けるとグニュッとずれるのです。隙間があっても人工樹脂で埋めるようになっていますが接着剤の厚みの分だけ間が空いて線になってしまいます。にかわは正確に加工しないと隙間を埋めてくれませんが、正確に加工すれば接着力は強力で継ぎ目もこの通りです。
ヴァイオリンの板はたった2~5ミリの厚みでくっつけていますから、これだけ接着面があれば絶対に剥がれません。

ブナはとても硬い木材で普通のDIYでは歯が立たずカンナでは削れないでしょう。
それでもヴァイオリンの木材よりは加工しやすいです。一方私の工具では節のある針葉樹は無理です。
4面が垂直になっていますから、ボール盤で穴をあけたときも真っ直ぐにあきます。


今回はこれで終わりです。
というわけにもいかないので、チェロの話題を。
前回はピラストロのパーペチュアルの話でしたが、セットの日本での定価が84,260円だそうです。
日本のそれでもまだ低いインフレ率を考えずにドイツ本国と同じように値上げしているのでしょう。未だに日本人はお金持ちだと思っているようです。

決して安くはありませんがラーセンのイル・カノーネは74,910円だそうです。代理店からパッケージを省略したラーセンの弦が少し安く入るようになりました。これから使うことが多くなるかもしれません。

ラーセンのチェロ弦と言えば柔らかい音が特徴です。それ以前のスチール弦は金属的で硬い音でした。それでも弾きこんでいくと若干柔らかくなっていきます、そうなると何年も使えました。
一方ラーセンの弦は張ってすぐ週末に本番を迎えられるようになっています。その反面特に高音ほど寿命が短くオリジナルやソロイスト版のA線などは数か月しか持たないものでした。
イル・カノーネではそのあたりも改良されていてそこまで寿命が短いという感じではありません。

柔らかい音で音量もあるのでチェロ自体の音を変えたいというのでなければDirect&Focused版をとりあえず張っておけば間違いないなと感じています。

寿命についてもデータが得られてくると思います。

ただしスピロコア(トマスティク))などを未だに使っているのが普通の地域では心もとなく感じるかもしれません。ラーセンで唯一荒っぽい音がするのがマグナコアでヨーロッパ外の人たちの好みのようです。



こちらはシルベストゥル&モーコテルのチェロです。1907年にパリで作られたものです。
いわゆる工房製のグレードです。

シルベストゥルの兄弟もモーコテルもとても美しい楽器を作った超一流の職人でその息子たちが設立した共同経営の会社だったようです。
父のシルベストゥルもヴィヨームの弟子でこの前のヴィヨーム工房のヴァイオリンと似ています。
他の国ならマスター作品以上のクオリティです。

着色の濃さもシルベストゥルのようです。

いかにもフランスの楽器ですね。フランスのチェロはストラディバリモデルばかりです。ストラディバリのチェロは細長いのが特徴です。
ドイツでも同様でモンタニアーナモデルは作られておらず、流行したのは20世紀の終わりころからで古そうに見えてもアンティーク塗装です、
イタリアではストラディバリモデルの型が入手できずに自己流のモデルのチェロがよくあります。

これぞフランスです。


ストラディバリの特徴を細部までよく研究しています。


アーチはこの前のヴィヨーム工房のヴァイオリンをそのまま拡大したようです。

私が考えているのは、オールドの時代にはこんもりとアーチを作り周辺にチャネリングという溝を彫りました。アマティ派でも同様です。ストラディバリもこの時ヴァイオリンに比べてチェロではそこまで幅の広い溝が彫られませんでした。チェロの方が相対的に狭い溝になっています。これは作業工程による形状の特徴です。
それに対してフランスのチェロではヴァイオリンの形をそのまま拡大したようになっているように思います。

つまりヴァイオリンではちょっとの削りすぎが大きな影響をもたらすので作業工程による癖が強くなります。

ちゃんと形を作りきっているという意味では優れた造形力を持っています。このようなセンスを教えるのは難しいことで息子だからと言って自動的にできるものではありません。間違いなく才能があります。
一方造形センスがなく攻め切れていないイタリアの楽器が倍の値段ですからね。
天才とか何の才能を言ってるのでしょうね。

才能に優れた職人の楽器が欲しいならフランスの無名な職人にもあります。
一方音や道具としての使い勝手なら才能が無い作者のものにも十分可能性があります。

音ですが、極端に個性的なものではなくとてもバランスが整っていると思います。強烈な音ではなく落ち着いています。うまく弾きこなせば良いかもしれません。楽器が勝手に鳴る感じではないです。このため音大生などが求めるものとはちょっと違うかもしれません。

お値段は相場がデータにありません。
しかし同じくらいのヴァイオリンなら3万ドルはすることでしょう。チェロでは最低その倍~2.5倍くらいは覚悟が必要です。そうなると軽く1000万円越えですね。
私がこの仕事を始めたころはその値段で19世紀の一流のフランスの作者のマスター作品が買えました。高くなったものです。

それでもクオリティはミルクールの量産品とは全く違いますしガン&ベルナルデル以上でしょう。同じ時期には既に廃業しカレッサ&フランセが相続しています。それに比べるとまだフランスらしさが残っています。

売りに出すのでほしい人は買いに来てください。

私はいませんでしたが若いプロのチェロ奏者が弾いたそうです。音は大変良かったそうです。

板の厚みを測ってみると表板はどこも同じ厚さで4.5mmほどでした。裏板もコーナーから上と下(アッパーバウツとロワーバウツ)が4.5mmほどで真ん中が急に厚くなる感じです。三色旗のように三つのゾーンに分かれているような感じです。


私は板の厚みはなだらかに厚みが変わっていくようにと教わりました。それを理論化したのはグラデーション理論というものです。

グラデーションになっていると音が良いという理屈ですが完全に嘘ですね。

そもそも音が良いとか悪いではなく、どのように音が違うのか説明しないといけません。このような製作理論はほかの方法を試すことなく頭で考えただけのもので、科学とは正反対のものです。




われわれ専門家の学ぶ知識でさえこの程度ですから必ず音を自分の耳で確かめることが重要です。