遠いデザイン17-3
2001年 夏
五日後、チラシの改訂紙を届けに行った時、亮子のこわばりは七瀬の目に余るようになっていた。たまたまその日はブースの隣席に馴染みの男性職員がいて、三谷が関西系芸能人の一人に似ているとか、突拍子のない話から盛り上がったが、亮子だけは終始、口を閉ざしてうつむいたままだった。
それは自分の浮かれた態度に対する抗議にも思え、七瀬は亮子につけてしまったキズの存在にあらためて気づかされる。
実はあの告白の後、初めて亮子に会った時、元気を失くしている彼女を見て秘かに満足を覚えていた。どんな理由かわからないが、彼女は悩んでくれている、元気をなくしてくれている、それは自分の告白を真摯に受けとめてくれた証しだと思えたからだ。
もし、彼女が以前と変わらない態度で目の前に現れたなら、七瀬はどんなに落胆していただろう。そして、そんな見せかけの明るさ、快活を装えない一面がまた変な意味で亮子に対する信頼を深めていた。
ただ、事態を楽観視していた七瀬にとって、その日目にした亮子は回復の見込みのない重症患者のように見えた。彼は彼女をどこに運んで、どんな手当をしてあげたらいいのか見当がつかなかった。
亮子は、告白する前から、少しはオレに好意のようなものを抱いてくれていたんだろうか? 恋愛対象とはいかないまでも、オレの告白で迷いのようなものができたんだろうか?
いや、そうじゃない、きっと、彼女は驚愕したんだ。思ってもみない男からの愛の告白。それは、まるで横道から飛び出してきた車に当て逃げされたようなものじゃないか。
まてよ、もっと単純に、彼女はただ仕事に支障が出ることを恐れているんだろうか?
想像はあくまでも想像だった。しかし一方で、七瀬は亮子の善意というものをまた信じたくもあった。彼女の落胆がじつは自分の愛に応えてあげられないその一点に根ざしているのだとしたら、それはもう何も問うことのできない善意そのものに他ならないからだ。
七瀬の考えはとりとめがなかった。そして、朝、ケイタイの画面を開くのが怖くなった。もし、そこに亮子からのメッセージが届いていたとしたら・・・・・・。
彼は自分の回りに守るべきものがいっぱいあることを思い知らされた。そして、一刻も早くこの危機が過ぎ去ってくれることだけを願うようになった。一方、亮子に対しては罪悪感だけが残った。自分だけが無傷で血を流すことのないstory。そんな刃物のようなものを振り回して、無防備な彼女を傷つけてしまったことに。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
14年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。