小説の続き書きました。14-1 | 産廃診断書専門の中小企業診断士

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ふじのくにコンサルティング® 杉本剛敏 中小企業診断士事務所の杉本です。私はコピーライターとしてネーミングやコピーを作る一方で、中小企業診断士として企業のマーケティングを支援。2021年、2016年に静岡新聞広告賞受賞。これまでに提案した企画書は500を超えます。

遠いデザイン14-1

 

2001年 春

 

どうしてオレの所に持ってくるんだ。七瀬は舌打ちしながら、エントランスの郵便ボックスから引き抜いてきた大判封筒をソファの上に投げ出した。表に刷られた印刷会社の名前からすぐに察しはついたが、エレベーターの中で確認した中身は、やはりJAの印刷物に使用した多量のポジだった。

七瀬はポジの返却先に迷ったが、自分への返却が三谷の指示だとしたら、メディア通信社に届けたところで二度手間になるのが落ちだ。そっちに任せた仕事なんだから、最後まで責任持ってJAへ納めてくれよ。それは三谷の言いそうなセリフだった。

昨夜、久しぶりに仕事で午前を回ったこともあり、室内にはまだうっすらとタバコの臭いが漂っていた。七瀬はブラインドを引き上げサッシ戸を全開にした。ベランダの隣室との仕切板の隙間から、派手なランジェリーが覗いている。日が落ちる頃、厚化粧をしてエレベーターを下りていくキャバクラ嬢風の隣人が起き出すのは、きまって午後過ぎだった。まだ倦怠を帯びていない朝の街の音が耳に届く。その中にまじって徐々に救急車のサイレンの音が近づいてきた。七瀬は高まる電子音に脅かされ、ベットの中で苦しげに首を振る女の寝顔を想像する。

ポジを何枚かの小袋に入れ直して部屋を出た。エレベーター口へ向かうと、前方に淀んでいた匂いが鼻腔を突いた。角部屋に住んでいるタイ人女が室内でよく焚いているお香の匂いだった。その部屋へ自営業風の中年男が日が高いうちから出入りする姿を七瀬は何度か見かけていた。

マンション裏手の駐車場に停めてある車に乗り込んだ時、これからポジを届けにいく連絡を亮子に入れておこうかとも思ったが、そのまま車を一方通行の入り組んだ路地へと発進させた。彼女が不在でも、受付にポジを預けてくればすむことだった。

まだブランド推進室はあるんだろうか? それともプロジェクト終了とともにチームも解散して、メンバーはそれぞれの職場に戻ったんだろうか?

 亮子と会わなくなってからもう三カ月近くになるが、今再び、七瀬の意識が彼女をなぞってみると、その輪郭が柔らかくぼやけてしまっていることに気づく。そして、ぼやけた輪郭のまわりで、以前、映像室で三谷に茶化されたことや、それを一部の男性職員がした何かの勘違いと結びつけて、変に解釈してしまったことなどが、気恥ずかしく思い返されてきた。

亮子のケイタイの番号こそまだ残してしてあったが、七瀬がそこにかけたことはなかったし、もちろん、彼女からかかってくることもなかった。いっとき七瀬は、亮子という波間で大きな気持ちの揺れを体験したが、すべては予め決められていた予定調和へと収斂していったとみえて、今ではさざ波一つ立っていない。

今になって思えば、彼女がくれたあの土曜日の電話も、わずかの修正でさえ伝えておこうとする彼女の生真面目の裏づけでしかない。なぜあの時、そんな単純なことがわからなかったのか不思議に思う。そして、なぜあんなに彼女の前で身構え続けてしまっていたのかとも。

七瀬は、今日、亮子に会うことができたのなら、言えずじまいだったお礼の言葉を伝えようと思った。久しぶりに受けたまとまった仕事、彼女が担当でいてくれたおかげで、何のトラブルもなく納品できたことを。

 サイドガラスを落とすと、気持ちのいい風が吹き込んできた。六月の梅雨雲の切れ間から顔を見せた陽光が七瀬の気持ちを明るくさせた。

 

 

遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。

 

13年前の2001年が舞台。

中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。

この歳になると。そんなことしか書けませんので…。

地域の産業支援を本格的にやりだしてから、

コピーを前みたいに書けなくなったので、

その手慰みのつもりで書いています。